―19― 罪

 死因は自殺だった。

 俺の寝ている近くで首を吊って死んでいた。


「おぇっ」


 たまらず、その場で吐く。

 ……意味がわからない。

 好きな人に嫌われたから死んだってことか。

 なんだよ、それ……。

 まるで、俺が悪いみたいじゃないか。


「意味わからん」


 そう呟く。

 俺はなにも悪くないと暗示したかった。

 そう、これは事故のようなものだ。


 それから、俺は彼女を下ろす。死体だからか、非常に重たかった。

 ホントは埋葬すべきなんだろうが、ダンジョン内でそんな場所があるはずもなく、俺は彼女をベッドに寝かした。


 そして、隠れ家を出る。


 それから、間もなく俺は複数の魔物に取り囲まれた。

 俺がここまでこれたのは、アゲハの助力があったから。

 そのアゲハがいない今、突破できるはずもなく、その後、俺は無残にも死んだ。





「うっ」


 意識が覚醒して、死に戻りしたことを把握する。

 俺は宝箱の部屋の中にいた。

 気分はどうしても重い。俺の選択のせいで、一人の少女が命を絶ったのだ。


 俺はどうすればよかったんだ?

 彼女の愛を受け入れるべきだったのか?

 でも、俺にはナミアがいる。ナミアがいるのに、アゲハを選ぶのは不誠実なんじゃないのか? いや、ナミアはすでに死んだのだ。不誠実もくそもあるか。

 アゲハは客観的に見て、かわいいと思うし、俺を慕ってくれるのも悪い気分ではない。

 だったら、アゲハを受け入れるべきなんだ。

 そう、だから、俺が間違っていた。


 気がつけば、再び、彼女が封印されている結界のところに来ていた。


 再び、手を伸ばす。

 すると、前回同様、結界が割れる。

 あまりにもあっけなく言える。

 今度こそ、彼女を受け入れてあげよう。


「……誰だ?」


 ふと、目覚めた彼女はそう告げる。


「キスカだ」

「キスカか。聞いたことがないな。だが、なぜだろうな? 貴様からは嫌な臭いがする」


 なんだろう、この違和感は?

 目の前の、存在がアゲハとは別人のように思える。見た目はアゲハのはずなのに。


「お前は、アゲハか?」


 だから、そう尋ねていた。


「あぁ、なるほど。貴様とは初対面ではないってことか」


 ふと、納得したかのように彼女はそう口にする。

 確かに、初対面のはずの俺が彼女の名前を知っているということは、〈セーブ&リセット〉のスキルのことを知っている彼女なら、俺が時が戻る前に彼女と会っていたと推察するのは当たり前か。


「そして、察するに、貴様、前回にて我々に対し、敵対的な行動をとったな。だから、貴様から嫌な臭いがするわけか」

「ま、待て、誤解だ。俺はお前の敵なんかじゃ――」


 言葉を言い終えることができなかった。

 なぜなら、彼女が俺の首を握っていたから。


「いいか、よく聞け。死ねば、全てが元通りだと勘違いするんじゃないぞ。死んでも、貴様の行動は魂に刻まれている」

「お、お前は誰なんだ?」

「我の正体を貴様のような邪悪な存在に話すわけがないだろ」

「アゲハと話をさせろ」

「嫌だ。アゲハは貴様を拒絶している」


 なんだよ、それ……。

 どういうことだよ。


「忠告だ。もう、アゲハには関わるな」


 そう呟くと同時、彼女は俺の首をへし折った。





「い、意味わからん……」


 意識を覚醒させ、死に戻りしたことを理解する。

 アゲハの姿をした何者かに、俺は殺されたのだ。

 

『今後、一切、アゲハには関わるな』


 という言葉が頭の中を反響する。

 あぁ、わかったよ。そういうことなら、アゲハの元には戻らないし、封印を解くこともしない。これでいいんだろう。


 とはいえ、アゲハの助力がない状態でダンジョンを突破するのは難しい。

 ってことを考えると、なにか他の方法を探す必要がありそうだ。


「他の転移陣を踏んでみるか」


 アゲハの場所へと続いている転移陣とは、別に、二つの転移陣があった。

 その転移陣を踏んだ先に、この状況を打破するなにかがあるかもしれない。


 そう決意した俺は二つ目転移陣を踏んだ。





 転移した先も一本道が続いていた。

 だから、それに従って歩く。


 すると、視線の先あるものを見つける。

 テーブルに椅子、そして、椅子に座っている女の子。

 その女の子はどこかご令嬢のようなった派手な格好をしていた。


「あら、珍しいですわね。この場所に、侵入者が入ってくるなんて」


 そう言った彼女は紅茶をすすっていた。


「えっと……」


 あまりにもダンジョンにそぐわない行動に、困惑する。

 一体、彼女は何者なんだ?


「それで、こんなところに一体何のようかしら?」


 そう言って、彼女はこっちを見る。


「その、ダンジョンの外に出るための出口を探しているんだけど」


 と、俺は正直に答えることにした。

 もしかしたら、彼女が出口の位置を教えてくれるかもしれない、という期待を込めて。


「あぁ、なるほど……」


 彼女は納得した仕草をする。

 そして――


「無礼ですわね。わたくしをかの偉大たる真祖の吸血鬼、ユーディートと知っての態度とは思えないかしら」

「――は?」


 いつの間にか彼女は俺の目の前にいた。

 そして、深紅の刀を俺へと突き刺していた。


「その罪、死をもって償いなさい」


 その言葉が聞こえたと同時、俺の意識は暗転していた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る