―07― 300回目に得た結論
「ガゥッ!」
近くにいた
「〈加速〉!!」
そう口にして、たった今手に入れたスキルを発動させる。
途端、時間の流れが遅くなったような錯覚に陥る。
すごい、
ブンッ! と、
それを回避することに成功する。
今までなら、
それから俺は、10体いる
蝶のように舞うことで、どんな攻撃も避けることができた。
まぁ、避け続けることができても、なんの意味ないんだけどな。
部屋の中を縦横無尽に動き回って確信したが、やはり出口がどこにも見当たらない。
この部屋は完全に密室となっている。
恐らく、この部屋を出るには、
となれば、避け続けるだけでは意味がない。
だから、ここからは反撃の時間だ。
「ガウッ!」
その上で、
パンチはうまく決まり、
ゴキッ、と嫌な音がした。
「あっ」
殴った右腕の骨が折れてしまったようだ。
どうやら〈加速〉から繰り出されるパンチによる衝撃に耐えることができないようだ。
そして、もう一つ大きな弱点が。
攻撃をした瞬間、俺自身に大きな隙が生まれていた。
それを
「あがッ!」
殴った
呻き声をもらした俺は盛大に壁へと激突した。
絶命した。
◆
「くそっ」
時間巻き戻り生き返った俺は、悔しげに言葉を吐き捨てた
せっかくいいところまで言ったのに、死んでしまったらまた一からやり直した。
とはいえ、希望は見えた。
〈加速〉を使えば、
攻撃面が心配だが、避け続けることができるなら、攻撃のチャンスも無数にあるはず。
よしっ、方針は決まった。
〈加速〉を選んで、あの部屋から脱出しよう。
まぁ、その前に宝箱のある部屋までたどり着く必要があるんだが。
「ガゥッ」
最初に現れる
◆
試行回数およそ225回目。
「やっと、この場所に戻れた」
再び、俺は宝箱にある部屋へたどり着いていた。
この部屋にたどり着くまでが、まずしんどいな。
この部屋に戻ってくるまで5回は死んだよな。まぁ、死んだ回数を正確に数えているわけではないので、ズレはあるんだろうけど。
「さて、それじゃ〈加速〉と」
宝箱を開けたら表示されるスキル一覧から迷いなく〈加速〉を選ぶ。
「「グォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」
現れた
さぁて、戦闘開始だ。
◆
「くそぉッ! なんで、うまくいかねぇんだよ!」
俺は怒りにまかせてそう叫んでいた。
試行回数およそ300回目。
その内、〈加速〉を選んで戦った回数、16回。
その16回目の挑戦にして、俺は
最初の頃は〈加速〉を選べば、いつかは部屋から脱出できるだろうと楽観的に考えていた。
けれど、挑戦すればするほど、無理なんじゃないかと思えてならなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
知らずして、肩で息をしていた。
〈加速〉の弱点、それは体力の消耗が著しく激しいってことだ。
満足に〈加速〉が使える時間は、たった3分ほど。
その3分の間に、10体いる
なのに、一体すら倒すことができなかった。
問題点はいくつかある。
まず、〈加速〉でいくら速く動けても攻撃力は増加しないという事実が大きかった。
例え、素の攻撃力が低くても、スピードにのせればそれなりに威力は出るだろうと踏んでいたが、そうやって繰り出した攻撃では、必ずといっていいほど、腕が骨折した。
そんなんでは何度も攻撃することができない。
次に考えた策というのは、弱点を確実に狙うというものだった。
〈加速〉によって、速く動けるだけではなく、思考能力や動体視力も速くなっているおかげで、狙った場所に正確に攻撃することができるようになっていた。
だから、例えば、目を狙って攻撃するなんてことができた。
目を潰された
けれど、言ってしまえば、それだけだった。
別に失明するわけではなく、痛みに堪えながら、再び襲ってくる。
目を攻撃しても、致命傷にはほど遠かった。
他にも、後ろに回って首を絞めるなんて実践してみたが、そもそも、首を絞めることはうまくいったとしても、首を絞めている間に、他の
それでも、なにか方法はないかと、俺はあがいた。
何度も挑戦した。
今、思えば、俺は認めるのが怖かったのだろう。
最もランクの高いSランクのスキルを手にしても、全くもって手応えがないという現実をどうしても認めたくなかった。
Sランクのスキルを手にしても攻略できない俺に、このダンジョンを脱出することなんて可能なんだろうか。
だからなのか、後半なんてほとんど成果はなかったのに〈加速〉を選び続けた。
どこか突破口があるはずだと、探し続けた。
だけど、いい加減、諦める必要があるんだろう。
〈加速〉を選んでも、
それが、試行回数300回目にして得た結論だった。
また、一からやり直しだ。
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