死霊術師さんの華麗なる爆発

 とりあえず神扱いされてた死霊術師さんを診療所からお借りして、おれたちは村から歩いて行ける距離にある小高い丘までやってきた。


「なんだかハイキングみたいで楽しいですね!」

「右に勇者さま。左に魔王さま。余計な邪魔者もいませんし……ふふ、これが両手に花というやつですわね」


 今日は天気も良いので赤髪ちゃんはもちろん、ナース服のままおれたちに挟まれている死霊術師さんも、なんだか上機嫌だ。

 とはいえ、おれたちは遊びに来たわけではなく、仕事をしに来たわけで。依頼はきっちりこなさなければならない。


「それで勇者さま? わたくし、何をすればよろしいのでしょう?」

「ああ、依頼はこんな感じなんだけどね……」


 ギルドの依頼書を見せると、死霊術師さんはそれに素早く目を通して内容を確認した。


「……あらあら、まあまあ。なるほど。これはたしかに、わたくしが適任ですわね。報酬も悪くない額ですし」

「でしょう?」

「なんだか昔を思い出しますわ〜!」


 それでは準備が必要ですわね、と。

 呟いた死霊術師さんは、おれに対してゆっくりと背中を向けた。


「勇者さま、背中のファスナーを……下ろしていただけますか?」


 特殊なプレイか何かだろうか?


「ちょ、ちょっとまってください! どうして脱ぐ必要があるんですか!?」

「どうして……と申されましても。まずは服を脱がないことには、この依頼は始めることができませんし」

「そんなわけないでしょう!? どんな依頼ですか!?」

「いや、たしかに脱がないとこの仕事は始められないんだよね」

「え、えぇ!?」


 困惑してる赤髪ちゃんを他所に、おれは死霊術師さんの背中に手をかけた。服を脱がせるだけだ。別にいかがわしいことをするわけではない。そう、これはあくまでも服を脱がせるだけだ。別に決して、断じていかがわしいことをするわけではない。


「はぁ……勇者さまに背中のファスナーを下ろしてもらえるなんて……興奮で鼻血が出そうです」


 相変わらず死霊術師さんは変態みたいなことを言う。


「っ……どいてください勇者さん!」

「あ、赤髪ちゃん?」

「勇者さんが脱がせるなら、わたしが脱がせます!」


 髪色と同じくらい顔を赤くした赤髪ちゃんは、おれと死霊術師さんの間に割って入って、ナース服の後ろのファスナーをびっと下ろしてひん剥いた。


「ああっ! ま、魔王さま……もっと優しくしてください」

「変な声出さないでください! 服を脱がせてるだけでしょう!」

「……あ、勇者さま。ちり紙とかお持ちですか?」

「あるけどなんで?」

「申し訳ありません。わたくし、本当に興奮で鼻血が……」

「うわ」


 相変わらず死霊術師さんは変態だった。

 なにはともあれ、赤髪ちゃんに手伝ってもらって無事に借り物のナース服を脱ぎ、ついでに下着の一つに至るまですべて脱ぎ捨てて、死霊術師さんが生まれたままの姿になったところで、準備は完了である。


「さて、それでは始めましょうか」

「うん。よろしく」

「ではお二人とも。くれぐれも足元にはお気をつけて、十分な距離を取ってをついてきてくださいね?」


 そのまま素っ裸の大股で堂々と歩き始めた死霊術師さんを、変態を見るような目で眺めながら……事実として変態なのだが……赤髪ちゃんはおれに聞いてきた。


「勇者さん……これ、本当に全裸になる意味あったんですか?」

「もちろん。借り物の服を木っ端微塵にするわけにはいかないからね」

「……木っ端微塵?」


 赤髪ちゃんの、その疑問の声が合図であったかのように。

 かちり、と。死霊術師さんの裸足が何かを踏む音がして。

 ドカン、と。そんな擬音の形容では生温い、凄まじい轟音が、前方で鳴り響いた。

 端的に言えば、それは爆発だった。厳密に言えば、それは魔術による爆発だった。さらに詳細に説明するならば、それは地面に仕込まれた炎熱系の魔術が作動したことによる、魔術的な爆発だった。

 つまり爆発である。大事なことなので四回言いました。


「……え?」


 さっきまでハイキングという名の気軽なお散歩を楽しんでいた赤髪ちゃんの表情が固まる。元気よく地面を踏み締めていた足が、生まれたての子鹿のように震え出す。


「あの……勇者さん。どんな依頼を受けてきたのか、お聞きしても良いですか?」

「うん。違法に設置されただよ」


 だらだらと冷や汗まで流しはじめた赤髪ちゃんを安心させるために、おれは爽やかに笑いかけた。


「踏んで爆発するだけ。死霊術師さんにぴったりの仕事でしょ?」

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