赤髪ちゃんと四天王
わたしの名前は、赤髪です。今日は、人生ではじめてカジノに遊びに来ました。
勇者さんと死霊術師さんの殲滅を目的に急遽結成された討伐パーティーですが、いきなりほいほいと手掛かりが見付かるはずもなく。
「きました! またきましたよおねえさん!」
「アカちゃんいいよ! 来てるよ! のってるよ! ツイてるよ!」
そんなわけで、とりあえずスロットゲームで荒稼ぎをしています。
「見てくださいお姉さん! 回せば回すほどメダルが増えます!」
「アカちゃん最高だよ! ヤバいよ! アツいよ! フィーバーだよ!」
どうやら、わたしにはスロットの才能? のようなものがあったようです。
数字の七。ラッキーセブンがまたもや揃って、きらびやかに発光。筐体から大量のメダルが吐き出されました。
「うわあ……赤髪ちゃんすっごい」
「よくもまあ、こんなに当てられますね」
わたしの手元に大量に吐き出されるメダルを、騎士さんと賢者さんはなんとも言えない表情で眺めています。
カジノに入って早々「わたしも遊んでみたいです!」と主張したところ、賢者さんからお小遣い程度のメダルをもらってはじめてみたのですが……これがビギナーズラックというやつなのでしょうか。大当たりが止まりません。すでに一人では持ちきれないほどの量に、メダルの山が膨れ上がっています。
もしかして、これがわたしの天職……?
これだけ稼げるのなら、これだけで食べていくことも可能なのでは……?
「これで食べて行こうとか考えないでくださいね」
「はっ、はい! もちろんです!」
危ないところでした。賢者さんは時々わたしの内心を見透かしたことを言ってくるので油断なりません。
「いや、でも今日のアカちゃんは最高にノッてるよ。ちょっとこれ、いけるところまでいってみようか」
いつもと同じくクールな賢者さんとは違って、わたしの肩を揺さぶってくるお姉さんの目は、お金に眩んでいるように見えます。かけているサングラスは飾りなのでしょうか?
「先輩? 当初の目的忘れちゃダメですよ?」
「で、でもアリア」
「ダメです」
おねえさんの肩を、今度は騎士さんががっしりと掴みました。
最近、この二人の力関係がなんとなく掴めてきた気がします。基本的に騎士さんが上で、お姉さんが尻に敷かれています。年齢的には逆だと思うのですが、妙な納得がありました。
「賢者さん! このメダルでいくらくらいになりますか!?」
「さあ? でもまぁ、あなたが食べたいものは大体食べられるくらいは稼いだんじゃないですか?」
「やったー!」
食べ放題というやつですね。最高です。
「私から言わせてもらえば、わざわざ出目を揃えてメダルを増やす意味がわかりませんけどね。そんなことしなくても増やせますし」
と、手元でくるくると弄んでいた賢者さんのメダルが、魔法によって、一瞬で二枚に増えます。端的に言って、ズルです。
「シャナ! お金関連のものは増やしちゃダメでしょ!」
「はいはい。わかってますよ。冗談です」
「あ、あのシャナちゃん、じゃなくて賢者さま。ちょっとお話が……」
「先輩?」
「痛い痛い! ごめんごめんジョークだってジョーク! でもせっかくカジノに来たんだしちょっと稼ぎたくなるじゃん!」
「赤髪ちゃん。あたしたち、このメダル換金してくるね」
「はい! お願いします!」
「アリア痛い! 耳引っ張らないで、耳!」
「では、私も少し離れて情報収集してきます。はじめて遊びに来た場所とはいえ、あんまり羽目を外し過ぎないでくださいね?」
みなさんがいなくなって、わたしはまた一人でスロットを回し始めました。
なんといえばいいのでしょうか。周囲は相変わらず賭け事の音や人々の歓声で騒がしいのに、なんだか少し静かになってしまった気がします。
「おねーさん、一人? よかったら、ボクと遊ばない?」
後ろから掛けられたのは、軽薄でやわらかい声。
もしや、これが噂に聞く『ナンパ』というやつなのでしょうか?
少し警戒しながら振り返ってみると、そこに立っていたのは若い男性……ではなく。小さな女の子でした。
「えっと……」
「わあ、すごいアタリだね」
フリルがいっぱいの、ワンピースドレス。騎士さんと比べると、少し落ち着いた色合いの金髪。二房に分けられたそれらを、純白と紅色の二色のリボンがゆったりと束ねています。
女の子はするりとわたしとスロットの間に潜り込んで、わたしの膝の上に乗りました。
「ちょ、ちょっと……?」
「ふふっ……やっぱり落ち着くなぁ。あ、スロットは続けていいからね? せっかく遊びに来たんだから、たくさん稼がないと!」
「はぁ……?」
どこかのお金持ちの家のお子さんなのでしょうか?
言われるがままにスロットを続けていると、また数字が揃って、メダルが出てきました。
「あはは! すごいすごい! ほんと、相変わらず運が良いね! 昔と変わらないなぁ」
「……昔?」
その一言に。
ぞわり、と。
心臓が跳ねた気がして。
「ふふっ……あ〜、落ち着く。昔は、ここがボクの定位置だったんだよ? 覚えてる?」
女の子の小さな頭が、わたしの胸の間に埋もれました。
「心臓が、鳴ってるね」
噛み締めるような、呟きでした。
「心臓が鳴っているってことは……生きてるってことだね。嬉しいよ。ジェミニに出し抜かれた時は、本当に腹が立ったけど……でも、こうして生きてまた会えたから、ボクはうれしい。とってもうれしい。うれしい。うれしい!」
「…………あなたは、誰ですか?」
甘えるように。
わたしに小さな体の、すべての重さを預けたまま、女の子は聞き返してきました。
「本当に、忘れちゃったの?」
純朴で、純真で、純粋な。
信頼と敬愛が込められた、温もりのある声音。
「ボクにこの名前をくれたのは、魔王様なのに」
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