人を殴れば金は増える
お待たせしました。ストックができたのでまた更新を再開させていただきます。
よろしくお願いします!
◇◇◇
結局、師匠を止めるために数分間ガチの立会いをする羽目になってしまった。本当に死ぬかと思った。後半は明らかにおれの正体を看破してたくせに、ノリノリで拳を打ち込んでくるのは本当にやめてほしい。
「師匠! 何してるんですか師匠!?」
「殴り合ってた」
「そういうことを聞いてるんじゃなくて!」
なんとかあのお祭りから師匠を連れ出すことに成功し、宿屋に戻ったおれは師匠に対するお説教タイムに入っていた。
「なんですかあのイベントは!?」
「人を殴って勝てばお金が貰える、素晴らしい催し」
むん、と師匠はドヤ顔で言う。
相変わらず1000年くらい生きているせいで、倫理観がぶっとんでいる。流石だ。全然流石じゃないけど。
「まさかとは思いますけど、昼間言ってた仕事って」
「もちろん、これ」
おれはもう言葉を紡ぐことを諦めて天井を仰いだ。深く考えなくても、思い出さなくても、師匠はそもそもこういう人である。そういえば、騎士ちゃんたちとはぐれて2人で旅をしていた時期も、よく賞金があるアウトローな大会に参加して日銭を稼いでいた。
「だめです。ちゃんと仕事をしてください」
「えー」
「えー、じゃありません! ていうか、よくその見た目であんな物騒な祭りに参加できましたね?」
「子どもっぽく駄々こねてみたら通った。ああいうのは、一度出てしまえばこっちのもの。あとは、勝手に盛り上がる」
この師匠、自分の子どもっぽい見た目を活用するのに本当に躊躇いがない。ある意味、開き直りが激しいともいう。
「この趣味の悪い仮面は?」
「趣味の悪い?」
「あ、すいません。大変失礼いたしました。このかっこいい仮面は?」
「ふふん。大会とかに、出る時用のやつ。顔を覚えられると、面倒なことになることもある。長生きだから」
「無駄に歳食ってるわりにこんなにダサいのをみると、やはりセンスというものは持って生まれたものなのだと痛感致しますわね」
「残念。死ぬまでに理解できるようになることを、せつに祈っている」
「勇者さま、勇者さま。なんということでしょう。皮肉すら通じていませんわ」
ひそひそと、師匠にも聞こえる声で死霊術師さんが言うが、師匠は泰然とドヤ顔で仮面を見せびらかしている。やべえなこの人。メンタルにまで『
「とにかく、こういう大会に出て荒稼ぎするのはダメです」
「えー」
「えー、じゃありません! 師匠ももういい歳なんですから、落ち着きというものを覚えてください」
「わたしは、いつも冷静」
「じゃあ、もうやんちゃしないでください」
「拳を交わすのは、わたしの人生の楽しみ」
「ああ言えばこう言うなぁもう!」
おれが師匠をお説教する、というめずらしい構図をしばらく見守る構えだった騎士ちゃんが、しかしそこで口を挟んできた。
「でも、勇者くんも昔はかなりやんちゃしてたじゃん」
「え?」
思わぬところから刺されて、ちょっと言葉に詰まる。
「そうだったんですか?」
「そうだよー。前もいろいろ話したけど、騎士学校に入学した頃の勇者くんとかほんとにやんちゃしてたからさ」
そこに好奇心の塊とも言える赤髪ちゃんが絡むと、もう手がつけられなくなってしまう。
「勇者さんの昔の話、もっと聞きたいです!」
きらきらした目でそう聞かれてしまうと。赤髪ちゃんに弱いおれとしては、観念するしかないわけで。
「あー、まあ。おれと騎士ちゃんが出会った時のことは、前も話したと思うけど。わりと学校でも、結構いろいろあって……」
なんとなく、みんなが昔話を聞き込む気配になる。
話は、おれが騎士ちゃんと出会った、その翌日。おれがまだ、未熟極まるガキだった頃に遡る。
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