新たなる絆の力
サジタリウスが『
とはいえ、相手は腐っても四天王第一位。師匠一人では、限界があるだろう。
こんな時こそ、頼れる仲間の力が必要だ。
こっそりと隅に移動して、ちょっとサボろうとしていた死霊術師さんの肩を、おれは掴んだ。
「師匠。これ使ってください」
「助かる」
「あら? あらあらあら? いや、ちょっと待ってくだい。助かるってなんですか助かるって。なんで足首持つんですか。べつにわたくしいらないでしょうこれ。武闘家さま? 武闘家さま本当に聞いてらっしゃいます? それ絶対普通に殴った方がはや……うぇぁあああああ!?」
「ぐぁぁぁ!?」
悲鳴が二人分に増えた。
すげえぜ、師匠。四天王で四天王殴ってる。四天王を盾にするしかできなかったおれとは、格が違うぜ。
今のうちに、ありがたく作戦を練らせてもらおう。
小休止、と言うにはあまりにも僅かな間だが、おれの側まで下がってきた先輩と悪友は、少し怪訝な様子でサジタリウスを見た。
「あー、お二人さん。詳しい事情はあとで説明するけど……」
「不要だよ、親友。キミが信用すると言ったんだ。ボクたちが疑う理由がない」
バカだが理解の早いことに定評のあるおれの親友は、サジタリウスと気楽に握手を交わした。
「やあ、サジタリウス。あの日、脱衣オセロで負けて以来だね」
初耳だが?
コイツそんなアホなギャンブルに負けて強制労働に従事してたのか?
バカなんじゃないか? いや、バカだったわ。
「ククク……アレは良い勝負だった。このオレを下履き一つまで追い詰めた貴様と、肩を並べて戦えることを嬉しく思う」
こっちもこっちでなんでちょっと嬉しそうなんだよ。どうしてちょっとかつての強敵と共に戦える嬉しさに胸踊らせてるみたいになってんだよ。
サジタリウスとバカ作家が男の握手を交わしている横から、先輩がひょっこりと顔を出して、頭を下げる。
「どうもどうも悪魔さん。はじめまして。勇者くんのお嫁さんです」
「違いますよ?」
なにをさらっと捏造しているのだろうか。
「勇者、お前……」
「なんだよ」
「ククク……おめでとう」
「真に受けるな」
素直か?
腐っても言葉を操る悪魔なんだからもう少し疑うということを覚えてほしい。あと後ろから突き刺さる賢者ちゃんの視線がちょっと洒落にならない感じになっているから勘弁してほしい。
「じゃあ、みんな。ちょっと聞いてくれ」
いつまでも背中に隠れ続けているサジタリウスを引っ剥がして、おれは言った。
「新しい仲間を軸にした、良い作戦がある」
◇
トリンキュロ・リムリリィは、端的に言って窮地に陥っていた。
度重なる援軍。不死に近い体を概念ごと斬り裂く剣士に、危険な妄想を現実にする作家崩れの騎士。
信じていた仲間の裏切りに、勇者の上位互換と言っても過言ではない、黄金の武闘家の参戦。
どこを切り取っても、マイナス。自分が不利になる要因はあれど、自分が有利になる要素は一つとしてない。
それら全てを踏まえた、トリンキュロ・リムリリィの結論は、
「うん。問題なし」
接触した瞬間に、魔法による静止を浴びせてくるムムに対しては『
全身に数多の魔法を備えるトリンキュロに対して、近接戦闘で互角に戦える者は、その前提からして限られる。
警戒すべき攻撃は、四つ。
接触という魔法の発動条件を無視して、理屈の上から殴打を浴びせかけてくる、勇者の拳。
そんな勇者の拳よりも、さらに威力が高く、より磨き抜かれた錬度を誇る、ムム・ルセッタの聖拳。
戦いの最中、あらゆる魔法を切断するほどに進化を果たした、イト・ユリシーズの剣戟。
現実を虚構に書き換える、レオ・リーオナインの不可思議極まる
それら四つを踏まえてなお、トリンキュロは不敵に笑ってみせる。
「それでも、勝つのはボクだよ」
警戒すべき攻撃は、四つ。しかしその中で、致命傷に繋がる攻撃は、イト・ユリシーズの蒼の魔法による斬撃のみ。
そして、その致命傷も、トリンキュロ・リムリリィにとっては致命傷に成り得ない。
トリンキュロの異常な再生能力を根底から支える魔法の名は『
たとえ、全身が粉々になろうと、心臓が砕かれようと、頭を割られようと、トリンキュロはこの魔法によって瞬時に五体満足、気力十分な状態に復活できる。
もちろん、弱点は存在する。『
だとしても、問題はない。
単純な話、三分間で自分を二度殺すほどの攻撃を当てるのは、不可能に等しいからだ。
だからこそ、トリンキュロは疑問に思う。
「これで全ての準備は整った……みたいな顔してるけどさぁ。きみ、ボクに勝つ気あるの?」
「勝つ気はない。殺す気しかないからな」
勇者らしからぬ黒い台詞を吐きながら、世界を救った勇者が前に出る。イトも、レオも、ムムも、仲間としてその隣に並ぶ。リリアミラは武器として引き摺られている。
そして、新たな仲間となった最上級悪魔は、勇者の横に……並んでいなかった。
「勇者よ」
「なんだ」
「オレの嗜むゲームは、基本的にソロプレイだった」
「ああ。お前友達いなさそうだもんな」
「うるさい、泣くぞ。いや、そうではなく……その、純粋な疑問なんだが……これは本当に、良い作戦なのか? これが、チームプレイなのか?」
「そうだ。これがチームプレイだ」
「なあ、勇者よ。オレは、全力で守ってほしいと頼んだはずだが?」
「ああ。約束通り、全力で守ってやる。おれはもう、お前を離さない」
気持ちを、心を一つにする、という意味では、勇者とサジタリウスの二人は、これ以上なく一つになっていた。
気持ちを、心を乗せる、という意味では、勇者はたしかにサジタリウスの思いを乗せていた。というか、物理的に肩に載せていた。
二人は一つだった。
「そろそろ、決着を付けよう」
魔王の使徒の一柱。第十二の射手。
最上級悪魔、サジタリウス・ツヴォルフを肩車して構える勇者は、不敵に笑う。
肩車である。
肩車であった。
どこをどう見ても、それは肩車だった。
「さあ、いくぞ! サジ!」
「ククク……正気か?」
裏切り者の発言なので、あまり認めたくはなかったが、トリンキュロ・リムリリィも心の底からそう思った。
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