勇者に最も近い騎士

 授業前に、なんとか教室に戻ってくることができた。


「やあ、親友。お姫様の良い口説き文句は思いついたかい?」

「あ、聞いてくれよ、レオ。おれ、さっき生徒会長のパンツを見たんだけど」

「うん。待ってくれ。お願いだからきちんと会話をしてくれないか?」


 かくかくしかじか。

 先ほどの出来事を手短かに説明すると、レオはふむふむと頷いた。


「なるほど。生徒会長か……」


 顎に手を当てて、目を細めて感慨に耽る。そうした所作だけでも、顔が良い男は様になるのだからずるい。


「何か知っているのか?」

「いや、ボクもパンツ見たかったな……と思って」

「黙れ顔だけ童貞」

「何色だった?」

「白だった」

「いいね」


 よくはない。


「それで、キミはパンツを見てどうしたんだい?」

「いや、べつにどうもなかったけど」

「え。パンツを見たのに? 何もなかったのか!?」

「お前さてはパンツ好きだろ」

「逆に質問を返すけど、この世にレディのパンティが嫌いな男がいると思うかい?」

「いや、いない」

「だろう?」


 しかし、今はパンツの話はどうでもいい。


「で、生徒会長ってどんな人なんだ?」

「キミ、本当に何も知らないね……」

「悪いな。田舎育ちなもんで」

「その無知。まるで汚れを知らない白の布地のようだよ」

「お前が白派なのはもうわかったよ」


 余談だが、おれはやっぱり黒の方がえっちだと思う。


「さて、生徒会長の話をすればいいのかな?」

「ああ」

「彼女は、平民の出でね。出自に関してはあまりはっきりしてないんだ。家族に関する情報はなくて、入学の際には騎士団長の一人が後見人になったという話だよ」

「へえ」


 騎士学校の入学試験は、希望すれば誰でも受けれられるわけではない。レオやアリアのように家が特別な力を持っていたり、もしくは魔力や剣の才能に秀でた人間でないと、まず門を叩くことすら難しい。

 しかも、騎士団長といえば王都を守護する五人の精鋭……すべての騎士の頂点に位置する存在。そんな人物が後見人になっていて、それでも出自がはっきりしていない、というのはかなりおかしな話だ。


「それはなんともあやしいな」

「キミもあまり人のことは言えないと思うけどね?」

「お前、さてはおれのこと調べただろ?」

「情報は武器だよ、親友。それに、実家が商売をやってると、噂話には耳聡くなるのさ」


 もう少しその噂話とやらについて問い詰めたかったが、レオは素知らぬ顔でおれに話の続きを促してきた。


「で、会長は、何か言っていたのかい?」

「いや、授業がはじまるまでもう時間もなかったし、どうせ放課後に会うから……」


 ────またあとでね


 と。耳元で囁きかけられた感覚がまだ残っていて、おれはなんとなく押し黙った。

 顔は赤くなっていないと思う。多分、きっと。


「そういえば、放課後に生徒会室に呼び出されていたね」

「そういうこと」

「ボクの分までがんばってくれよ、親友」

「めんどくせえなぁ」

「生徒会の仕事にプリンセスとのデート。今日の放課後はイベントが目白押しだね」

「やることが多くて困っちまうよ」

「学生はそれくらいの方がちょうどいいのさ。三年間の青い春は短い。目一杯楽しまないと」


 コイツ、他人事だからってジジイみたいなこと言うな……


「生徒会長について、他に何か知ってることは?」

「知ってるも何も、まあ彼女の立場がそれを物語っているよね」


 回りくどい言葉の使い方をしながら、レオはまたこれ見よがしに肩をすくめてみせた。


「学生騎士の頂点に、女性の身でありながら最速最短で登り詰めた異端。この学校の生徒会長になるということは……この学校で一番強いってことを端的に証明しているわけさ」

「一番強い、ね」

「特に、キミにとっては学べることも多いと思うよ、親友。会長とキミは、似た者同士だからね」

「似てる? どこが?」

「やれやれ。自分が何を目指しているのか。もう忘れたのかい?」


 声音に、呆れが多分に混じる。


。会長はそう呼ばれているのさ」



◇ ◇ ◇



「会長、機嫌いいですね。何か良いことでもあったんですか?」

「あっ! やっぱりわかっちゃう?」

「そりゃあ、見ればわかりますよ。将来有望な後輩でも見つけましたか?」

「そうそう! さっき、壁にハマって困ってたんだけど」

「いやちょっとまってください。壁にハマってた?」

「そしたら、個人的に気になってた後輩くんが助けてくれてね! パンツも見られちゃったの!」

「……それは、良いことなんですか?」

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