赤髪ちゃんと謎のお姉さん

 また迷いました。

 一体、ここはどこなのでしょう? なんだか、一人で出発してから常に迷っている気がします。しかしながら、さっきの階層から『下』に降りられているのは間違い無いようです。わたしはダンジョンの最深部のお宝を目指しているわけで、目標にはしっかり近づいています。なので、迷っていないとも言えます。いや、むしろわたしは迷っていないのでしょう。迷っていないということにしておきましょう。よし! 


「うーん……」


 とりあえず「多分こっちだ!」と思った方へ歩き続けていますが、さっきご飯を食べた階層に比べるとかなり薄暗くなってきました。


「……ん?」


 ガサゴソ、と。物音が聞こえた気がします。

 またモンスターでしょうか? 

 食べられそうな感じのモンスターだと、嬉しいのですが……あと、わたし一人で調理できるようなやつだと、さらに嬉しいです。

 ですが、物音が聞こえた方に進んでみると、そこにいたのは、断じてモンスターなどではありませんでした。


「……」


 なんということでしょう。

 そこにあったのは、形の良い女性の臀部だったのです。

 要するに、お尻です。

 厳密に説明するのであれば、スカートが捲れ上がり、黒のタイツに包まれたパンツが薄く透けている……そういうタイプのお尻でした。ついでに言えば、色は白です。

 とにもかくにも、上半身を地面の穴に突っ込み、パンツを見せびらかしている下半身が、わたしの目の前にありました。


 なんなのでしょう、これは。


「やあやあ、こんにちは」


 お尻が、喋りました。


「え、あ、はい……こんにちは」

「驚いているようだね」


 そんな確認を取られても困ります。

 いきなりお尻に話しかけられたら、誰だって驚くというものです。

 とりあえず、見るに耐えないのでわたしは捲れ上がっているスカートをそっと戻してあげました。すると、お尻さんが左右にくねくねと動きます。中々鍛えられていそうな臀部です。


「今の感触……もしかして、スカートを戻してくれたのかな?」

「えっと、はい」

「ありがとう! 女性同士とはいえ、パンツを見られるのな恥ずかしいからね〜」


 どうやらこのお尻さん、最低限の恥じらいはお持ちのようです。


「ところで、ちょっとお願いをしてもいいかな?」


 お尻さんがさらに言葉を続けます。


「な、なんでしょう?」

「いやはや、実は罠に引っかかって、見ての通り穴に嵌って抜けられなくなっちゃったんだよね。だからこう、ぐいっと引き抜いてもらえるとうれしいかな〜、みたいな?」

「な、なるほど……?」


 しかし、お尻さんが嵌っている穴はかなり小さく、腰の部分で完全に詰まってしまっているように見えます。引っ張っても抜け出してもらうのは、ちょっと難しそうです。多分、周りを壊して出してあげた方が早いでしょう。


「ちょっとうるさいかもしれませんけど……我慢していただけますか?」

「うんうん。よろしく」


 上手くいけばいいのですが……

 わたしはお師匠さんに習った構えを取って、拳を一発。壁面に叩き込みました。


「うわっ!?」


 殴った床が、音を立てて割れます。元々穴が空いていたようなものですし、わたし如きの力で割れてよかったです。

 壊した勢いで嵌っていたお尻が抜けて、こてんと落ちます。それでようやく、わたしは彼女の下半身だけではなく、上半身も確認することができました。

 そして、思わず固まってしまいました。

 それは彼女が美人だから、とか。見惚れてしまったから、とかではなく。穴の中に隠れて見えなかった上半身に、軽くて丈夫そうな軽装の鎧を着込んでいたからです。


 ──王都からは騎士団の連中も来てるって話だ


 先ほど聞いた冒険者さんの言葉が、頭の中で蘇ります。


「ありがとう〜! 助かったよ! 赤髪のかわいこちゃん」

「えっと……あなたは」


 その女性は、わたしを見上げて、にっこりと微笑みました。

 きれいな黒髪と、肩口にかからないくらいでやはりきれいに切り揃えられた、艶のあるボブヘア。ですが、なによりも目を引くのは、片目を隠す眼帯でした。


「ワタシはイト。、イト・ユリシーズ」


 片方だけの瞳は、どこか優しげで。


「助けてもらったお礼は、このダンジョンのお宝の在処……とかでいいかな?」

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