―33― 君に従うことにするよ

 吸血鬼ユーディートと過ごした時間は濃厚だった。

 彼女から教わったことは数え切れないほどある。

 ダンジョンのおおまかな構造、隠れ家の場所、隠し通路や隠し部屋の場所、そして、スキルを入手できる宝箱の場所。

 他にも、剣を使った戦い方。

 最も大きいのが、寄生剣傀儡回くぐつまわしの制御の仕方。

 ユーディートと築いてきた関係はなくなったが、教えてもらった知識がなくなるわけではない。


 早速俺は、傀儡回くぐつまわしが置いてある場所まで繋がっている転移陣を使う。


「確か、柄を握ってはいけないんだったな」


 柄を握ると体を乗っ取られてしまうため、剣先を握る。

 その上で、剣先から喉の奥につっこむ――。

 体の中に傀儡回くぐつまわしをいれた途端、俺の意識は途切れる。そうだ、前回もこんな感じだった。





 目を開けると、そこは異界の空間が広がっていた。

 確か、深層世界というんだったか。


「やぁ、初めましてかな? ふむ、なぜだろう? 君とはどこかで会った気がするな」


 見ると、目の前には傀儡回くぐつまわしが立っていた。

 傀儡回くぐつまわしの見た目は、ぼやけた暗闇に目や耳、口といった体のパーツが無作為についているという、なんとも奇妙なものだ。


「頼みがある。俺に力を貸してくれ」


 確か、前回はこうやって頼むとあっさりと承諾してくれた覚えがある。


「ふむ、どうしようかな……?」


 だから、傀儡回くぐつまわしが悩んだ素振りをした瞬間、動揺を覚えた。


「なにが問題なんだ?」

「いやね、俺様にも目的ってのがあって、君に従えば、その目的を果たせるのか考えていたのさ」

「その目的ってのはなんだ?」

「人間になること」


 傀儡回くぐつまわしはそう断言する。


「俺様が人に寄生するのは、その人の体を奪うことで人間になれるんじゃないかと、考えているからなんだよね」

「じゃあ、俺に制御されたら人間になることができないのか?」

「んー、どうだろ? そもそも、今までたくさんの人間に寄生してきたけど、人間になれたためしはないからね。案外、君に支配されたほうが、人間に近づけるかもしれない」

「じゃあ、俺の物になるってことでいいか?」

「あぁ、いいよ。君には、なにか運命的なものを感じる」

 

 意外にも素直に言うことを聞いてくれそうだな。


「君に従うことにするよ」


 傀儡回がそう告げた瞬間、深層世界が崩れていき、気がつけば、さっきまでいたダンジョンの通路に足を下ろしていた。



 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 スキル〈寄生剣傀儡回くぐつまわしあるじ〉を獲得しました。

 派生スキル〈黒の太刀〉を獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 というメッセージウィンドウが表示される。

 これで無事、寄生剣傀儡回を操れるようになった。





 それから、俺は二つのスキルを入手すべく動いた。

 ユーディートと共に行動していたとき、遭遇する魔物はユーディートが倒してくれたが、今回は俺一人で行動する必要がある。

 極力魔物とは戦わないように慎重に、それでも戦う必要があるときは〈黒の太刀〉を使って、魔物の討伐をする。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 魔物の討伐を確認しました。

 スキルポイントを獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


「ふぅ」


 魔物の討伐できた俺は、一息する。

 Lv3の〈剣術〉スキルがあったときは、もっと楽に倒せたんだがな。

 とはいえ、剣の扱い方といった経験はちゃんと活かすことができている。だから、今までの特訓が全て無駄ってわけではない。


 それから、俺は宝箱のある隠し部屋へと突き進んだ。

 確か、ここの壁を押すと、隠し通路が出現するはずだ。


 目論見通り、一見なんの変哲もない壁が開いて、通路が出現した。

 そのまっすぐ進むと、宝箱が置いてある。

 宝箱を開けると、〈知恵の結晶〉が手に入り、そして、入手可能なスキル一覧が表示される。


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 スキル〈剣術〉を獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 前回同様、〈剣術〉スキルを獲得する。


「よしっ、次は〈英明の結晶〉だな」


〈英明の結晶〉は、ランダムで一つのスキルが手に入るというもの。

 前回はこのアイテムで〈属性付与〉を入手したんだ。


 けど、結局、〈属性付与〉を使う機会はなかったんだよな。

 って、考えたら、今すぐではなく、後回しでもいいのかもしれない。

〈英明の結晶〉が入っている宝箱はボスのいる部屋の手前の部屋にある。だから、取りに行くのに時間と危険が伴う。

 無理して、取りに行く必要もないだろう。


 それよりも、〈剣術〉スキルのレベルをあげることに専念しよう、と今後の方針を固めた。


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