赤髪ちゃんの脱出
「むにゃ……えへへ、勇者さん、ダメですよぅ……わたし、そんな……もう食べられません」
「なにアホな夢見てるんですか!」
「起きろーっ! 赤髪ちゃん!」
「むにゃぁあああ!?」
頬に強い痛み。ついでに、首の後ろに恐ろしいほどの冷たさを感じて、わたしは飛び起きました。
黒のローブと白銀の鎧が、目の前にあります。
「き、騎士さん!? 賢者さんも?」
「まったく。私が渾身の往復ビンタをして、騎士さんが首の後ろに冷えた手を突っ込んでようやく起きるなんて……本当に脳天気ですねあなたは」
両手をひらひらと振りながら、賢者さんが呆れた視線をわたしに向けてきます。
どうやら、わたしの頬を往復ビンタしたのは賢者さんみたいです。だからほっぺたがこんなにひりひりするんですね。痛いです。
「でも、目を覚ましてくれてよかったよ。体は大丈夫? 少し毒を吸っちゃったみたいだけど」
「は、はい! なんというか、意外と平気です!」
騎士さんの言う通り、倒れる直前は息苦しかった記憶があるのですが、何故かその感覚はきれいさっぱり消え失せていました。まるで、吸い込んでしまった毒が体の中から取り除かれたような、不思議な感覚です。
「賢者さんが治療してくださったんですか?」
「一応、あなたの体に異常がないか確認は行いましたが……私がやったのはそれだけです。あなたの体の中から毒を除去したのは、別の人ですよ」
そこまで言われて、わたしは眼帯のお姉さんの顔を思い浮かべました。
そして、周囲を見回して、ようやく自分が今、どこにいるかを理解しました。首を真上に、見上げてみると懐かしい青い空の中に、白い雲が浮かんでいます。
そう。青空です。いつの間にかわたしは、ダンジョンの外に出ていました。
「あれ? わたし、ダンジョンの中にいたはずじゃ……」
「魔法を受けて動けなかったあなたを、眠っている間に連れ出してあげたんですよ」
「まあ、武闘家さん以外はみんな魔法の影響から自力で抜け出せてなかったし。あたしたちも武闘家さんに起こしてもらわないとヤバかったから、あんまり人のことはとやかく言えないんだけど……」
たはは、と頬をかく騎士さん。
その後ろでは、やはりお師匠さんが無表情のまま無言でピースサインをしていました。さすがはお師匠さんです。かっこいいです。
「そういえば、みなさんはどうしてここに?」
「あなたが先走ってダンジョンに突撃していったから、私達がわざわざ助けに来てあげたに決まっているでしょう!」
「ひぃ!? すいません! ごめんなさい!」
賢者さんに詰め寄られて、頭を下げます。
わたしの勝手な行動で、みなさんに迷惑をかけてしまいました。頭を下げる以外に、できることがありません。
「まったく、あなたはもうウチのパーティーの一員なんですから」
「そうだよ、赤髪ちゃん。勝手な行動はもうダメだからね」
「うむ。仲間を助けるのは、当然。でも、手の届く範囲にいてくれないと、助けられないから困る」
頭を下げる以外、できることがないようなわたしなのに、みなさんの言葉はとても温かくて。
わたしの目の前の視界は、じんわりと滲んで見えなくなりました。
「ほらほら、泣かないで」
「ずいまぜん……」
「起きたらすぐ泣くなんて、あなたは赤ちゃんですか? まったく」
「はい。めちゃくちゃアカちゃんって呼ばれてました……」
「いや何の話です?」
何の話か、と聞かれれば、あのお姉さんの話です。
怪訝そうな表情の賢者さんに、わたしは問い返しました。
「賢者さん! わたしと一緒にいた騎士のお姉さんはどこですか! あと、みなさんがいるってことは、勇者さんもいるはずですよね?」
「それは……」
「勇者は、まだダンジョンの中。その騎士も、多分まだ中にいる」
言葉を濁して答えにくそうな賢者さんに代わって、お師匠さんが簡潔に答えてくれました。
ですが、まだダンジョンの中にいる、と。その独特な言い回しは、今は外にいるわたしたちと比較して、少しいやな感触を伴っていて。
「勇者があの迷宮の核を破壊した瞬間に、ダンジョンが崩れ始めた。わたしたちはなんとか脱出できたけど、一番深い階層にいた二人は多分……逃げ遅れた」
やはり、お師匠さんはその結果を、簡潔に言いました。
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