おれの隣の席の姫騎士が最強すぎる

勇者の騎士学校生活。一日目

 太陽の光に顔を照らされて、目を覚ます。

 起き上がって背伸びをする。春の香りをのせた風は、まだ少し冷たかったが、眠気を覚ますにはちょうどよかった。


「……良い天気だ」


 思わず、そんな独り言が漏れ出る。

 空が青い。見上げれば白い雲が浮かんでいて、肺の中に吸い込む空気が美味い。爽やかな一日のはじまりを実感するには、それで十分だった。

 昨日は、いろいろなことがあった。

 勇者になるために、まずは手っ取り早く強くなるために騎士としての経験を積むべきだ、と。そんな理屈で騎士学校への入学推薦を貰ったが、おれはそこまで気乗りしているわけではなかった。強くなるだけならすぐにでも冒険の旅に出て、たくさん経験を積めば良いじゃないかと、そう考えていた。

 しかし、昨日刃を交えた少女……隣国のお姫様であるアリア・リナージュ・アイアラスは、それはもう強かった。同年代にも、おれと同じくらい、もしくはおれよりも強いやつはたくさんいるのかもしれない。おれはあまりにも浅い自分の考えを、深く悔い改めた。

 まずは、この騎士学校で強くなろう。

 入学式初日から隣の国のお姫様と仲良くなって、調子に乗って校舎を半壊させてしまったり……と、散々だったが、いよいよ今日からだ。今日から本格的に、おれの騎士学校での生活が始まる……


「あ……」


 そこで、おれはようやく根本的な問題に気がついた。

 まず第一に、昨日までの記憶が、すっぽりと抜け落ちている。いや、アリアと屋上でバトルしてめちゃくちゃ怒られて、寮に戻って同室のやつと話に華が咲いたところまでは覚えているのだが、そこから先の記憶がない。ベッドに入った記憶はおろか、いつに寝たかの記憶すらない。

 第二に、おれが起床したのは、寮の部屋の中ではなく、道路のど真ん中だった。妙に体が痛かった理由はこれである。そりゃ、太陽の光を全身に浴びることができるわけだ。だって外だもん。春先の冷たい風に、全身が晒されるわけだ。だって壁ないもん。


「……れ?」


 そして、第三に。

 おれは、全裸だった。制服の上着も、シャツも、ズボンも、パンツすらない。紛うことなき完璧な全裸だった。


 そりゃ、寒いわけだ。だって服ないもん。


「そこのきみ、ちょっといいかな?」


 かけられた声に、自分の顔が引き攣るのを自覚する。振り返れば、そこにいたのはとりわけ優秀なことで知られている王都の憲兵団だった。紺色の制服をかっちりと着こなしたガタイの良い彼は、きっと朝のパトロールの途中だったのだろう。汚れたものを見るような目で、問いかけてくる。


「詰め所までご同行願いたい」


 斯くして。

 おれの学生生活は、全裸の全力ダッシュからはじまった。

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