赤髪ちゃんのおいしいダンジョンご飯

「このトカゲおいしいです!」

「そ、そりゃあよかった……」


 ほっぺが落ちそう、とはこのことでしょうか。

 なんと、助けた冒険者のみなさんは「お礼がしたい」ということで、わたしが仕留めたトカゲを調理してくださいました。


「そら。串焼きおかわりだ。まだまだ焼くからな」

「ん〜!」


 香辛料をピリっと効かせた串焼きを頬張ります。トカゲ肉、ということで最初は少し身構えてしまいましたが独特の風味こそあるものの、噛み応えがあってとてもジューシーです。狩ってその場で調理しないと味わえない、ワイルドな一品です。


「こっちは煮込みのスープだよ。メイルレザルの骨は良い出汁が出る」

「んん〜!」


 一口、口に含めば旨味が口の中いっぱいに広がりました。これは実に満足感のあるスープです。味付けは持ち込んでいた塩コショウと香草だけしか使っていない、とのことだったので、それだけ骨から滲み出る旨味が優れているのでしょう。これはちょっと毎日でも飲みたいですね……


「目玉の丸焼き。珍味って言われてるものだけど……食べる?」

「おいおい。そんなゲテモノはさすがにお嬢ちゃんには……」

「もちろんいただきます!」


 いわゆる見た目はアレ、という分類の料理になるのでしょうか。ですが、わたしは料理を見た目で判断するつもりは毛頭ありませんし……なにより、せっかく出していただいた料理を残すのは、わたしの主義に反するというものです! 


「っ……!」


 食べた瞬間に、わたしは思わず目を見開きました。


「んんん〜!」


 珍味、という一言では片付けられない味わいが、舌の先から頭の中まで駆け回ります。独特極まる食感と、天然のスパイスのようにあとから追ってくる苦味が、得も言えぬ多幸感を提供してくれました。わたしはお酒というものを飲んだことがありませんが、これは間違いなくお酒にめちゃくちゃ合うのではないでしょうか……? 


「うぅ……こんなことなら、もう片方の目玉潰さなきゃよかったです」

「あはは……」


 スープの鍋をかき回していた女性の魔術士さんが、ちょっと引きつった笑みを浮かべました。


「それにしてもよく食べるなぁ、お嬢ちゃん」

「なに言ってんの。この子はあたしたちの命の恩人よ。いくら食べてもらっても足りないくらいだわ」

「えへへ……あ、おかわりください!」

「もちろん。どんどん食べて」


 なんと言えばいいのでしょうか。

 わたしは今まで、勇者さんに助けてもらってばかりだったので、こうして誰かを助けて感謝してもらう、というのがとても嬉しく感じられます。勇者さんが「冒険は助け合いだよ」とよく言ってましたが、本当にその通りですね。あとお肉がおいしいです。


「それで、お嬢ちゃんは地元の冒険者かい? このあたりじゃ見ない顔だが」

「あー、えっと。わたし、旅の途中でして」

「ああ、旅人さんだったか。なるほどな。それで、儲けられそうなダンジョンを見つけて立ち寄った、と」

「そ、そんな感じです!」

「話は大体わかったが……やめておいた方がいい。このダンジョンはかなり広いし、しかもモンスターも多い。いくらお嬢ちゃんがかなり腕が立つとはいっても、ソロでの攻略は危険過ぎる」

「え。わたし、パーティーの中で間違いなく一番弱いですけど」

「……?」

「……?」


 おじさんと顔を見合わせて、首を傾げ合います。

 なんでしょう。何か認識の違いが発生している気がしますが、まあいいでしょう。

 腹ごしらえも済んだことですし、探索に戻るとしましょう。


「ごちそうさまでした! とってもおいしかったです!」

「そりゃあなによりだ」

「本当に一人で大丈夫?」

「やめとけ。おれたちが束になっても叶わないメイルレザルを一人で倒せるんだ。心配するだけ野暮ってもんだぜ」

「それはそうだけど……」

「みなさんは、もう地上に戻られるんですか?」

「おう。財宝よりも命が大事だからな。オレたちにはこのレベルのダンジョンは無理だ」


 リーダーのおじさんは肩を竦めて溜息を吐きました。


「土竜として名が知られている『スカロプス』だけじゃなく、王都からはわざわざ騎士団の連中も攻略に来てるって話だ。本当に、くれぐれも気をつけてな」


 なるほど……よくわかりませんが、とにかくダンジョンのお宝を狙っている人たちは、たくさんいるみたいです。

 これは、うかうかしていられません。


「みなさん、ありがとうございました! でもわたし、大丈夫です。こう見えても方向感覚にはそれなりの自信がありますので!」


 冒険者のみなさんは名残惜しそうに顔を見合わせていましたが、わたしの言葉に軽く頷きました。


「まあ、ダンジョンの中で方向感覚が当てになるとは思えないが……とにかく無理はしないように」

「はい! みなさんも、お帰りは気をつけて!」

「あ! ちょっとまってくれ!」


 お辞儀をして歩き出したわたしを、リーダーのおじさんが呼び止めました。


「余計なお世話かもしれんが、この先のエリアはトラップも増える! 足元には気をつけて進むんだぞ!」

「はい! ありがとうございます! でも大丈夫です! わたし、こう見えても用心深いので!」


 そう言った瞬間。

 何かを踏み込むようなかちりという音と、体がふわりと浮き上がる不思議な感覚がありました。


「あ」


 ばこん、と。足元の地面が、不自然に二つに割れます。

 なるほど。これが俗に言う落とし穴というやつなのでしょう。

 わたしは、そのまま真っ逆さまに落下しました。


 ◇


「赤髪ちゃん大丈夫かなぁ……お腹空かせてないかなぁ……」

「だから心配しすぎですって。あの子、なんだかんだ図太いところありますから大丈夫ですよ」

「でもさぁ、賢者ちゃん。赤髪ちゃん、基本的に方向音痴ですぐ迷うし……」

「まあそれはそうですね」

「何にでも興味示すから、一度決めたらどんどんそっちに進んじゃうし……」

「それについてもまあそうですね」

「素直だからトラップとかにもかかりやすいだろうし……!」

「つくづく思うんですけど、あの子ほんとによく一人でダンジョンに突撃しましたね」

「だから心配なんだよぉ!」

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