第53話 勇者たち
ダンジョンから帰還した生徒たちは戦闘の疲れや恐怖で自室で休むことになった。
そして帰還した日の翌日の朝、食堂に来たのは男子二人女子二人の計四名。
「……」
「……」
そんな四人も、黙ったまま黙々と食事を進めていく。
そして食事を終えると、四人は部屋に戻る。その途中、
「ねぇ、ちょっといいかな?」
一人の女子生徒が声をかけた。
その女子生徒はいばらがミノタウロスの攻撃から助けた女子生徒、
「話したいことがあるの」
四人は訓練場に移動した。現在訓練場は使われておらず人目が一つもない。内緒話をするには絶好の場所だ。
「不知火さん、話ってなに?」
不知火に声をかけたのは【水魔法】のスキルを持つ女子生徒、
「あの、何というか。昨日帰って来てから、何かが変わった気がするんだけど……」
そんな不知火の言葉に、三人は各々思うところがあるらしく顔を見合わせる。
「分かるかも。私もなんか頭の中のモヤみたいなのが取れた気がする」
「俺は、そもそもここに来てから妙な感覚はあったんだよな」
転移直後のことを思い出しているのは、【槍術】のスキルを持つ男子生徒、
「あぁ言ってたな。ここの飯も美味いけど変な味がするって。僕は気にならなかったけど」
九貫の言葉に反応したのは【風魔法】のスキルを持つ眼鏡をかけた男子生徒、
それぞれが思い当たる節を言葉にしていくと、より一層、四人の心の中の違和感が深まっていく。
「そういえばあの姫さんが夜部屋に来てたよな」
「あんまり覚えてないけど、けど言われてみれば確かに」
「……でもなんか記憶が朧げなんだよね。夜中だったからかな」
四人は思い出そうとするが、頭の中にモヤがかかったようで思い出せない。
それもそのはず、四人は魔道具『支配の瞳』レプリカによる洗脳を受けていたのだから。その洗脳が解きかけているのはミノタウロスと騎士たちの戦闘を見たからだ。
勇者たちにかけられた洗脳は『王国のために戦う』こと。だが騎士たちがミノタウロスにボコボコにされているのを見て、『死の恐怖』が『戦う』という洗脳を上回った。
その結果、『戦う』ことに関しての洗脳は解けた。だがシオンは用心深く、『洗脳をかけた』という記憶を勇者たちから消している。だから記憶の一部が朧げになっている。
ちなみに騎士たちに関しては長い年月をかけて洗脳をしているので、これくらいで解けることは無い。
「なんにせよ、姫さんが怪しことに変わりはないな」
「だな。しかし、これからどうする?このまま何もしない訳にはいかないだろ」
「そうだね。まずは話し合いかな。今部屋に引きこもってる子たちとも協力したいし」
「けど今の状況で話せるか?他の奴らは昨日のことで引きこもってる訳だろ。俺だっていまだに怖い」
四人は良い案が思い浮かばず、黙り込んでしまう。
「……そういえば、開化くんって何者だったんだろう」
不知火の一言で、沈黙が破られる。
「確かにな。あいつ銃使ってたし」
「一人だけスキル持ってなかったのに、一人でミノタウロスと戦ってた。というかなんか戦い慣れていた気がする」
「それと、あの忍田さんと一緒に登校してくるし」
九貫の言葉に一同は「確かに」と頷く。
いばらは金髪紅眼、整った容姿にスタイル、美少女と言うにふさわしい見た目をしている。そんないばらは小学生の頃から数えきれないほど多くの男から告白されていた。
故にいばらはかなりの有名人だ。
「毎日一緒に登下校してたよね。なのに学校内だと全然一緒に居ないし。私席が後ろだから気になって聞いてみたけど、「ただの幼馴染」って言ってたけど絶対ただの幼馴染って感じじゃないし」
「私、実は二人と中学校が同じなんだけど、開化くん学校にいてもほとんど誰とも喋らないし、部活に行かずにすぐに帰るし。昔からすごく大人びてるっていうか、他の人と雰囲気が違ったんだよね」
「なるほど。確かに俺たちがここに来てテンパってた時にもあいつだけ落ち着いてもんな。姫さんとかメイドとか見ても落ち着いてたし」
「あ、そういえば私の近所のスーパーでメイドが買い物してたんだけど」
「「ちょっと待った」」
水瀬の突然の言葉に、三人は待ったをかける。
「メイドってマジでメイド!?」
「そう。しかも銀髪の美少女メイド。初めはどこかのメイド喫茶の買い出しかと思ったんだけど、近くにメイド喫茶なんて無いし。さらに開化くんと一緒に買い物してたの」
「「………」」
あまりの情報量の多さに、三人はフリーズしてしまう。
「え、えっと。つまり開化くんは金髪美少女の幼馴染と銀髪美少女のメイドさんがいて」
「大人びて落ち着いた雰囲気を纏っていて」
「銃を持っていて、騎士でも太刀打ちできない相手と戦闘が出来る」
何とか情報を整理するが、それでも意味が分からず考え込む。
「……なぁ思ったんだけど、もしかして開化ってヤバい組織の一員とかじゃないか?」
九貫がかなり正解に近い答えをだす。
「ヤバい組織って?」
「えっと、ヤクザとか?ほら、銃とか持ってたし」
「それはいくら何でも……」
「いや、意外と間違っていないかも。僕の予想だと開化くんはどこかの組の跡取り。だからメイドがついている。そして忍田さんも別の組の跡取り。そして二人は組同士を繋ぐ存在。たとえば婚約者とかね。けど表立って関係を晒すわけにはいかないから忍田さんはただの幼馴染と言って誤魔化している」
「な、なるほど。すごいね風間くん。なんか探偵みたい」
「い、いやそんな大層な物じゃないよ」
風間はメガネを上げながら、照れ隠しをする。
「まっ、風間が言ってることが合ってるかどうかは分からないだろうな。開化も忍田さんも無事でいるとは思えないし」
「そ、そんなこと!?」
不知火はそんなことない、と言おうとするがミノタウロスに襲われた恐怖を思い出し、言葉が続かない。
「今は二人の事より、私たちの事だよ。どうする?」
不知火を気遣い水瀬が本題に戻す。
「そうだね。とりあえず下手に動かない方が良いと思う。方法は分からないけど国は僕たちを操るすべを持っている」
「なら一人になるのは危険だね。常に二人以上で過ごした方が良い。けど動かない訳にはいかないよね」
「その通りだ。だから王国側に悟られないように味方を増やさないといけない」
風間と水瀬が話し合っているのを、不知火と九貫は呆然と見ている。
「二人とも凄いね」
「作戦は二人に任せておけば良さそうだな」
程なくして風間と水瀬の話し合いが終わり、作戦を共有する。
「とりあえず懇がおは二人以上で行動すること。それと王国側に見つからないように少しずつ他の子たちと話していこう」
「「了解」」
この後四人は少しずつだが味方を増やしていった。だが全員を味方につけることは出来ず、月影による王国襲撃の日を迎えた。
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