勇者の勇敢なる爆発

 今さら説明するまでもなく、我がパーティーにおける死霊術師さんの運用は、メイン盾である。

 仲間になってからの死霊術師さんは、常に体を張って、パーティーが生き残るための血路を切り開き続けてきた。

 そして今日もまた、死霊術師さんはおれたちのために元気に先頭に立ち、爆散してくれている。


「そんなわけで、死霊術師さんで地雷除去するのが一番楽だなっていう結論に至った、と。事情は理解してもらえたかな? 赤髪ちゃん」

「理解はできましたけど、脳が受け入れるのを微妙に拒みますね……」


 曖昧な表情で赤髪ちゃんがそう溢したのと、同時。

 死霊術師さんがまた地面を踏みしめて、かちりと嫌な音を鳴らした。数瞬遅れて、再び轟音が鳴り響く。


「あ、勇者さん。死霊術師さんがまた爆発しました」

「爆発したねえ」


 そろそろ、この派手な爆発音にも慣れてきた。

 吹き飛んだ腕がおれたちの足元まで転がってきて、数秒で素っ裸の女の形に戻る。


「ふぅぅ……」


 そのままのびのびとストレッチをはじめた死霊術師さんに、おれは問いかけた。


「どう? 死霊術師さん。地雷はどんな感じ?」

「なかなか質の良い爆発ですわね。ざっくり評価して、87点といったところでしょうか」

「どうして爆発に点数を付けているんですか?」


 赤髪ちゃんの正統派なツッコミが冴え渡る。

 しかしそれよりも、おれは死霊術師さんが地雷に付けた点数に目を剥いた。


「87点!? かなり高くないそれ?」

「ええ。爆発の威力、指向性、踏んだ時の起爆速度。どれをとっても一級品の地雷です。自爆ソムリエのわたくしが言うのですから、間違いありません」


 これは驚きである。まさか自爆ソムリエの死霊術師さんにここまでの高得点を出させるとは……!


「あの、自爆ソムリエってなんですか?」

「ああ、そっか。赤髪ちゃんは知らないよね。死霊術師さんは、昔からよく自爆をしていたんだけど……」

「昔はよく自爆を!?」

「うん。おれたちと敵対していた頃は、自爆が基本戦術って言ってもいいくらいに自爆しまくってたからね。対処しながら殺すのが大変だったよ」

「懐かしいですわね〜! あの頃は勇者さまもあの手この手でわたくしの自爆を封じながら殺そうとしてくださったものです。今となっては、とても良い思い出ですわ〜!」


 あはは、おほほ、と。笑い合うおれと死霊術師さんを見て、赤髪ちゃんは顔を引き攣らせながら一歩距離を取った。そんな、狂人をまとめて見るような目でおれと死霊術師さんを括るのはやめてほしい。おれは当時、真っ当に魔王軍四天王を攻略しようとしていただけなのだが……

 全裸で腰に手を当てながら、死霊術師さんはやけにすっきりした表情で言葉を続ける。


「それにしても、最近はあんまり爆発してなかったので、たまにはこうして爆死するのも悪くはないですわね。爆発の質も極めて高いですし」

「死霊術師さんがそこまで褒めるのは本当にすごいね」

「ええ。昔取った杵柄とはいえ、わたくし、自爆に関しては少々うるさいので。この地雷での爆死は自信を持ってオススメできると言えるでしょう!」


 ふーむ。

 ここまでベタ褒めされると、ちょっと気になってくるのが人間の好奇心というものだ。


「じゃあちょっと、おれも爆発してみようかな。赤髪ちゃんはここから動かないでね」

「え?」

「あらあらあら! 勇者さまも体験してみますか!? わたくしの推測ではこのあたりに次の地雷が埋まっていると思いますわ!」

「ここらへんかな?」


 死霊術師さんに誘導された方向へ、軽くダッシュしてみる。予想通りというべきか、かちりと何かを踏み込む感触と音が、足裏にあった。


「ちょ、勇者さ……!」


 赤髪ちゃんの制止の声を最後まで聞くこともなく、おれの意識は一瞬で爆ぜて飛んだ。

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