―72― 120回

「マジかよ……」


 死ぬのには慣れている。

 けど、傀儡回しに殺されたとなっては流石に動揺を隠しきれない。


「なんで、カナリアが傀儡回しを……?」


 わからない。だが、現に傀儡回しを操っているとこを見せつけられた。

 そもそも聖騎士カナリアは何者なんだ? なんで、勇者を裏切るんだ?

 もしかしたら、聖騎士カナリアを調べれば、傀儡回しを人間にするヒントを得られるのかもしれない。

 次は、彼女のことを少し探ってみてもいいのかもしれない。

 そう決意した俺は、淡々と彼女のもとへ向かうのだった。





「最初に再会するのが貴様とはな」


 聖騎士カナリアは俺の姿を確認すると不満そうにそう口にする。


「貴様はこのダンジョンに詳しいんだろ? だったら、私を案内してくれ」


 彼女と雑談をするつもりはない。

 だから、早速こう口にすることにした。


「取り繕うのはやめろ。お前が魔王の配下なのを俺は知っているんだ」

「――――ッ」


 微かに聖騎士カナリアは顔をしかめる。

 だが、すぐに真顔に戻しては主張する。


「なにふざけたことを言ってるんだ。私は勇者に忠誠を誓った身だ。そんなはずがあるわけないだろ」


 まだ誤魔化すつもりか。

 まぁ、いい。俺は他にもたくさんの秘密を知っているんだよ。


「蘇生させることができる指輪。寄生剣傀儡回し。証拠なら、すでに揃っているんだ」

「………………」


 彼女は俺の言葉聞くと、目を大きく見開いて呆けた表情する。


「くっひっ、ふっはっはははははははぁ」


 そう思うと、今度は不気味な笑い声をあげた。


「なんで、貴様ごときが私の秘密を知っているんだ……?」


 聖騎士カナリアの不気味な笑みに、ゾクッ、と背筋が凍る。

 今まで見たことがない聖騎士カナリアの素顔だ。もしかすると、この姿こそ彼女の本性なのかしれない。


「俺の質問に答えろ、カナリア。寄生剣傀儡回しをどうしてお前がもらっている?」

主様あるじさまからもらったからだ」


 そういえば、蘇生させる指輪も主からもらったと言っていたことをふと、思い出す。


「主というのは、魔王のことか?」


 彼女の主が魔王だというのは、当然の帰結だった。

 なにせ彼女は魔王を復活させるために暗躍し、勇者を殺すんだから。


「我が主を侮辱するなッッ!!」


 突然の怒鳴り声だった。

 あまりにも突然すぎて困惑する。


「いいか、我が主は魔王よりも崇高な存在だぞ! 魔王と比べられることすら、おこがましい」


 聖騎士カナリアの言葉を整理する。

 つまり、彼女の主は魔王でない誰か? つまり、どういうことだ?


「お前は何者なんだ?」

「そうだな、一つだけ教えてやろう。『混沌主義』、それが我々を意味する唯一の言葉で、私は信奉者の一人といったところか」

「その『混沌主義』というのは組織の名か?」

「まぁ、そんなところだな」


 そう答えるや否や、彼女は寄生剣傀儡回しくぐつまわしを展開する。

 どうやら、これ以上話すつもりはないらしい。

 傀儡回しの攻撃になんとか抵抗するも、その抵抗虚しく俺は死んでしまった。





 どうやら聖騎士カナリアは『混沌主義』という組織に属しているらしい。

 その組織のトップは魔王ではないらしい。

 そして、その組織のトップが寄生剣傀儡回しを聖騎士カナリアに渡した。

 これらが会話でわかったことだ。


 これ以上のことを聞き出そうと何度か試してみたが、結果、失敗に終わった。

 肝心なことは教えてはくれないようだ。

 とはいえ、俺のやることは変わらない。

 まず、聖騎士カナリアを倒して、魔王の復活を阻止する。その先に、アゲハや傀儡回しがいるはずだ。

 そう決意した俺は再び前に進んだ。


 試行回数120回目。

 何度も死んでいくうちに、聖騎士カナリアに対する対策が徐々にわかってくる。

 まず、鎧ノ大熊バグベアが多数いる部屋で獲得すべきスキルの精査。

 俺は今まで〈加速〉を選んでいたが、この選択が本当に最善なのか、今一度考えてみることにした。


 死に戻りした直後の俺のステータスはこうなっている。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 所持スキルポイント:2430


〈セーブ&リセット〉

 レベルの概念なし


〈挑発Lv3〉

 レベルアップに必要な残りスキルポイント:1000


〈剣術Lv3〉

 レベルアップに必要な残りスキルポイント:3000


〈誓約〉

 レベルの概念なし


 △△△△△△△△△△△△△△△


 着目すべきは、残っている所持スキルポイント、2430と意外と余っている。

【カタロフダンジョン】のボス、大百足ルモアハーズをアゲハと一緒に倒しておかげで、スキルポイントがこれだけ貯まったのだろう。

〈加速〉を選んだ場合はこのように表示される。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈加速Lv1〉

 レベルアップに必要な残りスキルポイント:50


 △△△△△△△△△△△△△△△


 スキルポイントを50払ってレベルを上げる。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈加速Lv2〉

 レベルアップに必要な残りスキルポイント:500


 △△△△△△△△△△△△△△△


 まだスキルポイントが残っているので、500ポイントを払う。

 すると、今度はこのように変化する。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈加速Lv3〉

 レベルアップに必要な残りスキルポイント:5000


 △△△△△△△△△△△△△△△


 流石に5000ポイントは支払えないので、レベル3で打ち止めだ。

 この状況で、何度も聖騎士カナリアに挑んだが惜しいとこまではいくが、寄生剣傀儡回しを使われると決まって負けてしまう。


 そこで俺は改めて〈加速〉以外の選択肢を考えてみることにした。

 手に入るスキルの一覧はこのようになっている。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 以下のスキルから、獲得したいスキルを『1つ』選択してください。


 Sランク

〈アイテムボックス〉〈回復力強化〉〈魔力回復力強化〉〈詠唱短縮〉〈加速〉〈隠密〉


 Aランク

〈治癒魔術〉〈結界魔術〉〈火系統魔術〉〈水系統魔術〉〈風系統魔術〉〈土系統魔術〉〈錬金術〉〈使役魔術〉〈記憶力強化〉


 Bランク

〈剣術〉〈弓術〉〈斧術〉〈槍術〉〈盾術〉〈体術〉〈ステータス偽装〉


 Cランク

〈身体強化〉〈気配察知〉〈魔力生成〉〈火耐性〉〈水耐性〉〈風耐性〉〈土耐性〉〈毒耐性〉〈麻痺耐性〉〈呪い耐性〉


 Dランク

〈鑑定〉〈挑発〉〈筋力強化〉〈耐久力強化〉〈敏捷強化〉〈体力強化〉〈視力強化〉〈聴覚強化〉


 △△△△△△△△△△△△△△△


 魔術系統のスキルは〈魔力生成〉というスキルが必須なため、却下。

 二つスキルが手に入るなら、〈魔力生成〉となんらかの魔術系統のスキルという選択肢もあるんだが。

 あとは、〈記憶力強化〉といった戦闘力に関与しなさそうなスキルも却下だ。

 となると、おのずと選ぶべきスキルは絞られていく。

 候補は〈回復力強化〉〈隠密〉〈身体強化〉〈筋力強化〉〈敏捷強化〉〈体力強化〉といった感じだな。


 さて、どれを選ぶべきか……?


「まぁ、全部やってみるか」


 なにせ俺には〈セーブ&リセット〉がある。

 失敗すれば、死んでやり直せばいい。


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