―63― 退屈だった

 複数人で転移陣を踏めばどうなるのか?

 てっきり複数人で転移陣を踏めば、全員同じ場所に飛ばされるんだと思っていた。

 というか、俺より経験豊富なはずの勇者一行たちが、全員バラバラの場所に飛ばされる可能性に思い至っていない時点で、複数人が転移陣を踏めば同じ場所に飛ばされるのが一般的なんだろう。


「まいったな……」


 一人きりになってしまうとは予想外だ。

 これから、どうしたものか。


「グルルッ」


 呻き声が聞こえた。

 見ると、よだれを垂らした鎧ノ大熊バグベアが前方にいた。


「そうだよな」


 イレギュラーなことがあったとはいえ、俺がやるべきことは今までとなにも変わらないはず。


「目の前の敵を倒して、生きてここを出てやる」


 そう、そのことはなにも変わらないはずだ。





 今の俺にはレベル3の〈剣術〉とレベル3の〈挑発〉、そして〈猛火の剣〉がある。

 これだけの要素が揃っていれば、鎧ノ大熊バグベアなら難なく倒せる。


「問題は今いる場所がどこなのかわかっていないことだよな」


 三体目の鎧ノ大熊バグベアを倒した俺はそんなことを呟く。

 確か、初めて【カタロフダンジョン】に来たときは、落とし穴にはまった先に鎧ノ大熊バグベアが大量にいる部屋に閉じ込められたんだっけ。

 その道順通り進めば、ダンジョンの深層に行けるはずだが、前回とは飛ばされた場所が大分違うようで、どこを歩いても見覚えがない光景ばかりだ。


「分かれ道だ」


 順路通りに歩いていたら、道が左右に分かれた場所にたどり着く。

 右に行くべきか、左に行くべきか。


「まぁ、フィーリングで選ぶしかないだろう」


 ということで、右に行く。

 どっちが正解かなんてわからないんだし、なんとなくで選ぶしかない。

 そして、また歩き続ける。

 途中、魔物何体かと遭遇して、そして――


「あっ」


 落とし穴にひっかかる。

 見たことがある光景だ。

 真下には、たくさんのトゲがあった。

 落とし穴を警戒しながら進んでいたおかげだろう。咄嗟に、体を空中でひるがえし、トゲをよけることに成功する。

 立ち上がると、視界の先には隠し通路が出現していた。


「確か、この隠し通路を進んだ先にスキルが手に入る部屋にたどり着くんだったよな」


 そう、スキルが手に入る代わりに大量の鎧ノ大熊バグベアに襲われる部屋に。

 前回この部屋を攻略するために、どれほど死ぬ羽目になったか。

 確か、500回近く死んでようやっと抜けることができたんだよな。

 懐かしい、とか思いながら俺は進み続ける。


「この部屋だな」


 部屋の中央には宝箱が置いてあった。

 宝箱を開けると、宝石ようなアイテムと共に、メッセージが表示される。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈知恵の結晶〉を獲得しました。

 効果が強制的に発動します。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 確か、数秒待っているとメッセージが切り替わるはず。

 そう思っていると、実際に切り替わった。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 以下のスキルから、獲得したいスキルを『1つ』選択してください。


 Sランク

〈アイテムボックス〉〈回復力強化〉〈魔力回復力強化〉〈詠唱短縮〉〈加速〉〈隠密〉


 Aランク

〈治癒魔術〉〈結界魔術〉〈火系統魔術〉〈水系統魔術〉〈風系統魔術〉〈土系統魔術〉〈錬金術〉〈使役魔術〉〈記憶力強化〉


 Bランク

〈剣術〉〈弓術〉〈斧術〉〈槍術〉〈盾術〉〈体術〉〈ステータス偽装〉


 Cランク

〈身体強化〉〈気配察知〉〈魔力生成〉〈火耐性〉〈水耐性〉〈風耐性〉〈土耐性〉〈毒耐性〉〈麻痺耐性〉〈呪い耐性〉


 Dランク

〈鑑定〉〈挑発〉〈筋力強化〉〈耐久力強化〉〈敏捷強化〉〈体力強化〉〈視力強化〉〈聴覚強化〉


 △△△△△△△△△△△△△△△


 ふむ、二回目だとスキルが手に入らないなんて展開も予想したが、そんなこともなく、新しいスキルを入手可能なようだ。

 だったら、遠慮せずスキルをもらおうか。


「なにがいいかな……?」


 やっぱSランクのスキルがいいよな。

 前回は〈挑発〉を駆使して、この部屋を攻略したが、あのとき、他にスキルがなく武器も持っていないという絶望的な状況だったのだ。

 あのときに比べれば、今は恵まれている。

 だから、どのスキルを選んでも問題はなさそうだが……。


「うん、〈加速〉にしようか」


 もっとも戦力を強化できそうな〈加速〉を選択する。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 スキル〈加速〉を獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 そのメッセージが表示された直後、扉が動き閉じ込められる。


「「クゴォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」」


 そして、魔法陣と共に鎧ノ大熊バグベアが呻き声と共に虚空より現れた。

 その数、10体。

 全て経験済み。だから、驚くようなことは一切ない。





「やはり二回目ってのは、何事も簡単なんだな」


 数十分後、俺の周りには斬り伏せられた鎧ノ大熊バグベアが倒れていた。

 戦いはあまりにもあっけないものだった。

〈加速〉を手に入れた俺にとって、鎧ノ大熊バグベアは大した障害ではなかったらしい。

 簡単すぎて、少し退屈だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る