―65― 死闘
魔王ゾーガ。
大剣の使い手で、その力は竜すら一刀両断することができる。
ランクはマスター。序列第五位。
『アリアンヌの戦い』と呼ばれる対戦で魔王軍を率いて戦うも、致命的な敗北に喫する。
それゆえに敗走し、【カタロフダンジョン】へと逃げ込んだ。
というのが、勇者エリギオンが語った魔王に関する情報だった。
そして、たった今、勇者と魔王は会敵したのだ。
勇者と魔王。
この二つ争いは、古来より何度も繰り広げられている。
もちろん時代によって、この二つの存在は代替わりをしている。
100年後、俺の時代では、この時代の勇者と魔王の戦争は『第七次勇魔戦争』と呼ばれてる。
そう、勇者と魔王の戦争は、必ず勇魔戦争と呼ばれ、これが七回目というわけだ。
「それじゃあ、行くよ」
勇者エリギオンそう言いながら、大剣を引き抜く。
ただの大剣ではない。
勇者の持つ剣は、勇者にしか扱えないとされる伝説の剣らしい。
ガキンッ! と、剣と剣がぶつかる音が聞こえた。
見ると、魔王と勇者がそれぞれ剣と剣を打ち合っていた。
「え?」
困惑する。寸刻前まで、二人の間には、決して近くはない距離があった。まさか、一瞬のうちに二人は剣の射程範囲まで移動したというのか。
「目で追うこともできない」
それから勇者と魔王はお互いに剣と剣を打ち付け合う。
けど、動きが速すぎて目で追うことも難しい。
さっきまで、少しでも勇者に協力しようと思っていた自分が愚かしい。
この二人の戦いに自分が割って入るのは不可能だ。
「うん、どうやら先の戦いの怪我は直っているみたいだね。安心したよ。万全でない魔王を倒せなかったらどうしよう、と不安だったんだ」
「こざかしいぞ、小僧が。先の戦いで敗北したのは、俺様が本気を出していなかったからだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、ウォーミングアップはそろそろ終わりでいいかな。これから、本気でいくからついてきてよね」
「言われなくてもわかってるわ! クソがッ!」
え? まだ、本気を出していなかったのか。
二人に会話に驚きを隠せない。
「あ、キスカくん。そこにいたら危ないよ。死にたくないなら、もっと離れて」
「は、はい」
言われた通り、俺は全力で離れる。
次の瞬間、風圧で吹き飛ばされる。
風圧の発生源は、勇者と魔王の剣戟だった。剣同士がぶつかっただけで、なんで風圧が発生するんだよ。
それからも勇者と魔王により死闘が続いた。
◆
勇者エリギオン。
ラスターナ王国の第一王子。
生まれつき、才能に恵まれて文武において、周りを圧倒していた。
そんなエリギオンは、5年前、勇者を勇者たらしめるスキル〈勇者〉を獲得する。
それから5年間にわたる『第七次勇魔戦争』を戦ってきた。
そして、今、魔王を決着つけるべく戦っている。
勇者も魔王もランクはマスター。
対し、順位は魔王は5位に対し、勇者は7位。
順位は負けているが、こちら側が有利であることには変わらない。なぜなら、勇者というのは魔王に絶対に勝つことできる存在だからだ。
「これでもくらえッ」
そう叫びながら、〈聖剣ハーゲンティア〉を振るう。
勇者エリギオンには、剣が上達するスキル〈剣術〉と大剣を片手で持てるようになるスキル〈怪力〉、この二つのスキルを合成させ進化させた〈熟練の大剣使い〉というスキルを持っている。
さらに、勇者には一定時間、身体能力を倍にする〈身体能力倍加〉と呼ばれる最強のスキルがある。
これらを掛け合わせた勇者エリギオンから放たれる一撃はあまりにも重い。
「こざかしいわッ!」
渾身の一撃を魔王ゾーガの大剣に一蹴される。
とはいえ、驚くことはないだろう。魔王なら、この程度防げないと手応えが無くて逆につまらない。
「じゃあ、これならどうかな?」
次の一撃のため、勇者は精神を研ぎ澄ませる。
「聖道式剣技、
そう言って、勇者エリギオンは剣技を繰り出す。
技持ちと呼ばれる武器がこの世には存在する。その武器と契約することで、その武器特有の技を覚えることができるのだ。
勇者エリギオンが手にしている〈聖剣ハーゲンティア〉も、そんな技持ちの武器の一つ。
技を放った勇者エリギオンからは十字型の威光が放たれていた。
その光に包まれたら最後、どんな生命でも駆逐する残酷な光。
まさに規格外の技。
だが、対する魔王ゾーガも規格外の存在だった。
「邪道式剣技、破戒」
魔王ゾーガが持つ大剣、〈邪剣ニーズヘック〉から放たれる技によって、勇者エリギオンの技は受け止められる。
魔王ゾーガから放たれた技はどんな光さえ飲み込む深淵の闇だった。
魔王ゾーガの猛攻は止まらない。
「勇者ぁああ!! これでも、くらえッッ!!」
勇者エリギオンの攻撃をいなした魔王ゾーガは、大剣を振りかざし、必殺技を繰り出そうとしていた。
「邪道式剣技、
魔王ゾーガの持つ〈邪剣ニーズヘック〉が黒い闇に包まれ巨大な剣へと変貌する。あまりの大きさからダンジョンの壁面を巻き込みながら、勇者エリギオンにとどめの一撃を放とうとする。
対して、勇者エリギオンはさきほどの技を放った反動なのか、反応が遅れていた。
このままでは、勇者は魔王によって葬られる。
少なくとも、二人の戦いを遠くから見ていたキスカはそう思った。
「〈セーブ〉」
ふと、勇者エリギオンがそう呟いた。
その言葉あまりにも小さく、少なくとも近くにいた魔王には聞こえなかった。
だが、キスカは、勇者の口の動きを見て、確信とまではいかないものの、〈セーブ〉と言ったのではないかと思った。
次の瞬間、あり得ない事象が起きた。
「は……?」
ありえない現象にキスカは呆然とする。
その事象を端的に表現すると、勇者エリギオンが複数人に分裂したとでも表現すべきだろうか。
だが、事はそう単純ではないことをキスカは把握する。
「時間を何度も繰り返している」
それが、キスカの出した結論だった。
その結論に至れたのは、自分が〈セーブ&リセット〉というスキルを持っているから。
このスキルは勇者を名乗るアゲハからもらったスキルだ。
だったら、同じ勇者であるエリギオンが持っていてもなんら不思議ではない。
勇者エリギオンは何度も時間を繰り返して魔王に勝とうとしている。結果、キスカの目には勇者エリギオンが分裂したように見えているのだ。
分裂したように見えるののは、他の時間軸の勇者エリギオンの残像が残っているからに違いない。
そして、恐らく何度も時間が繰り返していることに魔王ゾーガは気がついていない。
キスカが気がつくことができたのはキスカも〈セーブ&リセット〉を持っているから。
それから成功するまで、勇者エリギオンは何度も時間を繰り返していた。
そして、何百回と繰り返して、ついに勇者エリギオンは魔王ゾーガの胸に大剣を深く突き刺していた。
「ばかな……っ」
それが魔王の最期の言葉だった。
魔王が勇者の手によって討ち取られたのが誰の目にも明らかだった。
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