第3話   温かな食事

   



 ミミス王宮の備蓄庫には、食べ物になりそうな物は残されていなかった。そこに、シュタシス王宮から持って来た荷物をリーネに並べて置いてもらった。


 騎士団達の着替えも置いてある。


 新しい衛生品は、これから役立つだろう。


 中に酒樽があったようで、プリムスは騎士達が喜ぶだろうと言っていた。


 持って来た水が減っていたので、そこに水を足した。


 騎士達がゆっくり休めるように、王宮の中の大浴場に水を入れて、慈愛の熱でお湯を沸かした。


 エルペスも戻って来たので、先に二人でお風呂に入るように勧めた。


 プリムスとエルペスは、戸惑った顔をしたが、お風呂に入って行った。


 着替えは、着ていた物を浄化した。


 騎士団達は、自分たちの食事をしていた。


 そこに、酒樽を持って行った。



「どうぞ、召し上がってください。王宮の中の大浴場に湯を張ってありますので、王子が出たら、順番にお入りになって」


「これは、聖女様、ありがとうございます。お酒までありがとうございます」


「お疲れ様でした。また、明日も炊き出し、お願いします」



 騎士達を労って、王宮の中に戻ると、プリムスとエルペスは、綺麗になっている洋服を身につけ、喜んでいた。


「エリが洗ってくれたのか?」


「浄化しただけですわ。本当は着替えがあった方がいいと思ったのですけれど、持ち出すことが不可能でしたの」


 エリザベートは、密かに動いていたから、できることと、できないことがどうしてもあった。



「ダイニングに行きましょう。どこにあるのかしら?」


「ダイニングなら、この先にあったはずだ」



 プリムスは先導して、ダイニングルームに入った。


 灯りはどうやら、オイルランプのようだ。けれど、そのオイルも切れているようで、室内は暗い。



「リーネ、オイルはあったかしら?」


『あるにはあるが、この部屋を明るくしたいのだな?』


「そうよ」


『少々待たれよ』



 リーネはエリザベートの腕の中から飛び出すと、オイルランプの所に飛び跳ねて行って、一つずつ、灯りを点けてくれる。



「リーネありがとう。そう言えば、お風呂もオイルランプだったかしら?」


『そこも点けてこよう』


「お願いします」



 リーネは飛び跳ねて消えた。



「騎士団の皆さんに、お風呂が空いたと、お話してきますね」


「それは僕が行くよ」



 エルペスは、そう言って、ダイニングを出て行った。


 リーネは直ぐに戻って来た。



「リーネ、ご馳走を出してくれる?」


『ここに並べればいいのだな?』


「そうよ」



 エルペスも戻って来て、ダイニングの扉を閉めた。



「プリムスもエルペスも座って」



 二人は向かい合うように座った。


 テーブルの上にご馳走が並んだ。



「おーっ、すごい」


「これはすごい」



 まだ湯気が立つ豪華な料理を見て、二人は驚いた。



「さあ、食べましょう」


「いただきます」と二人は声を合わせた。



 炊き出しと非常食だけだった二人は、喜んで食べてくれた。



「エリも食べてくれ」


「はい、いただきます」



 朝、シェフが作ってくれた出来たての料理を三人で食べた。


 本当は騎士団の皆さんにも振る舞いたいが、100人以上いる騎士団達の食事の手配は難しい。


 食べ終わった食器を片付けて、オイルランプを消すと、暗い王宮から外に出た。



「オイルが必要なのね?」



 王宮の中の灯りはオイルランプだった。王宮中の灯りを点すほどは、オイルの備蓄がない。


 今夜は野営だと言っていた。



「王宮に泊まれるようにするわ。明日また来ます」


「こんな夜に帰って大丈夫なのか?」



 プリムスは暗闇で、エリザベートを案じている。


 月も星も出ているけれど、やはり夜は暗い。


 リーネを抱いているエリザベートの手は、温かなプリムスに握られている。


 それを嬉しく思う。



「リーネもコルもいるから大丈夫よ。他に欲しい物はあるかしら?」


「今日たくさん、持って来てくれたから、大丈夫だと思う」


「分かったわ。それでは、明日」


「ああ、また明日だ」



 繋がれていた手が離れて、エリザベートはリーネを地面に下ろした。


 リーネの体が大きくなる。



「おやすみ」


「おやすみ」



 プリムスとエルペスの声がした。


 エリザベートは、リーネに跨がると、空に浮かんで消えた。


 エリザベートの体力が戻って来たので、瞬間移動ができるようになったらしい。


 一瞬で、シュタシス王国の王宮のエリザベートの部屋の窓から室内に入った。


 ベッドメイクをしていた、モリーとメリーが吃驚している。


 リーネは素早く子猫の姿になった。



「見た?」


「はい」



 二人ともリーネの姿を見てしまったようだ。



「聖女の秘密なの、誰にも言わないで」


「畏まりました」



 二人は恭しく頭を下げる。



「少し、ダイニングに行って来るわ」


「はい、行ってらっしゃいませ」



 エリザベートはリーネを抱くと、ダイニングに向かった。ダイニングルームに入ると、何も置かれていなかった場所に、食事終えたばかりの食器を出した。


 それから、キッチンに顔を出した。



「すみません」


「エリザベートお嬢様、ご用でしょうか」


「食器を持って帰って来たの。明日も三人分の食事を用意してください。お昼用の食事もあったら、嬉しいわ」


「三人分ですね?」


「はい」



 王宮内を歩いていたら、国王陛下に出会った。



「プリムスは、きちんとしていたかい?」


「はい、今日、ミミス王宮の中を捜索して、遺体を全て外に出しました。国王、王妃、王太子、王太子妃、使用人達を聖なる炎で焼き尽くし、黄泉の国に送りました。生き残っていた貴族も集まり、爵位を剥奪して、シュタシス王国の民になりました。署名と血判ももらっています。プリムス王子は、とても凜々しい姿をしておりました」


「それは素晴らしい」


「国王陛下にお願いがあるのですが、ミミス王宮の中は、オイルランプを使用しているようで、暗くて王宮内で過ごせません。オイルが至急欲しいのです。できたら、お布団も。騎士団の皆さんは寝袋で寝ています。ベッドとはいいません。お布団を人数分用意できますか?プリムス王子とエルペスの着替えもあったら欲しいです。わたしの浄化でも綺麗になりますが、気分的には新しいお召し物の方が、気分がいいと思いますので。いつまでに準備できますか?」


「オイルと布団か、オイルは直ぐに準備できる。着替えも容易い。布団は明日中に手配しよう」


「夜に間に合いますか?」


「間に合わせるのが国王の仕事だろう」



 国王陛下はニヤッと笑う。


 プリムスそっくりの国王陛下のそんな顔を見ていたら、プリムスに会いたくなってしまう。


 心の中の想いを表に出さずに、エリザベートは真面目な顔で国王陛下に伺う。



「それなら、夕方で構いませんか?」


「ああ、夕方には揃えておこう」


「夕方、取りに来ます」


「大量になるが持てるのか?」


「任せてください」


「それなら、頼むよ」


「はい」



 エリザベートは国王陛下の頭を下げた。


 ゆっくり部屋に戻って、お風呂に入る。モリーとメリーが慌てて、お風呂に入ってくる。



「お嬢様、どうぞ甘えてください」


「自分でできるわ」


「髪のお手入れもお肌のお手入れも大切でございますよ」


「お手入れがいるの?」


「勿論でございます。洗えばいい物ではございません」


「それなら、教えてください。自分でできるように覚えます」


「これは、侍女の私どもの仕事ですので、甘えていただきたいですわ」


「そうなの?」



 モリーが髪を洗ってくれる。メリーが手のマッサージをしてくれる。


 髪を洗うと、体も洗ってもらう。その後に、オイルマッサージされて、エリザベートは眠くなってあくびを繰り返す。


 頭皮のマッサージも体のマッサージも気持ちがいい。



「お嬢様、終わりましたよ」


「ありがとう」



 お風呂から上がると、髪を梳かしてもらって、タオルで水気を取ると、温風が出る魔道具を使って髪を乾かしてくれる。


 肌にも化粧水を塗られて、しっとりする。


 歯磨きを終わらせると、「おやすみ」と言って寝室ベッドに横になる。


 リーネとコルが、エリザベートの枕元で一緒に眠っている。




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