新たな場所での、初仕事

「仕事を! 取ってきました!」

「「「おー」」」


 胸を張る騎士ちゃんに向けて、パチパチと拍手の音が響く。賢者ちゃんがボロ布被って遊んだり、死霊術師さんが賢者ちゃんのローブを被って遊んでいる間に、騎士ちゃんはちゃんと仕事を取ってきてくれたわけですからね。頭が上がりませんよまったく。


「まあ、あたしたちはこの村では新顔だし、そんなに大きな仕事じゃないけど……」

「いやいや、仕事取ってきただけですごいよ。流石だよ」

「えっへへ。まあ、それほどでもあるかなー」

「これでわたくしの服を買うお金もようやく確保できますわね!」

「ダメだよ死霊術師さん。先にお酒買うから」

「服よりも酒を……?」


 騎士としても姫としてもちょっとどうかと思うことをほざいているが、お仕事を取ってきてくれたのは騎士ちゃんなので、何も言えない。


「というわけで、明日はみんなで依頼主さんの農場に行くよ」

「農場?」

「うん。なんでも、最近モンスターが出るようになったらしくて、見張りとモンスター狩りをしてほしいんだって」

「へえ」


 魔王を討伐したあと、魔物による人間への被害は随分減ったと聞く。単純な話、各地でモンスターを指揮していた悪魔やら人語を介していた魔族やらが魔王という旗印を失って三々五々に散らばってしまったので、統率された運用がされなくなったのだ。


「このあたりは一年ほど前までは、人間の生活圏ではなかったですものね。モンスターが多く出没するのは、おかしな話ではありませんわ」


 素知らぬ顔で死霊術師さんはそんなことをほざいているが、何を隠そう魔王軍で基本的に傘下のモンスターを運用していたのは、他ならぬ彼女である。巨大で強力なモンスターを戦力を費やして討伐しても、死霊術師さんが触れて魔法で生き返らせるだけで復活してまた襲ってくる。人類がモンスターに苦しめられた理由の半分くらいは、絶対に死霊術師さんにあると思う。そうやって考えると、ほんとおれ、この人のことよく仲間にできたな……


「何か厄介な魔物の出没報告はありますの?」

「ううん。特には何も。強いモンスターは全然いなさそうだったよ」

「なら、楽な仕事ですね」


 慢心はよくないが、しかし騎士ちゃんにしろ賢者ちゃんにしろ、うちのパーティーメンバーから見ればほとんどのモンスターは雑魚のようなものである。死霊術師さんに至っては、いくら油断して慢心して死んでしまっても、どうせ生き返るのでなんの問題もない。世界を救ったパーティーは伊達ではないのだ。


「でも、この村に来て最初の依頼だし、しっかり取り組もうね」


 ふんす、と。鼻息荒く騎士ちゃんが言う。

 たしかに初心者みたいな依頼だが、しかし騎士ちゃんがせっかく取ってきてくれた仕事である。おれたちも全力で取り組まなければなるまい。それに、騎士ちゃんも見るからに張り切っているし。

 だが、パンをもぐもぐしながら師匠が言った。


「すまない。わたしは、ちょっとパス」

「ええ……? いくら師匠でもわがままはダメですよ。そりゃ、師匠と満足に殴り合えるモンスターは畑には出てこないと思いますけど」

「そうだよ武闘家さん。働くもの食うべからずだよ」

「やれやれ。わたしを、甘く見ないでほしい。わたし、こう見えてもみんなより長生き。今まで、一人で生活してきた時間も長かった」


 まあ、たしかに1000歳くらい年上ですけれども。


「騎士が取ってきた仕事とは別に、わたしはわたしで、もう仕事を取ってある」

「え!? ほんとですか師匠!?」

「ぶい」

「そうだったんだ……わたしが交渉してる間もおじさんからアメ玉とか貰ってたから、てっきり暇潰しについてきただけかと」


 なにやってんだよ師匠。


「え!? お師匠さんアメ玉貰ったんですか!?」

「うむ。分けてあげよう」

「甘いもの! ありがとうございます!」


 それでいいのか赤髪ちゃん。


「じゃあ、明日は師匠は別行動で。おれと騎士ちゃん、賢者ちゃんと……赤髪ちゃんも来る?」

「あ、えっと……わたしも一緒に行っても、大丈夫なんですか?」

「もちろん」


 小さなクエストとはいえ、これもまた貴重な経験だ。元々、興味があったのだろう。両手を挙げて、赤髪ちゃんは喜んだ。


「ありがとうございます! お役に立てるかわかりませんが、お供します!」

「おっけー」

「勇者さま! ちょっと待って下さい勇者さま!?」

「なに? どうしたの?」


 麻袋に入ったままの死霊術師さんが、体をくねらせる。


「わたくしは連れて行ってくださらないのですか!?」

「連れて行かないよ。当たり前でしょ」

「即答!?」


 いやだって、素っ裸の美女を麻袋に入れたまま持ち歩いて、奴隷商人に間違われたくないし……


「でも勇者くん。明日行く農場、結構広いらしいんだけど、人手足りるかな?」

「あ、そうなの?」

「うん。武闘家さんだけじゃなく、死霊術師さんまでいないとなると、ちょっと……」

「じゃあ、死霊術師さんも連れてこっか。畑に差しておけばカカシにはなるでしょ」

「わたくし、ここでみなさんの帰りを心よりお待ちしております」


 この女、言うことコロコロ変えやがって……


「勇者さん」

「どうしたの賢者ちゃん」

「まかせてください。私に良い考えがあります」


 ……ほんとにぃ? 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る