第54話 勇者の保護

 真たちと分かれた空と姉川は、勇者たちがいる食堂に向かった。


「真からの情報によると、こっちか」


「さすが真くんだね。突然異世界に飛ばされたっていうのに、ここまで情報を集めるなんて」


 現在進行している作戦の大部分は、真が異世界に居た僅かの期間で集めた情報を元に組み立てられている。

 王城や王都内の地図。誰がどの時間にどこに居るのか、細かく正確に大量の情報を真は持ち帰っていた。


「本当にあいつ、凄いですよね」


「ほんとにね。……空くん、その言葉そのまま真くんに言ってあげなよ」


「嫌ですよ。あいつを直接褒めるとか、絶対バカにしてきますよ」


「そんなことないと思うけど。……でも空くんがそう思うってことは、真くんとそれだけ近い距離の関係ってことなんじゃないかな」


「そうですかね。……着きましたよ」


 空は食堂と書かれた部屋の扉を開ける。


「……誰?」


 中に入ると、高校生たちから視線を向けられる。


「俺たちは月影。……日本から君たちを助けに来た、警察とか自衛隊みたいなものだ」


「すぐに家に帰れるから、安心して、私たちについてきて!」


 空と姉川が呼びかけると、高校生たちの半数ほどが何処か虚ろな目で立ち上がり二人に近づく。


「それは出来ません」


「えっと、どうしてかな?」


「俺たちは勇者。王国のために戦う勇者。だから侵入者であるあなたたちを倒す!」


 虚ろな目をした高校生たちは剣や杖を構える。


「……これは、結構やばい展開ですね」


「だね。真くんの報告通りともいえるけど。さて、どうしようか……」


 二人は武器を向けてくる高校生たちをどうやって無力化しようかと思考を巡らせる。

 そんな中、一人の女子生徒が声を上げる。


「みんなやめてよ!」


「……不知火さん。なぜ止めるんだ?」


 声を上げた不知火は、虚ろな目をした生徒たちの前に立つ。そんな不知火に続いて、正気を保っている生徒たちは虚ろな目をした生徒たちを止めようとする。


「聞いてなかったの?この人たちは私たちを助けに来てくれたんだよ!なのに武器を向けるなんて間違ってるよ!!」


「そうだよ!私たち帰れるんだよ!戦う必要なんてない!」


 正気を保っている生徒は不知火と水瀬の言葉に頷き、虚ろな目をした生徒たちを説得しようとする。

 だがその程度では魔道具による洗脳は解けない。


「不知火さんたちこそ何を言ってるんだ?僕たちは王国に召喚された勇者だ。王国のために戦うべきだろう」


 不知火たちの言葉は全く届かない。言葉での説得が失敗した以上、残った手段は武力行使のみ。


「これはもうどうしようもないな。姉川さんプランBで行きましょう」


「だね。私たちについてきてくれる子、こっちに来てもらえるかな」


 姉川の言葉で、正気を保っている生徒は姉川のもとに集まる。そして空は生徒たちが移動している内に走り、扉や窓を閉めて密閉空間を作る。


「一体何を?」


「ちょっと作戦が合ってね。これ、みんなに渡して」


 姉川は月影製のバッグからガスマスクを取り出し、生徒たちに渡す。


「分かりました。……そのバックのどこにこんな量のマスクが入ってたんですか?」


「その辺は企業秘密。ちゃんと着けてね」


 姉川に言われるままに生徒たちはガスマスクを装着する。


「姉川さん、扉と窓閉め終わりました」


「ありがとう。はい、空くんの分のマスク」


 姉川からマスクを受け取り、空もガスマスクを装着する。

 そして全員が装着したことを確認し、姉川はバッグから金属の筒を取り出す。


「みんなしっかりマスク着けておいてね!」


 姉川は筒を開け、虚ろな目をした生徒たちに向けて投げる。

 すると筒の中からガスが噴出される。


「な、なんだこっ!?」


「いきなり眠気が、」


 噴出された睡眠ガスを吸い込み、虚ろな目をした生徒たちは次々とその場に倒れていく。

 そして全員が倒れたところで、姉川と空は生徒が確実に眠ったことを確認する。


「よし、ちゃんと寝てるね」


「こっちも確認できました。ただこの人数を運ぶのはさすがにきついですね。応援を呼びます」


 空はインカムで別部隊に応援を要請する。


「あ、あの倒れてるみんなは?」


「大丈夫。眠ってるだけだから。今使ったやつだと二、三日は眠りっぱなしかな」


「な、なるほど」


「一応後遺症とかは残らないから、安心してね」


 姉川は筒を回収し、窓を開けてガスを外に逃がす。


「姉川さん、すぐに別部隊が来てくれるそうです」


「そっか。それなら応援が来るまで待機しよっか」


「はい。しかし、こいつらが問答無用で襲い掛かってこなくて良かったですね」


「そうだね。洗脳されてるって言っても、人を襲うのは怖かったのかもね」


「俺らと違って、普通の学生ですもんね」


 空と姉川は眠っている生徒の武器を回収し、応援が来るのを待った。


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