第52話 王国最強

 城の中に入った異能部隊は、作戦第三段階のために真、セイラ、いばら、そして黒仁のチーム。空、姉川のチームに別れる。


「じゃあそっちは頼むぞ」


「あぁ、任せておけ」


「みんな気を付けてね」


 真たちは城の上層階、空たちは食堂を目指した。


「外ってどうなってるのかしら?」


「今は第三部隊が騎士たちを引き付けてくれているよ。僕たちは僕たちのやるべきことに集中しよう」


「う、うん」


 初めての任務で緊張しているいばらに、黒仁はいつものように落ち着いた声色で緊張をほぐさせる。

 そうして城の中を上がっていくと、一人の騎士と遭遇する。


「早くも騎士団長のお出ましか」


 遭遇したのは王国騎士団、騎士団長ガルド=ソラウド。以前の野外訓練とは違い、最高級の装備を整えた、正しく王国最強の男だ。


「生きていたのか。荷物持ち、治癒士」


「それはこっちのセリフだ。牛相手に気絶した騎士団長様」


 召喚された勇者としてでは無く、月影異能部隊隊長として、真はガルドと対峙する。

 そんなガルドは無表情のまま、大剣を構える。


「反応が無いと寂しい物だ。随分強力な洗脳みたいだな。……ここは俺がやります。トップたちは先に行ってください」


 真は前に出ようとすると、それより先にセイラが前に出る。


「マスター、私にやらせてください。マスターを侮辱したあの男、私が潰します。なのでマスターたちが先に行ってください」


 真は後ろを向き、セイラの頭に手を乗せる。


「……分かった。殺すなよ」


「イエス、マスター」


 セイラからの返事を聞き、真はいばらと黒仁を連れて先に進む。

 そして残ったセイラは外套を脱ぎ捨てメイド服をあらわにし、二本のナイフを構える。


「さて、マスターを侮辱した罪、償ってもらいます」


「………」


 ガルドは無表情のまま構えていた大剣を振り上げる。


「【覇剣】」


 大剣を振り下ろすと、その検圧に魔力が乗った、飛ぶ斬撃がセイラを襲う。


「珍しい技ですが、私の前では無意味です」


 セイラはナイフを振るい、飛ぶ斬撃を切り裂いた。

 続けてセイラはガルドのもとに一瞬で移動、ナイフを振る。


「【覇盾】」


 ガルドは無表情のままスキルを発動させ、周りに魔力の盾を作り出し、セイラのナイフを防ぐ。


【覇剣】、【覇盾】この二つはガルドの持つスキル、【覇者】の持つ力だ。

 その力は魔力を様々な形で具現化させるもの。


「このナイフで切れない?妙な力を使いますね」


 ナイフを防がれたことに驚き、セイラは一度距離を取る。


「【覇剣】」


 ガルドは大剣を振り、斬撃を飛ばす。


「同じ技ですか。そんなもの通じませんよ」


 セイラはナイフで斬撃を切り裂いた、はずだったが、


「っ!」


 セイラの目の前には間髪入れず斬撃が迫り、再びナイフをふるが、メイド服の裾の部分が僅かに切れた。


「……なるほど。その斬撃、連続で放つことも出来るわけですか」


 セイラはナイフを消し、ふとももに括り付けた金属板を取り出す。


「【形状変換】」


 異能を使い金属板を細長い金属の棒に形を変える。そしてガルドに向けて金属の棒を投げる。


「【覇盾】」


 ガルドは再び魔力の盾を作り出し、魔力の盾によって金属の棒が弾かれる。

 そんな魔力の盾に向かってセイラはナイフを出現させながら走り、その勢いと共に魔力の盾にナイフを突き立てる。

 勢いが加わったことで、【覇盾】に【真価武装】のナイフの刃が食い込む。


「壊れなさい」


 セイラはナイフを持つ手に力を込め、【覇盾】を破壊する。続けてガルドに向かってナイフを振るう。

 だがガルドは顔色一つ変えず、大剣を振り上げる。


「……『火炎ノ魔剣』」


 ガルドの振り上げた大剣は、炎を纏う。

 ガルドの持つ剣は『魔剣』と呼ばれる魔道具。王国の中でも最高級の力を持つ武器、『火炎ノ魔剣』、その剣は炎を宿す。


 ガルドは『火炎ノ魔剣』をセイラに向かって振る。


「炎の剣ですか。ですが剣ならば!」


 セイラは左手のナイフで『火炎ノ魔剣』を抑える。そして右手のナイフを消し、剣が炎を纏っていない部分、剣の持ちの部分に触れる。


「【形状変換】」


 セイラの異能により、『火炎ノ魔剣』の形が変わり始める。


「……燃え盛れ」


「っ、熱い!」


 だが完全に形が変わる前に刀身を大きく燃やし、セイラは剣から手を離し、ガルドから離れる。


(……あの剣、よっぽど特殊な素材が使われているみたいですね。【形状変換】でもすぐに形を変えることが出来なかった。ダンジョンもそうですが、異世界というのは面倒ですね)


 セイラ右手にナイフを出現させる。そして『火炎ノ魔剣』を観察し、深く深呼吸をする。


「ふぅー。……やりますよ」


 セイラはガルドの様子を見ながら走り出す。だが真っすぐ突っ込むことはせず、何かを狙っているように、観察をしながら走る。


 そんなセイラに向けて、ガルドは『火炎ノ魔剣』を振る。


「【覇炎剣】」


【覇者】と『火炎ノ魔剣』の力を合わせ、飛ぶ炎の斬撃、【覇炎剣】を放つ。


「なるほど。そういう事も出来るわけですか」


 観察重視にしていただけあり、セイラは危なげなく【覇炎剣】を避ける。


「【覇炎剣】」


 ガルドは何度も『火炎ノ魔剣』を振り、【覇炎剣】を放ち続ける。

 セイラはそんな【覇炎剣】を避け続ける。だが避けることに神経を使い、近づくことは出来ていない。


(もう少しですかね)


 だがセイラは焦ること無く、機会をうかがいながら走り続ける。

 そしてその時は来た。


「【覇炎剣】」


『火炎ノ魔剣』を振るが、その火力は明らかに落ちている。

 何度も大技を使った結果、ガルドの魔力が尽きかけている証拠だ。


(いまですね。叩き潰す!)


 セイラは観察を止め、攻めに転じる。


「【覇炎剣】」


 セイラは向かってくる【覇炎剣】を避けながら、ガルドに近づく。


「【覇炎、……」


 ついにガルドの魔力が尽き、『火炎ノ魔剣』は力なく空中を斬る。。


「魔力切れですか。……哀れですね」


 セイラはガルドに向けてナイフを振る。

 だが魔力が切れていても剣を振ることは出来る、ガルドは炎を纏っていない『火炎ノ魔剣』を振り、ナイフに抵抗する。


「そうきますよね。【形状変換】」


 セイラが異能を発動させると、両手のナイフが銀色の魔力を纏う。

 そうして魔力を纏わせたナイフを連続で振り、『火炎ノ魔剣』を破壊した。


「っ!」


 魔剣を破壊されたことで、さすがのガルドも驚きの表情を見せる。

 魔剣は通常の武器より強度も高い。そんな武器を破壊できたのはセイラの異能、【形状変換】の力だ。しかし普通に異能を使うだけでは破壊が出来なかった。

 そこでセイラは、ナイフに纏わせることにより、最初に【形状変換】で魔剣を僅かに削り、その僅かな傷に向けてナイフを叩き込むことにより、魔剣に複数の傷を入れ、破壊することに成功した。

 この技、名付けるならば『武器破壊ウエポンブレイク』と言ったところだろう。


「あなたが斬撃に炎を纏わせていたことから思いつきました。力も技術もあるのに、今のあなたでは実力を十分に出せていない。哀れですね」


 セイラは『武器破壊』によって、ガルドの鎧を破壊しながら的確に腕や足を斬る。


「っ、ぐっ!?」


 セイラの一瞬の攻撃で、ガルドはその場に倒れる。


「……魔力を使い過ぎましたね。すぐにマスターたちのもとに向かわなと」


 セイラは息を吐き、前を向く。そして走り出そうとした瞬間、ガルドが声を発する。


「姫、様……お助け、しなくて……は」


 ガルドは僅かに言葉を残し、気を失った。


「……あなたが気にする必要はない。マスターは優しい人ですから」


 セイラは真のもとへ走った。

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