第五章 ○○編
―137― やるべきこと
過去の時間軸から元の時間軸に戻ったことで、勇者アゲハに関する問題は一通り解決したとみていいだろう。
とはいえ、俺にはやらなきゃいけないことが他にもたくさんある。
寄生剣傀儡回しのこともそうだし、ナミアの件も解決していない。
手元には、魔王を復活させるのに聖騎士カナリアが使っていた指輪がある。この指輪を使えば、もしかしたら死んだナミアを復活できるかもしれない。
とはいえ、そこまで期待してはいなかった。
死んだ人間を復活させるなんて、そんな都合のいい話がこの世に存在するとは正直思えないから。
「その指輪って、魔王を復活させるのに混沌主義の連中が使っていたやつだよね」
指輪を手で持って眺めていると、勇者アゲハがそう口にした。
今俺たちは、【カタロフダンジョン】内にある隠れ家と呼ばれる吸血鬼ユーディートが住処として作った安全地帯で休んでいた。
勇者アゲハの封印を無事解くことができた俺たちは疲れがたまっているかもしれないので、一旦隠れ家にて休むことにしたのだ。
「あぁ、そうだな」
アゲハの疑問に俺は肯定する。
「その指輪、どうするつもりなの?」
そういえば、アゲハにはちゃんと説明してなかったな。
「殺された幼なじみをもしかしたら復活させることができるかもしれないと思って」
以前アゲハには俺がどういう経緯で、【カタロフダンジョン】の奥地に追放されてたか話していた気がする。
けど、殺されたナミアのことまで話してあったっけ?
「その幼なじみって女?」
間髪入れずに放ったアゲハの問いに俺は眉をひそめる。
なんで、そんなことを聞くんだろうか。
「女だよ」
素直にそう答えると、アゲハは不満そうに口にすぼめた。
「もしかして、その人ってキスカの恋人とかじゃないよね?」
あぁ、なるほど。
どうやら嫉妬しているようだ。
「恋人とかじゃないよ」
確かに、俺とナミアは恋人なんかではなかった。とはいえ、結婚の約束をした仲ではあったが、そのことは隠して置いたほうが良さそうだ。
「それならいいけど……。キスカの今の恋人は私なんだからね。そのことを忘れないでね」
そう言って、アゲハは頬を膨らませる。
それからソファの上で隣り合って座っていたアゲハが寄りかかってきた。
「わかっているよ」
そう頷きつつ、アゲハの頭を撫でると彼女は満足そうに目を細めた。
その仕草が、なんだか猫みたいでかわいい。
とか、思いつつ、しばらくアゲハのさらさらとした髪質を堪能していた。
もし、本当にナミアが生き返って、しかもナミアが俺のことを好きだと改めて言ってくれたら――そのとき、俺はどうするんだろうな。
ナミアを選んだりしたら、アゲハが怒るのは明白だ。
彼女の嫉妬深い性格には散々苦労させられている。
とはいえ、俺にナミアを振るなんてことできるだろうか?
……愚考だな。
ナミアが生き返ると決まったわけではないのに、今からそんな心配事をしたって仕方がないだろう。
「なぁ、本当にこの指輪を使えば、ナミアは生き返るのかな?」
「知らない。けど、試すだけ試してみたらいいんじゃない。もし、不都合なことが起きたらやり直せばいいだけだし」
――だって、私たちには〈セーブ&リセット〉があるんだから。
アゲハは不敵な笑みを浮かべていた。
確かに、アゲハの言うとおりだ。
◆
しばらく隠れ家で休んで、ダンジョンにいつまでもいるわけにいかないため、ここから脱出するべく俺たちは歩き始めた。
とはいえ、一つだけどうしても寄り道したいところがあった。
「これがキスカの言っていた傀儡回し?」
目の前には、化物と化した寄生剣傀儡回しが存在していた。
黒いを影のようなものを全身に纏っており、牙と触手も生えている。魔物からもかけ離れた異形の姿をしている。
「あぁ、そうだ。なんとかして人間にしてやりたいんだが、方法を知らないか?」
「なんで? 人間にしてあげる必要なんてあるの?」
「えっと……」
アゲハの疑問に、狼狽してしまう。とはいえ、事情を知らないアゲハにとっては、そう感じても仕方がないか。
「その、本人がそれを望んでいるんだよ。それに、俺はこいつに恩があるから助けてやりたいんだ」
「そうなんだ」
アゲハは素っ気ない返事をした。本当にわかってくれたのだろうか。
「化物が人間になれると思わないけど」
「それはそうかもしれないが……」
「まぁ、こいつは混沌主義が造った兵器だから、混沌主義の連中に聞けばわかるかもしれないね」
混沌主義が傀儡回しを作ったのは俺も把握していた。
「そもそも、なんのために作られたんだ?」
「そんなの私を殺すためだよ」
「……そ、そうか」
アゲハの答えになんて返すのが正しいのかわからず、思わずぶっきらぼうな返事をしてしまう。
もしかしたら、アゲハにとって自分を殺すために生まれた存在を俺の都合で助けてくれ、だなんて都合が良すぎるのかもしれないな。
「ひとまず、私なりに調べてみるね」
「助けてくれるのか?」
てっきり消極的だと思っていたアゲハの快い返事に驚愕する。
「うん。だって、キスカのためになるなら私はなんだって協力するよ。それに、敵の兵器を調べるのは後々自分のためにもなるでしょ」
「そうか。そう言ってくれると、すげー嬉しい。ありがとう」
「キスカ喜びすぎ。まだなんにも解決してないのに」
それでも嬉しかった。
アゲハがすごいやつってのは十分知っている。そのアゲハが協力してくれるというなら、なにかしら進展するに違いない。
「そうだ。せっかくだし持ち帰ろうか」
「持ち帰る?」
アゲハの言っている意味がよくわからなかった。
「うん、ちょうどいいものを持っているんだ」
そう言って彼女は〈アイテムボックス〉を開いた。
取り出したのは、手首につけるためのブレスレットだった。金属でできているようで光沢がほどこされており、装飾がないシンプルな構造をしている。
「〈運び屋の腕輪〉といって、生きたまま魔物を持ち運ぶためのアイテムなんだけどね。まぁ、見ていて」
アゲハはそう言うと、寄生剣傀儡回しに近づく。
近づかれた寄生剣傀儡回しは獣のように襲いかかってくる。大丈夫か心配に思うが、アゲハなら問題ないだろうと思い直す。
「少しだけ弱らせる必要があるから」
とか言いながら、アゲハは拳を使って攻撃をする。
強烈な一撃だったようで傀儡回しは後ろに仰け反った。これで十分なのか、アゲハは腕輪を傀儡回しに向けると、腕輪は光だし気がつけば、傀儡回しがその場からいなくなっていた。
「うわっ、気持ち悪っ」
アゲハの手には、さっきまでなんの特徴もなかった腕輪が黒く染まっていた。しかも、腕輪は獣のような目が装飾のようについてある。確かに、気持ち悪い。
「キスカがこれを持っていて」
気味が悪い品を持ち歩きたくないのかアゲハがそう言って、俺に手渡す。
「かまわないが」
とか言いながら、腕輪を腕にはめる。
「この中に傀儡回しがいるのか?」
「うん、そうだよ」
「そうなのか」
そう言われても、いまいち実感が湧かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます