―64― 決着をつけにきたよ
10体の
ここから先のダンジョン構造に関してなら、ある程度わかっているため、迷うこともなく進むことができるはずだ。
だから、目的地に向かって淡々と進んでいく。
と、そんな折、戦闘音が遠くから聞こえてきた。
誰かが魔物と戦っているようだ。
様子が気になった俺はその場に急いで向かうことにした。
「やぁ、キスカくんじゃないか」
「あ、どうも」
魔物と戦っていたのは勇者エリギオンだった。
「まさか、全員とはぐれてしまうとは思わなかった。ひとまず、君と合流できてよかったよ」
勇者エリギオンがそう言う。
やはり彼も転移陣によって他のパーティメンバーとはぐれてしまったらしい。
「それで、これからどうするつもりですか?」
「そうだね、他のみんなも心配だが、今は魔王を捜すほうが先決だ。案内してくれると助かるんだが」
「それは構いませんが」
ダンジョンを案内するのはもちろん構わない。
だが、ダンジョンは広く、そして複雑だ。ダンジョンのどこに魔王が潜んでいるのか見当もつかない以上、どこから捜すべきだろうか。
「その、この階層には三つの転移陣がありまして、それぞれ別の場所に繋がっていまして、どの転移陣を使うのが、最も早く魔王に近づけるのかわかればいいんですが……。全てを手当たり次第捜すとなると、相当日数が懸かってしまうんですよね」
「……なるほど」
俺の説明を聞いた勇者エリギオンは顎に手を添えて考え事を始める。
「まぁ、でも、僕たちはのんびりダンジョンを探索していくしかないね」
あっけからんとした表情で勇者エリギオンはそう言った。
「えっと、そんな悠長に探索していいんですか? 俺たちが探索している間に、魔王がこのダンジョンを脱してしまう可能性とかあるのでは?」
「その心配は野暮だね」
と、勇者エリギオンは断言する。
なぜ、そう断言できるのか、俺には見当もつかない。
「君は勇者がなんなのか知っているかい?」
「……いえ、知りません」
勇者がなんなのか、と問われてもそんなこと考えたことさえなかった。
「いいかい、勇者というのは魔王を倒す存在だ」
「はぁ」
「いいかい、よく聞きたまえ。魔王がいかに強大で、どんなに戦っても勝ち目がなかったとしよう。それでも、勇者はいずれ魔王に勝つんだよ。そこに理屈はない。なにせ、そういう宿命なんだからね。だから、勇者である僕は、このダンジョンで必ず魔王と戦うことになる」
自信過剰ともまた違う。
勇者エリギオンの言葉は、盲信に近いような気がする。
勇者が魔王に必ず勝つとどうして信じることができるんだろうか。
「それでも、勇者が魔王に負けたらどうなるんですか?」
「あり得ない仮定だ。だが、魔王が万が一にも勝った場合、世界は滅びる」
世界が滅びるという言葉を聞いて、胸が高鳴った。
俺は100年後の世界から来た。
それは、世界が滅びる運命から救うためだ。
「魔王の目的が世界を滅ぼすことだからですか?」
「あぁ、そうだね」
俺がこの時代ですべきことがわかった気がする。
魔王を倒しさえすれば、世界は救われる。
「あぁ、後ひとつ、悠長に探していても問題ない理由がある」
「なんでしょう?」
「実は神託があるんだ」
神託。
神からお告げのことだ。それを専用とする施設があり、そこで働いている神官に時折、神がお告げすると聞いたことがある。
「『【カタロフダンジョン】が最後の決戦の地になろう』というのが神託の内容だね」
「そうだったんですか」
思い返せば疑問だった。
なぜ、魔王がこのダンジョンに逃げ込んだことを勇者たちは知っていたのか? だが、そういう神託があったからと言われたら納得だ。
「ともかく、そういうことだから、ダンジョンの案内を頼むよ」
「わかりました」
それから俺たちはダンジョンを進んでいった。
三つの転移陣うちどれを踏むのか悩んだが、まずは一つ目の転移陣、以前踏んだときには封印されたアゲハがいた階層へと続く転移陣を踏むことにした。
選んだ理由は、もしかしたら、アゲハに会えるかもしれないと思ったからだ。
「やはり、いないか」
元の時間軸では、この場所に封印されたアゲハがいたが、そこはもぬけの殻だった。
一体、どこに行けば、アゲハと会えるんだろうな。
「いないって、なにが?」
「あぁ、えっと……」
勇者の質問になんて答えるべき悩んでいたときだった。
それは唐突に現れた。
「随分と早いな」
低くしゃがれた声だった。
なにもなかったはずの空間に、それはいつの間にか立っていた。
「決着をつけにきたよ」
勇者エリギオンは笑う。
「威勢がいいのは嫌いだな、勇者よ」
そう言って、それは苦笑をする。
それは、巨人のように大きく、人外の顔と筋骨隆々で赤黒い肌を持ち、ごつい甲冑を身につけ自分より大きな大剣を手に持っている。
「それじゃ決着をつけようか。魔王ゾーガ」
そう、目に前にいた存在こそが紛れもなく魔王だった。
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