―17― なにもかもが順調だ
アゲハと名乗った少女は、とてつもなく強かった。
虚空から剣を取り出しては、その剣でAランク級の魔物をばったばったと斬り倒していく。
彼女についてつけば、確かにダンジョンを攻略できるかもしれない。
「ねぇ、キスカ。私、強い?」
「あぁ、強いな」
「でしょ」
彼女は自慢げな表情をする。
会話する余裕があるぐらい彼女の魔物討伐は順調だった。
「なぁ、ここはダンジョンのどの辺りなんだ?」
「そうね……恐らく、45階層ってとこかしら」
45階層。
随分と奥深くまで来てしまったようだな。
「今は、どっちに向かって歩いているんだ?」
「ダンジョンのボスよ」
あっさりと彼女はそう口にする。
「入口に向かったほうがいいんじゃないのか?」
「残念ながら、この階層まで来てしまったら、入口に戻る手段なんてないわよ」
「……そうなのか」
そういうことなら、出口もといダンジョンのボスがいる部屋に向かうのは必然といえた。
「もしかして不安?」
「まぁ、不安がないといえば嘘になるな」
「安心してかまわないわ。私があなたを守ってあげるから」
「そうか」
それから彼女は次々と襲いかかってくる魔物を剣で斬り倒してきた。
倒した魔物は彼女が解体すると、虚空へと消していた。
「なぁ、さっきから物を、消したり出したりしているが、それはどうやってやっているんだ?」
「あぁ、これは〈アイテムボックス〉というスキルよ。便利でしょ」
そういえば、〈知恵の結晶〉で手に入ることができたスキルの一覧にも〈アイテムボックス〉ってのがあったな。
そうか、〈アイテムボックス〉で色んな物を収納していたとするならば、納得だ。
それから、彼女は倒した魔物から魔石を含めた素材を回収しては〈アイテムボックス〉に収納していった。
「えっと、アゲハさんは……」
「アゲハって呼び捨てにして。私の方が見た目上は年下だし」
「あぁ、わかった。アゲハはなんで、あんなところにいたんだ?」
「あぁ、昔、封印されたのよ。あるやつに裏切られたせいでね」
裏切られたか。
俺と似た境遇を抱えているのかもしれないな。
「その、アゲハから貰ったスキルは返さなくてもいいのか……?」
「〈セーブ&リセット〉のことでしょ。一度、あげたスキルは簡単に返すことはできないわ。だから、それはもうあなたの物よ」
「そういうもんなのか」
「まぁ、でも、あなたがこうして私の元に来てくれてよかったわ。だから、私はあなたにとても感謝している」
「そうなのか?」
「そうよ。あなたが来なければ、私はずっとあそこに封印されたままだった。だから、キスカは私にとって命の恩人ね」
「流石に大げさじゃないか」
「そんなこともないわよ」
「まぁ、俺もアゲハのスキルのおかげで、こうして生きながらえているから。お互い様だな」
「ふふっ、確かにそうかもね」
アゲハとのダンジョン攻略は順調だった。
順調すぎて怖いぐらいだった。
とはいえ、俺はほとんどなにもしていないのだが。
「ここが中ボスのいる部屋ね」
ふと、アゲハ扉の前で足を止める。
「なにがいるんだ?」
「さぁ、そこまではわからないわ。でも、安心して、キスカは私が守るから」
「あぁ、ありがとう」
女の子に守ると言われるなんて、正直情けないな。
彼女のほうが強い以上、仕方がないんだろうけど。
ともかく、俺たちは中ボスにいる部屋に入った。
「
目の前にいたのは、10メートルは優に超す巨大な建造物のような魔物だった。
「キスカは後ろに下がっていて」
「あぁ、わかった」
それから、アゲハと
アゲハは大剣をもって果敢に突撃していく。
その動きは俊敏で力強かった。
巨大な
「すごいな……」
これなら、
「あがッ」
そう思った直後だった。
まずいっ、体勢が整っていないアゲハに
「おい、こっちを見ろ」
気がつけば、俺は自分のスキル〈挑発〉を使っていた。
すかさず
「ダメ、キスカっ!」
とっさにアゲハがそう言うが、助けてもらってばかりってわけにもいかないだろ。
「あいにく、避けるだけは得意なんだ」
俺の中には、
それを活かせば、
「おい、もっと俺を狙えよ!」
さらに、
それを見た
大丈夫、
よく観察すれば、回避は容易だ。
せめて、アゲハが回復するまでの時間を稼げれば。
「ありがとう、キスカ。これで倒すことができる」
そう言ったアゲハは光輝く大剣を持っていた。
俺が魔物の気を引いている隙に、発動するのに時間がかかる技の準備をおこなっていたのだろう。
「
そう言って彼女は大剣を一振りすると、
「キスカッ!!」
そう言ってアゲハが俺の胸に飛び込んでくる。
慌てて俺は彼女を受け止める。
「やったわね!」
「あぁ、そうだな」
俺は頷く。
なにもかもが順調だ、と、このときの俺はそう思っていた。
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