変態の援軍

 身の丈を超える、長大な銀槍。

 雄々しく靡く、金色の髪。

 全体的に、ほぼ肌色の肉体。

 そして、純白のブリーフ。

 魔導師ではない。武闘家でもない。

 突如、降り立った変態に、トリンキュロ・リムリリィは目を見開いた。


「ピンチかい!? 親友!」

「おう。ピンチだ。助けてくれ、馬鹿」

「心得た!」


 長大な銀槍が、勇者を取り囲む壁に突き立てられる。

 一撃。

 そう。ただの槍の一撃で、トリンキュロが絶対の自信を持って築いた分厚い壁が、一瞬で崩落する。

 それはどんな強力な魔術を以てしても、有り得べからざることだった。


「なっ……!?」

「このような薄い壁で、我が友の行く道を阻もうとは、片腹痛い!」


 高らかに銀槍を構えて、その援軍は勇者の隣に並び立つ。

 文字通りの横槍を加えてきた、忌々しい援軍を、トリンキュロは睨み据えた。


「……何者だ。お前」

「ボクは今……猛烈に感動している!」

「あ?」


 トリンキュロは、絶句する。

 会話が、通じなかった。


「貴様には理解できるか!? この胸の高鳴りが! この心の躍動が! ああ、わかるまい! 人の心を、ただの食い物にしてきた貴様に、わかるはずもあるまいよ!」


 銀槍を握る手が、静かに奮い立つ。

 あの頃はただ、旅立つ友の背中を、見送ることしかできなかった。

 その両肩に世界のすべてを背負うのを、見守ることしかできなかった。

 だが、今は違う。

 力を得た。魔法を得た。

 なによりも、こうして窮地に駆けつけることができた。


「なればこそ! 悪魔よ! 貴様の新たなる野望は、我らが友情の前に打ち砕かれることになるのだ! 知りたければ、その身に刻み込もう! そして、完膚なきまでに討ち果たしてみせよう! 我が槍の冴えは、万全である! たとえどれほどの邪悪であろうとも、たとえどれほどの悪辣であろうとも! 我らは必ず乗り越える! 絆の熱に、その身を焼かれる時、貴様は知ることになるだろう!」


 過去の後悔は、この時のために。

 勇者の隣で戦う喜びを、騎士は高らかに謳い上げる。

 共に背負える。

 共に肩を並べる。

 友であるが故に。

 レオ・リーオナインは、世界を救った勇者の親友として、隣に立つ。




「我が魔法! 『紙上空前オルゴリオン』の名を!」




「おい」

「なんだい!? 親友!」

「盛り上がってるところ悪いけど、まずは服を着ろ」

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