最強パーティーの効率的なダンジョン攻略

「よし! 今度こそおれたちもダンジョン潜るぞ!」

「落ち着いてください勇者さん」

「うぼっ」


 頼れる仲間を得て早々、ダンジョンに突っ込もうとしたら、首根っこを賢者ちゃんに締め上げられた。

 もういいよ。さっきやったよこの流れは。

 おれは早くダンジョンに突入して赤髪ちゃんの無事を確かめなければならないのだ。


「なんでだ賢者ちゃん!? せっかくこうして頼れる仲間も増やしてきたのに!」

「そのチンピラどもが頼れる仲間になるかは大いに疑問が残りますが、勇者さんが上半身裸で男同士の遊びに興じている間に、私もある程度情報を仕入れておきました」

「というと?」

「どうやらこのダンジョン、下の階層へ続くルートの発見が相当困難らしく。まだ土竜たちも三層で手をこまねいているようです。そして、先ほど聞き耳を立ててみたところ、一番深い場所に潜っていたパーティーが一旦帰投する、との連絡が入っていました」


 上半身裸で男同士の遊びに興じていた、というセリフには大いに反論したいところではあるが、しかし賢者ちゃんが得てきた情報はかなり有用だった。

 つまり、今のダンジョンの中は他のパーティーがほとんどおらず、探索はし放題ということである。

 これはかなり大きい。


「周辺をぐるっと回ってみて、入り口になりそうな場所も見つけました。探知もかけておいたので、周囲に人もいません。赤髪さんはもっと深いところにいるようなので、巻き込む心配もないでしょう」


 そして、中の構造は賢者ちゃんがある程度探知魔術で把握済み。

 なるほど、たしかに。これなら、おれたちがダンジョン攻略する時にいつも使っていた、が活かせる。


「そんなわけで、さっさと始めてしまいましょうか。では、騎士さん。よろしくお願いします」

「はーい。ひさびさだから腕が鳴るね!」


 言いながら全身甲冑のフル装備になった騎士ちゃんは、いつもの二刀流ではなく、めずらしく両手で一振りの大剣を構えた。その刀身から、凄まじい勢いで炎が迸り……魔法効果によって形作られた炎の刀身は、超高温で固められた大地を抉り掘るナイフとなる。身の丈ほど、なんて表現では生温い。城壁をそのままスライスできそうな刃渡りの、灼熱の大剣。

 ぽかん、と。冒険者たちはその規格外の破壊の熱量を見上げた。

 うん。まあ、これで切られたら絶対死ぬだろうからね。驚いて開いた口が塞がらないのも、無理はないと思う。

 そんな周囲の驚愕を意にも介さず、騎士ちゃんは炎の大剣を意気揚々と構えた。


「一気に五層まで抜きたいな〜!」

「とはいえ、これやるのもひさしぶりですからね。ここは欲張らずに四層までにしておきましょう」


 その刃が、地面に突き刺さる。

 炎の剣が、凄まじい音を響かせながら、大地をゴリゴリと穿いて抉る。

 おれたちがやっていることは、極めてシンプルだ。

 圧倒的な火力でダンジョンの地下構造を、地上から深い階層まで直通で潜れるルートを形成する。

 つまり、迷って惑って出口を探してほしい制作者の意図を全否定する、ショートカットである。

 風情がない気もするが、だって仕方がない。うちのパーティーは、これをやるのが最も効率が良いのだから。


「うわぁあああああ!?」

「ひ、ひぃいいいい!?」

「はいはい。危ないから下がってね」


 悲鳴をあげて逃げ惑う冒険者のみなさんを避難誘導しつつ、隣に立つ賢者ちゃんに聞く。


「どう?」

「いい感じに掘れてますね。やっぱりダンジョンの攻略はこれが一番です」

「攻略法としては明らかに邪道だけどね、これ」

「ダンジョンなんて最下層に辿り着ければなんでもいいんですよ。迷ったり罠を解除しながら進むのは、非効率的です」


 まったくもって、夢も希望もない返答だった。

 多分、ダンジョンを作った人がこれを聞いたら泣くだろう。


「ふぃ〜! ひさびさに良い穴が掘れたぁ!」


 頭兜のフェイスガードを引き上げた騎士ちゃんが、一仕事終えた達成感に満ち満ちた顔で大剣に纏った炎を解く。

 地面には、高温でどろどろに溶けた大穴が空いていた。

 賢者ちゃんが、すかさず魔術で状態を確認する。


「四層まできっちり抜けました。充分ですね」

「じゃ、わたしが先行する」

「あ、武闘家さんちょっとまってください。今、騎士さんが水流し込んで通路冷やしてくれますから」


 新しく生成された出入り口。しかも、四層への直通路。

 それを呆然と見詰めるしかない冒険者のみなさんに向けて、上半身を風に晒しながら、おれは言った。


「いくぞお前らァ! 今から、死ぬほど稼がせてやるから、黙ってついてこい!」


 爆発した歓声が、返事の代わりだった。

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