賢者ちゃんのよくわかる魔術地雷解説
時間は、死霊術師さんが爆発する少し前に遡る。
おれはパーティーを率いるリーダーであるのと同時に、世界を救った勇者である。
勇者たる者、人々に害を為す存在には常に目を光らせておかなければならない。
「魔術地雷?」
「はい。そうなんです」
怪訝極まるおれの声に、賢者ちゃんはきれいな翠色の流し目を向けた。
ギルドの受付嬢として働き始めたこちらの賢者ちゃんは、耳を魔術で誤魔化し、髪を結ってまとめている。そして、制服であるタイトスカートにベスト、リボンの制服をきちっと着こなしていた。性格なのか性分なのか、いろいろとおしゃれをすることが多い騎士ちゃんや死霊術師さんに比べて、いつも同じようなローブ姿でフードを被っていることが多い賢者ちゃんなので、こういった服装には新鮮味があった。つまり似合っていてかわいいということだ。
「賢者ちゃん、制服似合っててかわいいね」
「は? なんです。今さら口説いてるんですか?」
思ったことをそのまま言うと、翠色の瞳がジト目に変化した。思ったことをそのまま言っただけなのだが、随分な塩対応である。
「仕事の話ですよ。真面目に聞いてください」
「はーい」
「今回、勇者さんにお願いしたいのは、魔術地雷の撤去です」
「うん。魔術地雷っていうのはさっき聞いたんだけど、そもそもなんでそんな物騒なものが村の近くにあるわけ?」
至極真っ当な疑問を口にすると、これに関しては賢者ちゃんも「勇者さんのその質問は尤もです」と肯定してくれた。
「なんでも、村外れの丘の上には魔導師崩れのお婆さんが住んでいるそうでして。その方が人やモンスターを寄せ付けないために、勝手に魔術地雷をばら撒いてしまったそうなんです」
そりゃなんともはた迷惑な……
「なので、地雷が埋まっているのは主に村近くの丘の上です。歩いて行ける距離だから楽で良いですね」
「歩いて行ける距離に地雷が埋まってちゃだめだろ」
「場所が場所なので、村に近づくモンスターを迎撃するトラップとしても機能はしているようなのですが、根本的に危険であることは否定できません。なので今回、勇者さんにご依頼したいのは、これらの地雷の安全な排除です」
「依頼が面倒で聞いてるわけじゃないんだけど……賢者ちゃんの魔術で対処はできないの?」
今さら説明するまでもなく、賢者ちゃんは魔術分野における生粋のスペシャリストである。魔術に関しては基本的に知らないことはないし、できないことを探す方が困難なくらいだ。
しかし、おれの問いかけを聞いた賢者ちゃんは、何とも言えない表情で唇を噛み締めた。
「もちろん、本来なら天才であるこの私に解析、解除できない魔術はありません。ですが、魔術地雷はその性質上、探知して発見することが困難です」
足元に仕掛けるものだから、見つからないようにできている。
そもそも見つけることが難しいので、解析が困難。その理屈はわかる。
「じゃあ、遠距離から炎熱系か砂岩系の魔術で、地雷がありそうな場所を一斉に爆撃したら?」
単純な話、地雷そのものを解除できなくても、何らかの魔術で遠距離から衝撃を与えて爆発させてしまえば、地雷の一掃は可能なはずである。
「うわ……相変わらず思いつく解決方法が脳筋ですね」
「でも、それなら解決はできるでしょ?」
「ところがどっこい。そう単純な話でもありません。勇者さんは魔術地雷にも種類があるのをご存知ですか?」
「は? 地雷に種類とかあるの?」
踏んだら爆発するってだけじゃないのかよ!?
やれやれとこれみよがしにため息を吐きながら、まるで無知な生徒に語って言い聞かせるように。賢者ちゃんはどこから取り出した紙にペンを走らせ始めた。
「物体を爆破、炸裂させる魔術は、大きく分けて二種類に分類できます。まず、爆破する媒介を用意するタイプ。専用の爆発物を用意して飛び散る破片による殺傷を目的としたり、もしくはコンパクトな運用のために魔術用紙などを利用するものがこれにあたります」
そう言われて、おれは剣をぶんぶん振り回しながら周囲を爆破しまくってた強すぎる先輩の顔を思い浮かべた。なんだか懐かしいな。先輩は元気にしているだろうか。
「今なんか昔の女のこと思い出してませんでした?」
「ソンナコトナイヨ?」
心でも読んでるのかな?
「で、もう一つは?」
「……物体に直接魔導陣を仕込み、それそのものを爆発物に変えてしまうタイプです」
言いながら、賢者ちゃんの細い指の上で羽根ペンが回る。魔法によって一瞬で二本に増えたそのペン先に、小さな小さな魔導陣が浮かび上がり、おれの鼻先でボンっと小さく爆発した。
原理とかはよくわからないが、多分めちゃくちゃ高度なことをしたんだと思う。賢者ちゃんがあまりにもサラッとやるせいで実感が沸かないが。
「もちろん、外部からの強い衝撃によって起爆する簡単な術式なら、勇者さんがさっき言った方法で一掃できるでしょう。しかし、後者の高等術式は生命反応を感知して起爆するパターンがほとんどです。物体に仕込まれた起爆術式そのものは取り除けません」
「つまり?」
「遠距離から魔術で攻撃して一掃しようにも、それは逆に、無駄に広範囲に爆弾を撒き散らすような結果になりかねない……というわけです」
うーん、それは困るなぁ。
「つまり、その地雷を除去するためには、片っ端から生き物が踏んで起爆させていくのが一番早いってわけか」
「はい」
「なるほど。そういうことなら適任は一人しかいないな……」
「ええ。内容が内容ですから、この依頼は報酬の額も悪くありません。死霊術師さんを使ってサクッと地雷除去してきてください」
賢者ちゃんは本当にめずらしく、満面の笑みで朗らかに言い切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます