―20― まぁ、でも、いいか……

「あ……」


 また、時間がまき戻った。


「なんだよ……」


 なんで、こう何回も殺されなくちゃいけないんだよ。

 吸血鬼ユーディート。俺を殺した存在の名だ。

 そういえば、アゲハがダンジョンにある隠れ家は吸血鬼が作っていたと言っていたな。


「くそっ」


 そう言葉を吐き捨てながら、三つ目の転移陣にのる。

 今度こそ、なにもなければいいんだが。


 三つ目の転移陣で飛ばされた先は、今まで同様一本道が続いていた。

 だから、それに従って歩く。


 すると、一本の剣が地面に突き刺さっていた。

 ただの剣ではない。

 刀身は黒く、装飾も随分と豪華だ。


 なんだろう、この剣は……?

 そう思いながら、観察する。

 正直、武器1つ持っていない今の状況はとても心苦しい。使っていいというなら、ありがたく使わせてもらいたいが、しかし、こうもあからさまに置いてあると罠のようにも思えてくる。


「まぁ、試しに使うぐらいいいよな」


 と、軽い気持ちで柄を握る。


「あ、がぁ……ッ」


 握った瞬間、全身に激痛が走った。

 ダンジョンに潜ってから、こんなのばかりだ。


「あが……ッ、くそっ! なんで、こんな目にばかり遭わなきゃいけないんだよ!」


 激痛を少しでも紛らわそうと、言葉を吐き捨てる。

 激痛は数十分ほど続いた。

 それに、ずっと耐え続けて、いつの間にか、俺は気を失っていた。



「あっ」


 目を覚ます。

 自分が地面に寝転がっていることに気がつく。

 周囲を見回すと、黒い剣が立てかけてた場所にいることに気がつく。どうやら、気を失っただけで、死んだわけではないらしい。


「散々な目にあったな」


 そう呟きながら立ち上がろうとする。

 体が異様に重い。


「あっ?」


 右腕がおかしなことになっていた。

 というのも、形容しがたい見た目に変形していた。黒い剣と右腕がくっついてしまったというべきだろうか。

 右腕が先端に近づくにつれ、黒い硬質な物質へと変わり、そして、鋭くなっている。あと、腕の長さが異様に長くなってしまっている。


「めちゃくちゃ重いじゃねぇか」


 右腕を動かそうとして、そのことに気がつく。

 これでは満足に腕を振ることもできない。


「くそっ、このまま進むしかないのか……」


 そう思って、前に進む。

 黒い右腕を満足にあげることもできないので、地面に引きずりながら。



 進むと、一体の魔物と遭遇した。


「グウ……ッ!」


 その魔物は警戒しながら、俺のことを睨みつける。

 A級難度の魔物、人狼ウェアウルフ。巨大な爪を持った二足歩行する狼方の魔物。

 

「マジかよ……」


 この状況でどうやって戦えばいいんだ。

 右腕が重いせいで、逃げることさえままならないっていうのに。

 また、死ぬのか……。

 半ば諦めていた。

 だって、どう考えても勝てっこない。


「あ……?」


 一瞬、なにが起きたかわからなかった。

 右腕が勝手に動き出したのだ。そして、剣先が人狼ウェアウルフのほうを向いた。


「え?」


 剣と化した右腕が前方へと勢いよく引っ張る。おかげで、俺自身も引きずられる。

 

 ズシャ――ッ、と黒い剣が人狼ウェアウルフを切り裂いていた。


「なんだ、こりゃ……?」


 意味がわからない。

 まるで、剣そのものに意思があるかのように自立して動いたのだ。


「まぁ、でも、いいか……」


 ダンジョンを出られるなら、どんな方法に頼ったっていいと思っている。

 それが、この禍々しい不気味な剣だとしても。


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