―34― 喋れたのか……?

 それから、ダンジョン内で一人による特訓が始まった。

 一人で行動するようになってから、いくつか気をつけなくてはいけないことがあった。

 まずは、吸血鬼ユーディートと出会ってはいけない。

 親密になっていない今の状態で出会うと、殺される可能性がある。仮に、うまくやり過ごしてユーディートと仲良くなったとしても、今度はアゲハの亡霊が襲ってくる可能性がある。

 どっちにしろ、そうなったら詰むため、出会わないことが最善。

 だから、ユーディートとは出会わないように気をつけながら、隠れ家を利用したり、魔物の討伐をひたすら行なう必要がある。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 スキルポイントが使用されました。

 レベルアップに必要な条件を達成しました。

 スキル〈剣術〉はレベルアップしました。

 剣術Lv1 ▶ 剣術Lv2


 △△△△△△△△△△△△△△△


 特訓を始めて半日、早速〈剣術〉スキルをレベル2にあげることに成功していた。


「効率が悪いな……」


 ボソリ、と呟く。

 このダンジョンのボスは吸血鬼ユーディートでも倒せないほど、強力らしい。

 ということは、最低限吸血鬼ユーディートよりも強くならないと、ボスを倒すことはできないってことだ。

 だったら、このペースでは駄目だ。

 このペースでレベル上げをしていたら、いつまで経っても、このダンジョンのボスを倒せるようになるまで強くなれない気がする。


 もっと効率よくスキルポイントを稼ぐ手段を編み出す必要がある。


『なにか、お困りのようだね』

「あ?」


 突然の呼びかけに驚く。

 慌てて周囲を見回すが、誰も存在しない。


『ご主人、俺様はここだぜ』


 声が聞こえたのは、手にしていた〈黒の太刀〉からだ。

〈黒の太刀〉は寄生剣傀儡回の形態の一つ。つまり、傀儡回が喋っていることになる。


「お前、喋れたのか……?」


 今まで、傀儡回を使っていて、こうして話しかけられたことはなかったため、正直驚く。


『んー、俺様もちょっと驚きかな? 喋ることができるようになるには、もう少し時間がかかると思っていたけど……。よほど、ご主人の魂と相性がいいのかもな』

「なるほど、そうなのか」  


 俺の魂と相性がいいから喋ることができるようになったか。

 傀儡回の主張とは別に、もう一つの可能性に俺は行き当たった。もしかしたら、今まで散々、傀儡回を使ってきたのがどこかに蓄積されていて、結果こうして喋ることができるようになったのかもしれない。


『それで、ご主人、一体なにに困っているんだい?』


 傀儡回が喋ることができるようになった原因に関して、今考えても仕方がないので、それよりも、今直面している問題に思考を向ける。


「そのだな……もっと、スキルポイントを効率よく稼ぎたいんだが。なにか、いい方法がないかな?」

『あぁ、それなら、効率よくスキルポイントを稼げる隠し部屋の場所を俺様、知っているぜ』

「ほ、本当か!?」


 そんな隠し部屋の存在、吸血鬼ユーディートも口にしたことがなかった。


『ひとまず、場所まで案内するから、俺様の指示に従ってくれよ、ご主人』


 それから、傀儡回の案内のもと、俺はダンジョン内を歩いた。

 スキルポイントを効率よく稼げる場所というのは、吸血鬼ユーディートが根城にしている場所より、上の階層にあるようだった。


『確か、この辺りの壁に手を当てると隠し部屋が出現すると思ったんだけどなー』


 ということなので、近辺の壁を闇雲に触っていく。

 ガチ、とスイッチのようなものを押した感触が手に伝わる。

 すると、音を立てながら隠し部屋まで繋がっているであろう扉が出現した。


「なんで、こんな場所を知っていたんだ?」

『あー、前のご主人が偶然みつけたんだよ』


 なるほど、それなら納得できる。

 にしても、吸血鬼ユーディートも知らないであろう隠し部屋がまだあったとはな。


『ご主人、一応忠告しておくぜ。俺様、この部屋にどんな魔物が待ち構えているのか知っているんだけど、正直、今のご主人では絶対に殺されるよ』

「そうか、忠告ありがとう」


 そう言いながら、俺は隠し通路へと入っていく。


『意外だね。一切躊躇しないで、中に入るなんて』

「まぁ、殺されることには慣れてるんだよ」

『あははっ、つまんないジョークだね』

「そうかもな」


 そう言いつつ、俺は密かに誓っていた。

 何回死んででも、この隠し部屋に潜んでいる魔物を倒してやろう、と。


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