―71― やれ
「失敗だったな」
死に戻りした俺はそう呟く。
勇者エリギオンを放置して、聖騎士カナリアに襲ったのは明確に失敗だった。
勇者エリギオンにとって、聖騎士カナリアは信頼できる仲間で俺はさっき出会ったばかりの信用ならない人物だ。
その二人が戦っていた場合、勇者エリギオンがどちらに加担するかは火を見るより明らかだ。
同じ失敗をしないように、まず勇者エリギオンを魔王ゾーガのいる場所まで誘導。勇者と魔王が戦っている間に、聖騎士カナリアを狙う、というふうに丁寧に手順を踏む必要がありそうだ。
だから、勇者エリギオンに関しては簡単に対処可能だ。
問題は、俺の力で聖騎士カナリアに勝てるか否か。
戦ってみた感触としては、俺よりも聖騎士カナリアのほうが強いのは確かだ。
俺のランクはプラチナで聖騎士カナリアのランクは一つ上のダイヤモンドということからも、そのことがわかる。
とはいえ、諦めるのは早計だ。
なにせ、俺には〈セーブ&リセット〉がある。
勝てるまで何度も繰り返せばいい。
◆
聖騎士カナリアに挑むこと、試行回数2回目。
まず勇者エリギオンを魔王ゾーガにいる場所まで送り届ける。
「決着をつけに来たよ」
魔王ゾーガを見つけた勇者エリギオンは嬉しそうにそう口にする。
それから二人の戦いが始まるのを見届けた俺は、急いで来た道を戻る。
これで勇者エリギオンに邪魔されず聖騎士カナリアを襲うことができるようになる。
「貴様、これはどういうつもりだ?」
怒鳴る聖騎士カナリアに対し、俺は問答無用で斬りかかる。
「お前が裏切り者だということを俺は知っているんだよ」
なんてことを叫びながら。
その後、何度か攻撃を繰り返した後、俺は聖騎士カナリアに斬り殺された。
今回は、敗北のようだ。
とはいえ、最初から成功するなんてこっちも思っていない。
俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
◆
試行回数3回目、聖騎士カナリアの突き刺しにより心臓が潰れ死亡。
試行回数4回目、振り下ろされた剣による脳の激しい損傷に死亡。
試行回数5回目、剣をたたき落とされた後、首を刺されて死亡。
試行回数6回目、足を斬られ動けなくなったところ首を切り落とされ死亡。
試行回数7回目、開幕直前に心臓を刺されて死亡。
試行回数8回目、眼球を突き刺された後、胸を斬られて死亡。
試行回数9回目、善戦するも脇腹を刺されたことによる出血多量のより死亡。
試行回数10回目、死亡。
死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡、死亡……………………。
試行回数およそ120回目。
再び俺は聖騎士カナリアに挑もうとしていた。
◆
すでに、何度死んだかよく覚えていない。
多分、100回は聖騎士カナリアに殺されたんじゃないだろうか。
ただ、繰り返せば繰り返すほど、惜しい戦いも増えてきた。
あと、何回か繰り返せば、必ず倒せるはずだ
向かいから聖騎士カナリアが歩いてくる。
彼女はまだ俺の存在に気がついていない。
だったら、やることは一つだ。
まずは、挨拶代わりの不意打ち。
「な――ッ!」
突然現れた俺に聖騎士カナリアは驚愕する。
構わず俺は〈猛火の剣〉を振るう。
狙うは膝。
ゆえに、俺は低い姿勢で剣を横に薙ぐ。
狙い通り彼女はバランスを崩す。
けど、油断してはいけない。すかさず、彼女は剣を縦に振るうことを俺は知っている。なにせ、俺は何百回とお前と戦ってきたのだから。
横に大きくステップからの縦に回転斬り。
肩のこの位置に甲冑の隙間があることを俺は知っている。その隙間に刃物を入れるには、どのように動けばいいのかも俺は知っている。
「あがっ」
彼女が呻き声をあげながら、後ろに仰け反る。
これだ! 今までで一番大きな隙だ。この隙を逃してはいけない。
「〈加速〉」
スキルを使うことで、瞬間、俺の速度が速くする。
この速さを活かして、彼女の右腕を切り落とす。
グシャッ、と右腕が握っていた剣ごと床に落下する。
やった……! 内心、俺は喜ぶ。
右腕を失った剣士なんて戦えないのも同然だ。これで俺の勝ちは確定した。
「貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」
聖騎士カナリアは喉が枯れても構わんとばかりに叫んだ。
その表情には、血管が浮き出ており、怒り狂っていることが容易にわかる。
「ざまぁねぇな」
対して、俺は余裕の笑みを浮かべていた。
怒り狂ったところで、この状況が逆転するわけがないのに。
「やれ、
そう、普通なら逆転するはずがなかった。
「……は?」
なくなった右腕から黒い影のような物体が生えていた。
その黒い影は大きく膨れ上がり、巨大な顎へと変化した。
「食べていいぞ」
聖騎士カナリアは淡々と命じる。
次の瞬間、俺は傀儡回しにより食べられていた。
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