―62― 二つの入口

 勇者たち一行と俺は、早速【カタロフダンジョン】の入口へと向かった。


「あ、ダンジョンに入る前に、お伝えしたいことがあるんですか」


 あることを思い出した俺は立ち止まってそう言う。


「伝えたいこととはななんだ?」


 聖騎士カナリアが鋭い眼光で俺のことを見つめる。

 悪いことはした覚えはないんだが、なんでそんな怖い目つきで俺のことを見るんだろうか。


「えっと、実はこの【カタロフダンジョン】には入口が二つあってですね、一つは目の前にある入口、もう一つはダンジョン奥地に飛ばされる転移陣がありまして……」


 本当は、さらにもう一つ、ダンジョン内と外を自由に行き来できる転移陣があると以前、吸血鬼ユーディートに教えてもらったが、そのときにはすでに、その転移陣は壊されてしまった後なので、場所までは教えてもらってない。

 恐らく、この時代では、その転移陣はまだ壊されてはいないかもしれないが、余計な情報を与えて混乱させる必要もないだろうと思い、言う必要はないだろう。


「それで、俺はこのダンジョンを攻略するために、入口ではなく転移陣を使って中に入ったので、ダンジョン奥地の構造には自信がありますが、逆に入口付近のダンジョン浅層は全く詳しくありません。ですから、俺にはダンジョン浅層の案内は難しいです」


 俺が彼らに案内人として雇われたのは、【カタロフダンジョン】に詳しいからという理由だ。

 だが、冤罪でダンジョン奥地に転移陣で飛ばされた俺にとって、本来の入口を使った先がどうなっているかなんて、知りようがなかった。


「おい、案内できないとはどういうことだ!? それでは、貴様を雇った意味がないではないか!」


 聖騎士カナリアに怒鳴られる。

 確かに、案内できないというのは案内役としては失格だ。こんなことなら、安請け合いするんじゃなかったな。


「カナリア落ち着いて」

「はっ、出過ぎた真似をしました、殿下」


 まだ、なにか非難しようとしていた聖騎士カナリアを勇者エリギオンが窘める。


「キスカくん、情報をありがとう」

「い、いえ……大したことではないです」


 勇者エリギオンは嫌な顔をしないどころか、俺にお礼を口にする。この人、懐も大きいし、見た目もイケメンだし、こういう人が勇者に選ばれるんだろうなと思わせる。


「まず、僕たちが考えなければいけないのは、魔王がどのルートを使ってダンジョンに入ったかだよね」


 と、勇者は顎に手を添えてそう口にする。


「カナリア、魔王が入口を使ってダンジョンに入ったという証言はなかったんだよね」


 勇者と聖騎士カナリアがなにやら相談を始める。


「はい、村人たちから情報を収集しましたが、そのような証言を得ることはできませんでした」

「それって、魔王が転移陣を使って、ダンジョンに入ったと考えるべきなんじゃないかな?」

「確かに、その可能性は十分高いと」

「よしっ、僕たちも転移陣を使ってダンジョンに入ろう。キスカくん、転移陣の場所まで案内してくれるかな?」


 どうやら転移陣を使って中にはいるという結論に落ち着いたようだ。


「転移陣を使って、ダンジョンに入ったら、簡単には外にでることができなくなりますが、いいんですか?」

「大丈夫だよ。僕たち、こう見えて強いからね」


 確かに、無用な心配だった。

 彼らは勇者とその一行だ。どんな冒険者よりも強い集団に違いない。


「では、案内しますね」


 頷いた俺は、彼らを引き連れて転移陣のある場所に向かう。


「この転移陣を使えば、ダンジョン奥地に行くことできるんだね」

「はい、そうです」

「それじゃあ、全員同時に転移陣の中に入ろうか」


 勇者エリギオンの号令により、六人全員が同時に転移陣を踏んだ。

 瞬間、転移陣は目映い光を放ち俺たちを包む。

 次の瞬間には、俺たちはこの場から消え失せていた。





「無事、ダンジョンの中に来られたみたいだな」


 そう呟きつつ、周囲を観察する。

 ダンジョン特有の壁が視界に入る。思惑通り【カタロフダンジョン】奥地のどこかに飛ばされたみたいだ。


「あれ?」


 そう呟いたのにはわけがあった。

 転移陣は六人全員で踏んだはず。

 なのに、周りには誰もいない。

 どうやら俺は一人ぼっちになってしまったらしい。


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