―04― 150回目

 前へと突っ込めば、鎧ノ大熊バグベアの一撃目をかわすことができる。

 それが十数回と死に戻りを繰り返して得た知識だった。

 とはいえ、一撃目をかわすことに成功したとはいえ、次は二撃目、三撃目が待っている。

 何回も試行回数を重ねれば、それらもかわすことができるかもしれない。

 けど、その先は……?

 結局のところ、俺が状況から生き延びるには、鎧ノ大熊バグベアを倒すか逃げ切るしかない。


 ブンッ、と風を切る音が聞こえる。

 もう、三十回は死んでいるか? おかげで、一撃目をかわすのは容易になった。

 その後、無理矢理体を反転させて、鎧ノ大熊バグベアに背中を向けてダッシュする。

 冒険者の経験がない俺に鎧ノ大熊バグベアを倒すなんて不可能だ。

 だから、逃げるという選択を選ぶ。


 グサッ、と背中から抉られるような音がした。

 鎧ノ大熊バグベアが背中を向けた俺に容赦なく攻撃をしたのだ。

 結局、俺は死んだ。



 何度目か、わからない。

 恐らく、100回は超えているはずだ。


「グアッ!!」


 まず、鎧ノ大熊バグベアは左腕を横に薙ぐようにふるう。

 それを前方にしゃがむことでかわすことができる。

 その次に、鎧ノ大熊バグベアは右腕を真上から真下へたたき落とすようにふるう。

 その攻撃は、左側に転がるようにステップすれば、かわすことできる。

 そうすると、鎧ノ大熊バグベアは一瞬だけ硬直する。

 恐らく、俺が攻撃をよけたことに驚いているのかしもれない。

 その隙に、壁際を通ることで、鎧ノ大熊バグベアの真後ろへと躍り出ることができる。


「グガッ!」


 真後ろへと通り過ぎた俺に対し、鎧ノ大熊バグベアは驚きつつも、体を反転させようとする。

 その隙に、俺はダッシュで鎧ノ大熊バグベアから離れられるだけ離れる。

 この動きが試行回数、百回以上を繰り返した俺が編み出した最適解だった。


 しかし、この先は未知の領域だ。


「ガゥウウウウッッッ!!」


 なぜなら、5秒後には、鎧ノ大熊バグベアが地面を蹴り上げて、一瞬で俺に追いつくからだ。

 とはいえ、追いつかれることはすでに何度も経験済み。

 右に強くステップ。

 攻撃をかわすことに成功した。

 そして、同時に鎧ノ大熊バグベアはひどく体勢を崩している。

 この一瞬だ。

 この一瞬なら、攻撃を当てられるかもしれない。

 そう思って、パンチを鎧ノ大熊バグベアの顔面へと繰り出す。


「ガウッッ!!」


 鎧ノ大熊バグベアは呻き声をあげながら、その場で倒れる。

 成功した。

 とはいえ、俺のパンチなんて貧弱だ。

 Aランクの魔物に対して殴ったところで、致命傷にはほど遠い。

 けど、鎧ノ大熊バグベアが立ち上がるまでの時間を稼げる。

 その隙に、俺は全力で走って、その場を離れた。





 ダンジョン内は通路が迷路のように入り組んでいる。

 そして、通路上には魔物やトラップなんかがあるわけだが、稀に宝箱が置いてあることがある。


「なにか、ないか!?」


 俺は宝箱を探していた。

 今の俺はまとも武器一つも持っていない。

 この状況では、このダンジョンを生き延びるなんて不可能に等しい。

 だから俺はダンジョン内を走り回っては、宝箱の一つでもないか探していた。


「グガゥッ!!」


 振り向くと、鎧ノ大熊バグベアが目の前にいた。

 鎧ノ大熊バグベアの顔面を殴って転倒させてから、再び俺の元までやってくるまでの時間、およそ25秒。

 その25秒の間に、俺はこの状況を打破できるなにかを見つけなくてはならない。

 今回もなにも見つけることができなかった。


 グシャッ、と内臓が潰れる音がする。

 俺の命は潰えた。





 試行回数およそ150回目。


「死ねッ!」


 攻撃をかわした俺は拳を鎧ノ大熊バグベアの顔面に叩きつける。

 これで転倒させれば、25秒時間を稼ぐことできる。


 ビュッ! と、今までと違う感触を覚えた。

 偶然、俺の拳が鎧ノ大熊バグベアの目に入ったらしい。


「グガァアアアアアアアアアアッッ!!」


 鎧ノ大熊バグベアが苦しそうな雄叫びをあげる。

 そりゃ、目を思いっきし殴れば、誰だって痛いはずだ。

 そうか、目を殴ればもう少し時間を稼ぐことができるのか。

 これからは目を狙うよう心がけよう。


 それから、再び鎧ノ大熊バグベアに追いつかれるまで、宝箱を探すべくダンジョン内を全力で走る。

 25秒、すでに経ったが、鎧ノ大熊バグベアは襲ってこない。

 目を攻撃したおかげで、今までよりも立ち直るのに時間がかかっているのだろう。

 確か、こっちの通路はまだ行ったことがないはず。

 25秒の制限下では、行くことができなかった場所へと踏み出すことができた。


「あっ」


 そう声を発したのには、わけがあった。

 真下にトラップがあったからだ。

 トラップの種類は落とし穴。

 自然の法則に従い、俺は真下へと落下する。

 地面にはいくつものトゲがあった。

 グサリッ、とトゲが俺の体を串刺しにした。


 今回も失敗には違いない。

 けれど、俺の心は高揚感が満たしていた。

 というのも、落とし穴の先に、隠し通路があるのを死の直前に見つけたからだ。


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