アフターゲーム・その正体

「では、キミが休んでいる間は、このボク……レオ・リーオナインが、現場の監視と保全に勤めよう」

「あなたが自ら?」

「ああ。ボクを除いて、誰も立ち入れないようにしておくし、現場のものにも手を付けないでおく。もちろん、我が親友や死霊術師殿も、キミが戻るまでは絶対に入れない」


 魔術による調査なら、キミの右に出るものはいないだろうしね、と。

 お世辞ではない率直な意見を添えた上で、レオはシャナの手を取って、軽く膝まづいてみせた。


「勇者の親友として。そして、王国の騎士団長として。少し無理をしている賢者殿への、心からの願いだ。どうだろう?」

「……そこまで言われてしまっては、仕方ありませんね」


 軽く溜息を吐いたシャナは、構えていた杖を収めた。同時に、現場に散らばっていた複数人のシャナたちが、一人に戻る。


「二時間ほど仮眠を取って戻ります」

「もっと寝てきても大丈夫だよ? 睡眠不足は肌の天敵だからね」

「私は若くてぴちぴちなので、そのあたりは気にしなくても大丈夫なんですよ。では、よろしくお願いします」


 軽口を叩きながらも、やはり疲労を感じさせるふらふらとした足取りで、シャナは出ていった。

 その背中を、笑顔で見送って。

 レオ・リーオナインは荒れた床に腰を下ろした。


「……やれやれ。頭の良いレディが心配性だと、中々どうして扱いに困る」


 しかも、用心深く、疑り深いとくれば、なおさらだ。

 人払いを済ませたホールの中を見回して、レオは呟いた。


「さて、と……『紙上空前オルゴリオン』」


 手の中に浮かぶ、輝く本。そのページをパラパラと捲って、レオはトリンキュロ・リムリリィがトドメを刺された魔導陣の残滓に、手を触れた。


「さすがは賢者殿。本当に高度な術式だ。何が何やらさっぱりだよ……『オープン・セフェル』」


 感心しながらも、レオは淡々と作業を進める。

 本のページを開き、書き込む準備を整える。


「『ペン』」


 まるで子どもが落書きをするように、レオ・リーオナインは上機嫌で文字を重ねていく。

 そうして最後に、締め括りの一文となるそれを、口にした。



「『トリンキュロ・リムリリィは、殺されなかった』」



 静まった空間に、作家の声が響き渡る。

 ページが捲れて、光の紙片が乱れ舞う。

 しかし、変化はない。

 レオ・リーオナインの『紙上空前オルゴリオン』を以てしても、死んだ者の蘇生は、成し得ない。


「ふむ……やはりこれではダメか。仕方ない」


 まるで別人のように呟きながら。

 背中から、レオ・リーオナインだったソレは、小さく呟いた。



「──『獅上空前オルゴリオン』」



 それは、魔法ではない。

 それは、色魔法ではない。

 人ではないものが振るう、悪魔の力。


「『トリンキュロ・リムリリィは、死ななかった』」

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