武闘家さんとヒモカス悪魔の激戦

 勇者と四天王の第一位が、激戦を繰り広げていた、その頃。


「ぬおおおおおおおおお!」

「むん」

「ふおおおおおおおおお!」

「むん」


 ムム・ルセッタとサジタリウス・ツヴォルフのギャンブル三本勝負は、第二戦を迎えていた。

 勝負の内容は、これ以上なくシンプルなトランプゲームの王道、ババ抜き。だが、ムムとサジタリウスの魔法が、その戦いの内容を無駄にややこしくしていた。


「フフ……ククク……ワハハハ! いい加減にしろっ! 幼女! ! これは確定事項だっ!」


 ムムの手札からカードを引き抜こうと躍起になりながら、サジタリウスが叫ぶ。


「じゃあわたしも、このカードは離さない」


 サジタリウスにカードを引かれないように、涼しい表情でムムが呟く。


「ふざけるなぁあああああ! 魔法でカードを握り込むんじゃあないっ! ガキか貴様は!」


 サジタリウスはキレた。

 ムムはちょこんと首を傾げた。


「……? うん。わたし、ガキ」

「そうだったなあ! 見た目はガキだったなっ!」

「若いって、よく言われる」

「そうだろうなっ!」


 事実、見た目は紛うことなきロリである。そういう問題ではない。


「ククク……くそ。どうしてこんなことに」


 ムムの手札は、残り二枚。サジタリウスの手札は、残り一枚。あと一枚、ジョーカーではないカードを引けば、サジタリウスの勝利が確定する、いわば王手に近い状況である。

 そしてなによりも、サジタリウスの魔法『妄言多射レヴリウス』は発言した事象をすることができる。サジタリウスが「オレはジョーカーを引かない」と口に出して宣言すれば、それだけで絶対にジョーカーを引くことはない。言い換えれば、サジタリウスは魔法によって必ずジョーカーではないカードを手札に引き込むことができる。

 しかし、ムムの魔法がその明確な勝利への道筋を妨害していた。

 ムムの魔法『金心剣胆クオン・ダバフ』は、触れたすべてを静止させる。触れたものを静止させるということは、手に持ったものを、そのままの状態で留め置くことができるということ。

 子どもが、引かれたくないカードを必死で掴むように。本気で抵抗するムム・ルセッタから、カードを引き抜く術はないに等しい。


「はあ、はあ……やめだ」

「む。休憩する?」

「オレが望むのは互いに知略を尽くしたゲームだ。魔法を使った意地の張り合いなど、やってられるか」


 テーブルに両手を投げ出して息を吐いたサジタリウスは、変わらず涼しい表情のムムを見て、息を吐いた。


「心配ではないのか?」

「何が?」

「さっき言っただろう? このカジノには、トリンキュロ・リムリリィがいる。ヤツは強い。まともに戦えば、無数の魔法に呑まれて終わるぞ。たとえそれが、世界を救った勇者であっても、だ」

「ふむ。そういうことなら、あんまり、心配はしてない。どんな魔法が相手でも、それを殴る術を、わたしは弟子に叩き込んである」


 悪魔の問いかけに対しても、ムムの回答は一切ブレることがなかった。


「わたしの勇者は、めっちゃ強い」

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