―19― 罪
死因は自殺だった。
俺の寝ている近くで首を吊って死んでいた。
「おぇっ」
たまらず、その場で吐く。
……意味がわからない。
好きな人に嫌われたから死んだってことか。
なんだよ、それ……。
まるで、俺が悪いみたいじゃないか。
「意味わからん」
そう呟く。
俺はなにも悪くないと暗示したかった。
そう、これは事故のようなものだ。
それから、俺は彼女を下ろす。死体だからか、非常に重たかった。
ホントは埋葬すべきなんだろうが、ダンジョン内でそんな場所があるはずもなく、俺は彼女をベッドに寝かした。
そして、隠れ家を出る。
それから、間もなく俺は複数の魔物に取り囲まれた。
俺がここまでこれたのは、アゲハの助力があったから。
そのアゲハがいない今、突破できるはずもなく、その後、俺は無残にも死んだ。
◆
「うっ」
意識が覚醒して、死に戻りしたことを把握する。
俺は宝箱の部屋の中にいた。
気分はどうしても重い。俺の選択のせいで、一人の少女が命を絶ったのだ。
俺はどうすればよかったんだ?
彼女の愛を受け入れるべきだったのか?
でも、俺にはナミアがいる。ナミアがいるのに、アゲハを選ぶのは不誠実なんじゃないのか? いや、ナミアはすでに死んだのだ。不誠実もくそもあるか。
アゲハは客観的に見て、かわいいと思うし、俺を慕ってくれるのも悪い気分ではない。
だったら、アゲハを受け入れるべきなんだ。
そう、だから、俺が間違っていた。
気がつけば、再び、彼女が封印されている結界のところに来ていた。
再び、手を伸ばす。
すると、前回同様、結界が割れる。
あまりにもあっけなく言える。
今度こそ、彼女を受け入れてあげよう。
「……誰だ?」
ふと、目覚めた彼女はそう告げる。
「キスカだ」
「キスカか。聞いたことがないな。だが、なぜだろうな? 貴様からは嫌な臭いがする」
なんだろう、この違和感は?
目の前の、存在がアゲハとは別人のように思える。見た目はアゲハのはずなのに。
「お前は、アゲハか?」
だから、そう尋ねていた。
「あぁ、なるほど。貴様とは初対面ではないってことか」
ふと、納得したかのように彼女はそう口にする。
確かに、初対面のはずの俺が彼女の名前を知っているということは、〈セーブ&リセット〉のスキルのことを知っている彼女なら、俺が時が戻る前に彼女と会っていたと推察するのは当たり前か。
「そして、察するに、貴様、前回にて我々に対し、敵対的な行動をとったな。だから、貴様から嫌な臭いがするわけか」
「ま、待て、誤解だ。俺はお前の敵なんかじゃ――」
言葉を言い終えることができなかった。
なぜなら、彼女が俺の首を握っていたから。
「いいか、よく聞け。死ねば、全てが元通りだと勘違いするんじゃないぞ。死んでも、貴様の行動は魂に刻まれている」
「お、お前は誰なんだ?」
「我の正体を貴様のような邪悪な存在に話すわけがないだろ」
「アゲハと話をさせろ」
「嫌だ。アゲハは貴様を拒絶している」
なんだよ、それ……。
どういうことだよ。
「忠告だ。もう、アゲハには関わるな」
そう呟くと同時、彼女は俺の首をへし折った。
◆
「い、意味わからん……」
意識を覚醒させ、死に戻りしたことを理解する。
アゲハの姿をした何者かに、俺は殺されたのだ。
『今後、一切、アゲハには関わるな』
という言葉が頭の中を反響する。
あぁ、わかったよ。そういうことなら、アゲハの元には戻らないし、封印を解くこともしない。これでいいんだろう。
とはいえ、アゲハの助力がない状態でダンジョンを突破するのは難しい。
ってことを考えると、なにか他の方法を探す必要がありそうだ。
「他の転移陣を踏んでみるか」
アゲハの場所へと続いている転移陣とは、別に、二つの転移陣があった。
その転移陣を踏んだ先に、この状況を打破するなにかがあるかもしれない。
そう決意した俺は二つ目転移陣を踏んだ。
◆
転移した先も一本道が続いていた。
だから、それに従って歩く。
すると、視線の先あるものを見つける。
テーブルに椅子、そして、椅子に座っている女の子。
その女の子はどこかご令嬢のようなった派手な格好をしていた。
「あら、珍しいですわね。この場所に、侵入者が入ってくるなんて」
そう言った彼女は紅茶をすすっていた。
「えっと……」
あまりにもダンジョンにそぐわない行動に、困惑する。
一体、彼女は何者なんだ?
「それで、こんなところに一体何のようかしら?」
そう言って、彼女はこっちを見る。
「その、ダンジョンの外に出るための出口を探しているんだけど」
と、俺は正直に答えることにした。
もしかしたら、彼女が出口の位置を教えてくれるかもしれない、という期待を込めて。
「あぁ、なるほど……」
彼女は納得した仕草をする。
そして――
「無礼ですわね。わたくしをかの偉大たる真祖の吸血鬼、ユーディートと知っての態度とは思えないかしら」
「――は?」
いつの間にか彼女は俺の目の前にいた。
そして、深紅の刀を俺へと突き刺していた。
「その罪、死をもって償いなさい」
その言葉が聞こえたと同時、俺の意識は暗転していた。
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