サジタリウス・ツヴォルフ

 暗闇の中を、サジタリウス・ツヴォルフは独りで歩く。

 あの世がどういうものか、想像したことがないわけではなかったが、こうして実際に命を落としてみると、存外面白みがないものだと思う。

 悪魔である自分は、死んだらすぐに地獄にいくものだと考えていた。しかし、そういうわけでもないらしい。

 あるいは、この無限に歩めてしまえそうな暗闇が、地獄なのだろうか。

 それが罰であるのなら、喜んで受け入れようと。

 そんな風に考えていたからこそ──


「よう、遅かったな。おつかれ」


 ──親友が待っていたことに、少し拍子抜けした。


「……おい。どうしてこんなところにいる?」

「どうしてって、そりゃお前……おもしれえゲームは、やっぱ最前列でみてぇだろうがよ。プレイヤーが親友なら、なおさらだ」

「ククク……相変わらず、ふざけたヤツだ。人の苦労を、ゲーム呼ばわりとは」


 ご丁寧に用意されている椅子とテーブルに、腰を下ろす。

 対面に座る彼は、サジタリウスが席についたのを確認して、カードの束を取り出した。


「いろいろ言いたいことはあるんだけどよ」

「ああ」

「とりあえず、賭けはオレの勝ちってことでいいか?」

「なにをふざけたことを抜かしている、阿呆め。オレの勝ちに決まっているだろう?」

「馬鹿はてめえだろ。オレが言ったこと、もう忘れたのか?」

「覚えているから、オレの勝ちだと言っているんだ。これ以上ない良い女に、看取られてきたからな」


 チップの枚数を手早く数えながら、サジタリウスは勝ち誇ってみせたが、


「おう。そうだろ? オレのかわいい孫娘は、良い女になっただろ?」


 直後にそう言い返されて、せっかく作ったチップの山が崩れた。


「む、むぅ……」


 たしかに。


 ──オレの孫は、とびっきりの良い女になるぜ。賭けても良い


 たしかに、いつも酔う度に、コイツは腐る程それを言っていたが。

 いや、しかし。

 それを持ち出してくるのは、少々卑怯なのではないだろうか? 


「がはは! ほれ見ろ! やっぱりオレの勝ちだ!」

「いや待て。その理屈はずるい。少しずるい」

「勝負は狡くてなんぼってもんだろ」

「ああ言えばこう言う……!」


 滑らかな手つきでシャッフルされるカードを見て、サジタリウスは深い溜息を吐いた。


「仕方ない」

「ああ、仕方ねえな。言葉であーだこうだと言っても仕方ねえ。オレらはやっぱ、これでケリをつけるべきだ」


 粗暴な口調に似合わない、丁寧な所作でカードが引き抜かれる。

 時間は、たっぷりある。

 語るべきことは、山ほどある。

 だから、一つずつ話していこう。


「聞いてくれ。アル」

「おう。聞かせてくれ、サジ」


 配られたカードを手に取って、サジタリウスは笑う。


「新しい友達ができたんだ」


 さあ、ゲームをはじめよう。

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