第3話 精霊王に相談
両親の墓に花を供えて、祈りを献げた後、プリムス王子が今日の予定を聞いてきた。
「今日は精霊王様に会ってこようと思うの。少しお話をしてみたくて」
「決して、危険な事はしないで、今日は一緒に行けないから」
プリムス王子は、とても心配してくれる。
「リーネもコルもいるから平気よ」
「専属騎士は連れて行かないの?」
「リーネの事は秘密なのでしょう?だったら、連れて行けない」
プリムスは、考えている。
騎士を連れて行けとも連れていくなとも答えられない。
精霊王に愛されたエリザベートは、国の宝と思われるだろう。自分の両親である国王と王妃にも秘密にしている。
欲という物は、人を変えるから、エリザベートの事を政治的に使うと決断されてしまったらと思うと、両親であっても打ち明けられない。
プリムスは自分にもっと力が合ったらと思う。
かといって、放って置くとエリザベートがどこかに行ってしまいそうで、それも心配で仕方が無い。
「エリザベート、お願いだ。危険な事をしないで欲しい」
「危険な事?……うん」
プリムスの言いたい事が分かったのか?分からないのか?エリザベートは取り敢えず、頷いた。
「食事の時間までに戻っておいで」
「昼食?夕食?」
「人は三食、食べるだろう?昼食だ」
「はい」
王宮に戻りながら、昼食の約束を取り付けて、プリムスは少しだけホッとした。
放って置いたら、夕食の時間まで帰って来ないかもしれない。
プリムスはエリザベートを部屋まで送ると、久しぶりに自分の執務室に入り高く積まれた書類を目にして、ため息を付いた。
大量の書類を捌き、会議も行われる。
昼食の約束をしたが、果たして、自分は守れるだろうかと……。
+++
エリザベートは、今日は白いワンピースに白いドロワーズを着ている。
専属騎士は、今日はエッセが来ていた。
精霊王の所には一人で行きたいのだけれど、叔母様に専属騎士は不要ですと言えたらいいのに……。
エリザベートはまず、出かける支度をする。
「お嬢様、どこかにお出かけですか?」
「ええ、森の湖まで行きたいと思っているの」
「そうですか?」
モリーが日焼け予防の帽子を被せてくれる。
リーネを抱き上げて、エリザベートは今来た道を戻っていく。肩にはコルが乗っている。
コルは今日はプリムス王子一緒では無いのか?エルペスも来てくれないのか?遠乗りはできないのか?とずっと聞いてくる。
その都度、返事の代わりに、頷いている。
後方にはエッセがいるので、変に声を出して歩いて行くわけにはいかない。
『心の声で会話をすればいいではないか?』とリーネの声を聞いて、なるほどと納得した。
コルの返事を心の声で、答えていくと、『今日は大変ね』とコルがコロコロ笑う。
本当にその通りだ。
+++
エリザベートが湖に来ると、精霊王が姿を現した。
騎士には、湖に入る道で待っていてくれと頼んだ。
『神に愛された我が子よ。今日は王子達は来ていないのだな?』
『ええ、お仕事があるそうなの。専属騎士が付けられて、自由に動けないのが少し不便だわ。リーネに乗って出歩きたいのですけれど』
『守られておるのだろう』
『そうですね。叔母は過保護なほど、心配してくださいます』
『そうか』
精霊王は、ほほほと、声を上げて笑った。
『精霊王様、小耳にはさんだのですけれど、ミミス王国で疫病が流行していると聞きました。国境を閉鎖しているそうです。わたしは、どうしたらいいでしょう?聖女としてなら、病気になった者を助けるべきだと思うのですが、ミミス王国では、わたしは囚われの身でした。聖女の力を封印して命を守ってきたつもりでした。幸い馬鹿な王子に婚約破棄され、国外追放されています。あの国に戻れば、また囚われの身になるかもしれません。民に責任はないと思うのですが、王家の者は助けたくないのが正直な気持ちです。聖女として間違っていますか?』
『神も怒りを覚えるときがある。そんな時は罰を与える事もある。助けたくないと思うなら助ける必要は無い。民だけ助けたければ、助けに向かえばいい。リーネが神に愛された我が子を助けるだろう』
『精霊王様、ありがとうございます。少し、気分が楽になりました。リーネにミミス王国に連れていってもらいます』
『心優しい我が子よ。心のまますればいい』
『はい』
エリザベートは精霊王に、最大級のお辞儀をした。
精霊王の姿は、消えた。
足元に座っていたリーネを胸に抱き、騎士の元に戻っていく。
「お待たせしました」
「いいえ、湖に何かあるのですか?」
「ええ、とても綺麗なお魚がおりますの。今日は見られなかったようですわ」
「それは残念でしたね」
エリザベートは、どうしたら一人になれるのか考えていた。
どこに行っても専属騎士が一緒に来てしまう。いい人だし親切だし嫌いではないけれど、自由に動けないのは不自由だ。
専属騎士が付いてこられない場所は寝室しかない。
お昼寝と言って、窓から飛び出すのはどうかしら?と考えていると、リーネが『それがいい』と賛同してくれた。
『リーネの足ならミミス王国までどれくらいでいけますの?』
『空を飛べば、それほど時間はかからない』
『リーネは空も飛べるの?』
『姿を消すこともできるぞ』
『姿を消せるなら、窓から飛び出さなくてもどこからでもいけるわね』
『不可能なことは、そうそうない』
『頼もしいわね』
『そうだろう』
リーネは嬉しそうに、心の声の中で笑った。
プリムス王子と昼食の約束をしたので、昼から様子を見に行ってこようかと、エリザベートは思った。
お昼寝作戦にしようと、エリザベートは予定を立てた。
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