赤髪ちゃんの告白
「お姉さん! お肉おいしいです! 焼き加減が絶妙です!」
「そうじゃろそうじゃろ〜? お姉さんは強いだけじゃなく、パーフェクトなお嫁さんも目指してるからね〜。お料理も完璧なんだよ〜!」
獲物を倒したあとは、当然ご飯の時間です。
お姉さんが仕留めたメイルレザルはとても大きく、食べ応えがある巨体でした。先ほど調理してくれた冒険者のみなさんのように、わたしもお姉さんも調理器具を持っているわけではなかったので、お姉さんが起こしてくれた火でいい感じの丸焼きになりました。
これはこれで、ワイルドな食べ応えです。心なしか、浅い階層にいたメイルレザルよりも、肉質も良いように感じられます。
「あの、お姉さん」
「んー?」
「お姉さんは多分、とても強いと思うんですけど」
「お! アカちゃん、見る目があるねえ。その通り! ワタシはとっても強いんだよ」
えへん、と。
お肉を頬張りながら、お姉さんは胸を張りました。
「でも、そんな風に強いお姉さんも……さっきのお話を聞く限り、負けたことがあるんですよね?」
「うんうん、そうだね。負けたせいで、こんな感じに片目を抉られる羽目になっちゃったんだ」
自分の眼帯を軽くつつきながら、お姉さんは笑います。
「それは、なんというか……大変な経験をされましたね」
「そりゃもう大変だったよ〜。でもでも、そういう経験をしたから、今のワタシがあるわけだし。後悔はしてないかな?」
「……そういう、ものですか?」
「そういうものなんだよ」
お姉さんは朗らかで抜けている人のようでしたが、しかしその考え方はやっぱりわたしなんかよりも、ずっと大人な気がしました。
「お姉さんは、すごいですね……」
「うむうむ。ワタシはすごいよ。とてもすごいよ」
「はい! 今のわたしの中で、お姉さんはすでに勇者さんたちの次くらいにすごい人になってます! それくらいすごいです!」
「わぁ……アカちゃん、うれしいこと言ってくれるね〜! そんな良い子にはもっとお肉をあげよう!」
「はい! いただきます!」
もらったお肉を頬張って、お姉さんと見詰め合って、少し間がありました。
「……ん? なんか今、アカちゃん……勇者くんたちのことを知ってるみたいな口ぶりだったけど?」
「はい! 何を隠そう、わたしは勇者パーティーの一員ですから! 勇者さんに助けていただいたから、今のわたしがあるんです!」
「……」
「あれ? もしかして、お姉さんも勇者さんのこと、ご存知なんですか?」
ぽろり、と。
唐突に。
お姉さんの目から、雫が落ちました。
ぽろぽろ、と。それは絶え間なく落ちて、乾いた地面に滲みを作りました。
「え、え……お、お姉さん!? どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
「……よかったぁ」
「え?」
「よかったぁ、よかったよぉ……勇者くん、ちゃんと無事だったんだ。生きてたんだ。よかったぁ……」
あれほどかっこよくてきれいで強いお姉さんが、まるで子どものように。ぐずぐずと泣きじゃくる姿を見て、わたしは慌てました。
「だ、大丈夫ですよ! お姉さん! 勇者さんは元気です! とてもお元気です! だ、だから泣かないでください!」
「勇者くん、急に行方不明になっちゃったから……わたし、わたしね? ほんとに心配で……」
「わかります! それは本当に、ご心配なさって当然だと思います!」
本当に、腰の力まで抜けてしまったように。こてん、と座り込んだまま止まらない涙を拭うお姉さんの頭を、わたしはよしよしと撫でながら、ぎゅっと抱き締めてあげました。
なんでしょう? 先ほどまでと立場がまるで正反対になっている気がします。
というか、今まで能天気に旅を続けてきましたが、やっぱり勇者さんがいなくなったのって、お国では大事になってたんですね……なんだかちょっと、申し訳なくなってきました。
「馬鹿な新聞は、勇者くんは死んじゃったなんて、アホな記事書いてるし……」
「そんなことありません! ぴんぴんしてますよ! そもそも、勇者さんは死にません! どうせ死んでも死霊術師さんが生き返らせてくれますし!」
「魔王が復活したなんて、根も葉もない噂まで流れてきて……」
「う……」
それはちょっと本当なんですよね……。
「……アカちゃん?」
勇者さんのこともありますし、なによりもこんなにわたしのことを助けてくれたお姉さんに、嘘を吐くのは気が引けます。
抱き締めていた身体を少し離して、それでも吐き出した息が感じられるほどに近い距離で。
わたしは、お姉さんに告白しました。
「お姉さん。わたし……実は、魔王だったらしいんです」
「……え?」
瞳から、あれほど止め処なく流れていた涙が。
ぴたりと、止まりました。
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