勇者の船は無茶をする
かっこいいところを見せて、と言われたからには。
ここは勇者として、少しはがんばらなければならないだろう。
「攻めようか。聖職者さん」
「理由は〜?」
「なんかヤバそうだよね。ここで攻めないと」
「あは〜。理由雑ぅ」
うるせえな。仕方ないだろ。どうせおれの戦いはいつも大体雑ですよ。できればシンプルでわかりやすいと言ってほしい。
とはいえ、畳み掛けておける内に畳み掛けておきたいのは事実だ。
もっと言えば、あのドラゴンが聖職者さんに二発の打撃を貰って動揺している間に、なんとか勝負をかけたい。
「まあ、いいけどね〜。そういうの、ゆうくんっぽくて好きだよ〜」
言いながら、聖職者さんは深く息を吸い込み、頬を膨らませて、身体を仰け反らせた。
「ふっ」
先ほど行ったドラゴンのブレス攻撃の再現。否、聖職者さんの場合は、実際にその身体を変化させて行う、竜の息吹そのもの。
それが、耳元で三発。
「どわぁああああああああ!?」
「あは〜」
クソビビった。
比喩でもなんでもなく髪がちょっと焦げて、おれは抱きかかえられたまま情けないことこの上ない悲鳴をあげた。聖職者さんは相変わらず笑っていた。
「ちょ、撃つなら言ってよ!?」
「だって攻めろって言ったし〜」
「言ったけどおれ抱えたまま撃つ必要はないだろ!? 髪焦げたよちょっと!?」
「ちりちりパーマも似合うと思うよ〜」
「そういうことじゃねえ!」
「あとゆうくんさっきどさくさに紛れてわたしの胸触ったでしょ」
「あ、はい。それはすいません」
でもどこ掴んでいいかわかんなかったし、驚いたら咄嗟に近くの一番大きいものを掴むのは人間の性だと思う。仕方ないよね。だからニコニコ笑いながらゴミを見るような目でこちらを凝視するのはやめてほしい。
アホなやりとりをしながらも、聖職者さんの吐き出した三発の火球はドラゴンに対して確実な直撃コースに乗っていた。にも関わらず、やはりそれらは着弾する前に、消え失せる。動作はない。防御しようと、意識する素振りもない。つまり、触れた瞬間に何かが起こっている。
やはり、何らかの魔法の影響を受けた、と考えるのが自然に……
「ゆうくん」
「ん?」
「見つけた。ドラゴンの上、なんかいる」
そう言われても何も見えなかったが……おれが目を凝らしても視認できないものすら『人間とは異なる目の良い生物』に眼球を『変身』させた聖職者さんなら看破することができる。
「……なるほど。見えてきたな」
ドラゴンが魔法を使って攻撃を防いでいるわけではなく。
ドラゴンの上に乗っている『魔法使い』が、おれたちの攻撃を何らかの魔法で捌いている。
おそらくは、これが結論だろう。
「聖職者さん。船に戻してくれ。しんどいと思うけど、アレの周りに張り付いて可能な限り牽制を」
「おまかせあれ〜」
聖職者さんにお姫様抱っこを解除してもらい、飛行船の甲板の上に戻って来る。
「賢者ちゃん」
「上に何かいる、という話でしょう。私も望遠で見つけましたよ」
話が早くて助かる。
「で、どうします? 方針は?」
「倒すよりも逃げ切るのが先決かな。もう追ってこない程度に痛めつけたい」
「了解しました。となると、船の速度を引き上げる必要がありますね」
「……あるねぇ」
あるんだけどさぁ……
おれが止める間もなく、にこり、と実に底意地の悪い笑みを浮かべて。賢者ちゃんは船の帆の裏に、魔法によって増殖させた魔導陣を大量に展開した。
「行きますよ、騎士さん。船の舵はこれまで以上にしっかり握ってくださいね」
「えっ……ちょっと待ってまさか」
舵を取る騎士ちゃんがその意味を問い質す前に。
劇的な変化が起こった。
船の帆の裏に幾重にも重ねた、迅風系の魔導陣による人工的な突風。突風というよりも、圧倒的な暴風。それを浴びることによる、圧倒的な加速。
体感で言えば、人間の徒競走が、馬の全力疾走に変化したほどの、スピードアップ。
飛行船の速度が、世界最高の賢者の最悪にアホな発想により、一気に引き上がる。
「騎士ちゃーん。舵、しっかり頼むよ」
「ぎゃぁあああ!? 無理無理無理!? 早すぎるってこれ!?」
さあ、加速するぞ。
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