彼女のおかしな妄想
梅猫ハル
彼女のおかしな妄想
今日も、わたしは想像する。
わたしが考えた、とある世界に生きる人々のことを。
創作の人物達のことをーー。
わたしは、どこにでもいる普通の会社員。毎朝、気を抜くと再び布団に潜り込みそうになる体を無理矢理起こし、ご飯を食べて、慌ただしく服を着替えて、職場に向かう。そんな毎日。
わたしの毎日には、特に大きな目標は無い。とにかくしっかり働くこと、それしか考えていない。強いて言うなら、休日に好きなドラマや映画をゆっくり見ること。それが小さな目標だろうか。
そんな毎日に寄り添ってくれているのは、創作だ。
わたしは、学生の時から物語を考えては、真っ白なノートに認めることが一つの趣味になっている。その中で、ずっと何年も構想しているものがあり、わたしは、その物語に出てくる人達のことばかり想像してしまう。
それは、サラリーマンの男性と、スーパーで働く女性がヒーローとなって戦う、という物語。何ともおかしな話だが、自分では気に入っている。
彼らは、もはやわたしの子どものような存在で、とにかくかわいくて、色々な話を書いてあげたくなる。この子達の物語をしっかり最後まで形に出来るまでは死ねない。そのくらいに思っている。
人に見せたりしたことは無く、わたししか知らない、わたしだけの物語だ。
「ただいまー」
誰もいないと分かっていても、なんとなくこれを言うことが日課になっている。
仕事から帰ってくると、くたくたで何もしたくなくなる日もある。一人暮らしのわたしには、ご飯を用意してくれる人は居ない。コンビニ弁当やレトルト食品を買ってきたとしても、温める気力すら無い日もある。
ぐったりとベッドに横になりながら、わたしはふと想像する。彼らが今この様子を見ていたら、どんなことを言うだろうか、と。
『ちょっと、このまま寝ちゃったらどうするの?変な時間に起きて食べることになるわよ』
普段はスーパーで働いている、気が強めな女ヒーロー、
『まあまあ、そう言わないでよ秋桜ちゃん。彼女は疲れ切ってるんだ、優しい言葉をかけてあげなくちゃ』
秋桜の隣で優しい笑みを浮かべるのは、普段はスーツのサラリーマンな爽やかヒーロー、
「二人とも心配してくれてるんだ、ありがとう」
わたしは枕に顔を埋めながら、呟くように言う。
たまにこうして、彼らがもしわたしを側で見守っていたら、などと想像する時もある。単なる妄想でしか無いのだけれど、少しだけ楽しい気持ちになって、気分が変わる気がするのだ。…恥ずかしくて、人には絶対言えないけれど。
「まあ、自分に都合の良い妄想にはなっちゃうけどね。…早く、ご飯食べよーっと」
さっきよりも上向きになった気持ちで、わたしはベッドから起き上がった。
彼女のおかしな妄想 梅猫ハル @kirara_berry
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。