第4話 ミミス王国の王宮では
重みの身になったエレナは、まだやっと
ホタモス王太子と国王陛下に守られて、王宮の中心で、のんびり過ごしていた。
エレナは、赤ちゃんができてよかったとホッとしていた。
国では、黒死病という疫病が流行っていて、感染すると発熱と同時に、体中に黒い斑点ができ、酷い場合は皮膚が真っ黒に変色して死んでしまうそうだ。
致死率100パーセントと言われていて、花が枯れるように、人が死んでいく。
感染力が強く、国の議会も早々に行われなくなった。
一刻も早く、聖女様に祈りを捧げて欲しいと宮殿に押しかける国民やミミス王国から逃亡しようと考えている国民もいる。
エレナには、疫病を鎮める力が無い。
願われても、叶わぬ事だ。
偽物の聖女なので、魔道具で雨を一時降らせることくらいしかできない。
王家としては、王宮に押しかけてくる国民を銃殺して追い払っている。
あまりの酷い仕打ちに、国民は王家に反逆心を抱いている。
感染者が出始めた頃に貴族学校も休校になり寄宿舎も閉まっている。それぞれの家に戻され、高位貴族は屋敷に閉じこもり、戦の時のように備蓄品で生きている。末端貴族は、食べる物を集めながら、黒死病に罹っていく。順に貴族社会が崩れていく。
平民に至っては、道で野垂れ死ぬ者も多くいるようだ。
まるで神の怒りに触れたような有様に、王宮にいる王妃は、祈りの間で神に祈っている。
エリザベートを追い出してから、ミミス王国は傾き始めている。
王妃は、やはりエリザベートが聖女であったのではないかと考えている。
籠城して、食べ物が無くなったら餓死して死ぬか黒死病で死ぬかの二択になりかけている。
感染状況は日に日に変わっている。
騎士団の中でも、黒死病が流行りだし、病に罹った者は直ぐに宮殿の外に追い出されて、行き場を無くし、王宮の外で倒れて息絶える者も出てきている。
騎士団の数も日に日に人が減っている。
刻々と黒死病はミミス王国の中枢を狙っている。
「父上、顔に黒いシミが」
国王陛下の周りにいた者達が、ざわっと国王陛下から距離を置く。
「わしは、感染してしまったのか?」
国王は項垂れ、王宮にある離宮に入っていった。
床に伏せ、高熱に魘されている。その国王さえも看病をする者もいない。
一度発病したら、治らないと言われている。
国王と共にいた従者やホタモス王太子も発熱し始めている。
「この国は黒死病で全滅するしかない」
ホタモス王太子は、嘆きの雄叫びを上げる。
「エレナ、エレナ」
ホタモス王太子は妻の名を呼び、エレナは王宮の中を逃げている。
「エレナ、死ぬなら共にあろう」
「嫌です」
ホタモス王太子が宮殿の中を走り回るので、宮殿中に感染をまき散らしている。
「来ないで、来ないで」
とうとう捕まって、エレナは黒い斑点が出てきた夫の顔を押しのける。
エレナの顔にも、ポツポツと黒いシミが広がっていく。
「イヤー」
ミミス王国の崩落の日は近い。
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