第二章
―16― 外にだしてあげる
「やばいっ、やばいっ、やばい……っ!」
ダンジョン内にて、俺はそう叫びながら走っていた。
追ってくるのは、Aランクの魔物、
炎をまとった頭のないラバ型の魔物だ。
この階層には、多数の
だから、全力で走って逃げていたが、正直追いつかれそうだ。
「あっ」
そう呟いたときには、俺の体は体当たりにより、死んでいた。
◆
「は……っ」
時間が巻き戻ったことを把握するが、いつもと違う光景が広がっていた。
今、まさに、俺は宝箱のあった部屋を出ようとしていた。
以前なら、死ぬ度に、最初に出会った
どうやら、死に戻りするポイントが更新されたようだ。
まぁ、また死ぬ度に、
とはいえ、この新しい階層を攻略しないと次には進むことができない。
また、新しい苦難が待っているんだろうな。
◆
試行回数およそ520回目。
まず、上の階層や下の階層に行くための階段は見当たらなかった。
その代わりにあったのが――
「転移陣だよな……」
目の前には床に幾何学的な紋様があった。
恐らく、踏めば、違う場所に飛ばされる転移陣に違いない。
「ここにも転移陣がある」
転移陣の数は一つだけではなかった。
「全部で、三つの転移陣があるな」
次に進むためには、この三つのうち、どれか一つの転移陣を踏む必要があるんだろうが、まいったな、どれが正解なのか見当もつかない。
悩む必要はないだろ。
間違えた転移陣を選んだら、どうせ死んで死に戻りするんだろうし。
だから、俺は目の前の転移陣を躊躇なく踏んだ。
飛ばされた先は一本道が続いていた。
なので、ひたすら前に進む。
すると、明らかダンジョンにそぐわない物がそこにはあった。
「女の子……?」
といっても、ただ女の子がそこにいたわけではない。
その女の子は眠っており、その周囲には外に出られないように結界に覆われている。その上、鎖のようなものが彼女の体に巻き付いていた。
「きれいだ……」
思わずそう呟く。
その少女は端正な顔立ちに、白い肌を持っていて、今まで見てきた女の子の中でも突出して美しかった。
その少女は白いレースが目立つ服を身につけている。
無意識のうちに、俺は手を伸ばしていた。
パリン、とガラスが割れるよう音が響く。
「あっ」
まさか、結界がこうも簡単に壊れると思わず半歩後ずさる。
結界が壊れると同時、彼女はカクリと体を動かす。
その上、彼女はゆっくりとまぶたを開けた。
「あぁ、あなたが私を起こしてくれたのね」
どこかで聞いたことがある声だった。
あぁ、そうだ。
「お前が、俺にスキルをくれたのか」
「ええ、そうよ」
彼女は肯定する。
「……何者なんだ?」
「アゲハ・ツバキ。封印された元勇者ってところかしら。あなたのお名前は?」
封印された元勇者? なんだ、それは? と思いつつ、質問に答えた。
「キスカだ」
「キスカ。いい名前ね」
そう言って、彼女は俺を見回すように観察する。
「ねぇ、少ししゃがんでほしいかも」
「はぁ」
意図がわからずも、言われた通りそうする。
「んっ」
目を見開く。
気がつけば、彼女は俺に唇を重ねていた。
「おい、どういうつもりだ?」
そう言いつつ、彼女を自分から引き離す。
「お礼のつもりだったけど、駄目だった?」
彼女は小首を傾げる。
駄目とか以前に、意味がわからん。
「なにがしたいんだ?」
「別に……。あぁ、そうだ。あなた、ダンジョンの外に出たいんでしょ?」
「それは、そうだが……」
「そう、だったら私についてきて。外に出してあげる」
そう言って、彼女は前を歩き始める。
正直、彼女の存在はどこか不気味だが、外に出られるっていうなら、願ってもないことだ。
だから、俺は彼女を信じることにした。
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