第49話 王国に向けて

 野外訓練から一週間が経った。その間にシオンは勇者のメンタルケアに追われていた。


 野外訓練以降、勇者たちは死に対する恐怖でロクに戦うことが出来なくなっていた。

 そんな勇者たちをシオンは『支配の瞳』のレプリカや独自の技術で洗脳を強化し、何とか勇者を使える状態まで精神を回復、もとい支配した。それでも一部の者はまだ戦闘を拒否している。


 そんなこんながあり、シオンの疲れは溜まりに溜まっていた。


「今日も、疲れた~」


 シオンは大きなため息を吐きながらベットに倒れ込む。


「勇者たちのケア、戦争の準備、普段の業務、……過労で死ぬ」


 シオンはベットから起き上がり手帳を開く。


「本来の予定だと勇者召喚から二カ月以内には帝国に攻め込むはずだったけど、……このままだと予定を後ろ倒しするしかなさそうですね」


 シオンは手帳を閉じ、再びベットに体を預ける。


「そういえばそろそろ勇者たちの夕食の時間ですね。……まぁ問題はないでしょう……」


 シオンは目を瞑り、眠ろうとした瞬間、複数人の足音が聞こえてくる。

 そんな足音とともに、扉がノックされ、答える前に開かれる。


「姫様!」


「アン。一体何があったの?」


「敵襲です。現在、王城が複数人の侵入者から襲われています」


「何ですって!?」


 シオンの脳裏にはあの日の光景が蘇る。


「一体何が、……お母様は!?」


「すぐに騎士たちが警護に向かいました。姫様も避難を!」


「……ダメよ。お母さまが最優先だわ。アン、私と一緒に来て」


 シオンは装備一式を身に着けながら、シオンにお願いする。


「っ、姫様。万が一にも姫様の身に何かあれば、この国はおしまいです」


「分かってるわ。けど、ここで戦わなければ何もかも無駄になる。だからアン、命令です。私と一緒に来なさい!」


 シオンからの命令に、メイドアンは膝をついて頷く。


「承知いたしました。私の命に代えても姫様を守ります」


「えぇ。……行きましょう」


 シオンとアンは、部屋の外へと出た。







 __________


王国襲撃の十数時間前。


(月影視点)


 王国に向かった二機の飛行機の内の一つ、真たち異能部隊に加えて黒仁を乗せた飛行機内では作戦の最終確認が行われていた。


「と、作戦は以上。何か質問は?」


 黒仁の質問に、いばらが手を上げる。


「目的の場所にはどれくらいで着くの?」


「正直目的地まで完璧な距離が分かっていないからおおよそになるけど、……約七時間くらいだね」


「七時間。ダンジョンからここまで二、三日かかったし、やっぱり空からは早いな」


 空の言葉を聞き、黒仁は端末に入っている報告書を見る。


「ダンジョンか。確か報告にあった魔物が大量に出現する場所だったね。それと空くんの報告だと突然真たちの位置が変わったともあったけど」


「はい。その時は突然反応が動きました。レーショウたちがいなければ真たちの救出は遅れてましたね」


「あの時はマスターの反応がいきなり近づいてきましたからね」


「『はい。あの時は本当に驚きました』」


「……確かに。ダンジョンの中で移動した距離と実際の距離がかなり違って驚いた」


「ダンジョン。聞けば聞くほど不思議な場所だね。これは異世界の調査も慎重に行かないとね」


(……義姉さんが聞けば兄さんと僕を引き連れて調査したんだろうな。二人ともこの世界のどこかに)


 黒仁は窓の外を眺めた。




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