―06― 加速

「はっ」


 目を開ける。


「グラァアアッッ!!」


 目の前に一体の鎧ノ大熊バグベアが。

 見たことある光景だ。

 どうやら最初に戻ってしまったようだ。

 苦労してやっと宝箱のあるところまで辿り着いたというのに、それさえなかったことにされてしまった。


 いや、そもそもあの宝箱は手に入れていいのだろうか?

 宝箱を手に入れた途端、強制的に10体の鎧ノ大熊バグベアと戦うことを強いられる。

 恐らく、全部の鎧ノ大熊バグベアを倒さないとあの部屋から脱出することはできない。


「あっ」


 考え事をしていたら、鎧ノ大熊バグベアの拳が目の前にあった。

 次の瞬間には、死んでいた。





「とはいえ、あの宝箱以外にこの状況を改善できる策はないよな」


 宝箱を手にすれば、スキルを一つ獲得できる。

〈セーブ&リセット〉を除いたらスキルを持っていない俺にとっては、スキルを一つ手に入れるだけでも大きな進歩だ。

 とはいえ、スキルを1つ手に入れたぐらいで、10体の鎧ノ大熊バグベアを倒すなんて可能なのか?

 目の前にいる一体の鎧ノ大熊バグベアにさえ、苦心しているこの俺が。

 宝箱で手に入るスキルの一覧全てを覚えているわけではないが、あの中に10体の鎧ノ大熊バグベアを倒せるようになるスキルなんてあっただろうか。


 まぁ、考えても仕方がない。

 もう一度、宝箱のある部屋に行って、それから模索してみよう。


「ガゥッ!」

「やば……」


 顔面が壁に叩きつけられて死んだ。





「よしっ」


 方針が決まったのなら、早速動こう。

 まず、前方にしゃがんで一撃目をよける。

 その次に左側に転がるようにステップ。そうすれば、次の攻撃もかわせる。


 ぐしゃっ、と体がひしゃげる音がした。

 何度も繰り返してきた動きなため、スマートに動けるようになってきたが、今度はそれが仇となってしまったらしい。

 鎧ノ大熊バグベアが攻撃の態勢に入る前に、動いてしまったのだろう。

 そのせいで、鎧ノ大熊バグベアが俺の動きを見てから、腕を振るうことができてしまったのだろう。

 早く動きすぎても駄目。

 タイミングが非常にシビアだ。





「くそっ」


 死ぬ度に、激痛が全身を襲う。

 だから、精神的な疲弊がすさまじい。

 とはいえ、止まることは許されない。止まってしまえば、また殺される。


「よしっ」


 今度こそ、鎧ノ大熊バグベアの一連の攻撃をすべてかわし、距離をとることに成功した。

 あとは、闇雲に突っ込んでくる鎧ノ大熊バグベアの攻撃をかわしつつ、目を狙って殴る必要がある。


 ガッ、と顔面を殴るも、目ではなく鼻に当たってしまった。

 狙って目を攻撃するのを本当に難しい。

 罠のある位置まで全力で走ったが、その前に鎧ノ大熊バグベアに追いつかれては、殺されしまった。

 この調子で、また宝箱にたどり着くことなんてできるのかよ。





 試行回数およそ220回目。


「はっ、やっとここまでたどり着けた」


 落とし穴にはまって、底にあるトゲをうまくかわした後だった。

 この状況から、宝箱を開けるまでは魔物に襲われることはない。

 しばしの休憩タイムだ。

 俺は床に横になって、目をつむる。

 久しぶりに、まぶたを閉じた気がする。

 ずっと、この空間にいるのもいいのかもしれない。

 なんてことを考えていたら、知らずして、俺は眠っていた。


「あっ」


 目を覚ます。

 どのくらい寝ていたんだろうか。

 時間がわかるものがないから、全く見当がつかない。


 ぐぅ~、とお腹が鳴ったことに気がつく。

 そうか、ダンジョンに入ってから、一度も食事を口にしていたなければ、水も飲んでいない。

 この空間に居続けたら、いずれ俺は餓死するってことか。

 まぁ、復讐のためにダンジョンを脱出すると決意している以上、そんな選択をするつもりは微塵もないわけだが。


 休憩は終わりだ。

 前に進もう。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 以下のスキルから、獲得したいスキルを『1つ』選択してください。


 Sランク

〈アイテムボックス〉〈回復力強化〉〈魔力回復力強化〉〈詠唱短縮〉〈加速〉〈隠密〉


 Aランク

〈治癒魔術〉〈結界魔術〉〈火系統魔術〉〈水系統魔術〉〈風系統魔術〉〈土系統魔術〉〈錬金術〉〈使役魔術〉〈記憶力強化〉


 Bランク

〈剣術〉〈弓術〉〈斧術〉〈槍術〉〈盾術〉〈体術〉〈ステータス偽装〉


 Cランク

〈身体強化〉〈気配察知〉〈魔力生成〉〈火耐性〉〈水耐性〉〈風耐性〉〈土耐性〉〈毒耐性〉〈麻痺耐性〉〈呪い耐性〉


 Dランク

〈鑑定〉〈挑発〉〈筋力強化〉〈耐久力強化〉〈敏捷強化〉〈体力強化〉〈視力強化〉〈聴覚強化〉


 △△△△△△△△△△△△△△△


 ふたたび宝箱を開き、スキルの選択画面を開く。

 どのスキルを選ぼうか。


〈隠密〉は駄目だった。

 この閉鎖された空間では、〈隠密〉を持っていようと、鎧ノ大熊バグベアには見つかってしまう。

 そもそも、この部屋を出るには、鎧ノ大熊バグベアを倒さなくてはいけない以上、戦闘力に関与しない〈隠密〉は論外だ。


「よしっ、これだ」


 俺の選んだスキルは――〈加速〉だった。


「「グォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」


 次の瞬間には、部屋の中に10体の鎧ノ大熊バグベアが現れる。

 この選択が吉とでるか凶と出るか。

 さぁ、戦いを始めようか。


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