第45話 姫の苦悩
野外訓練の日。
リフレイト王国の姫であるシオン=リフレイトは王座の間で騎士から野外訓練の様子を聞いた。
「……以上です」
「なるほど。新たなダンジョン。そして勇者が二人ほど行方不明ですか」
報告をした騎士は顔をうつむかせ、怯えながらシオンの言葉を待つ。
「……そのダンジョンの様子は?」
「すぐに確認しに向かいましたが、その時にはすでに入り口が消えていました」
「…………分かりました。優先すべきは勇者様方の精神の安定です。しっかりと戦えるように指導しなさい」
「はっ!承知しました!」
「では下がりなさい。また何かあればすぐに報告を」
「はい。失礼します」
騎士が部屋から出て行ったのを確認し、王座に腰をかけて深いため息を吐く。
「新たなダンジョン、勇者二人行方不明、騎士団長の負傷、勇者たちの精神状態の確認……今日一日で起きた面倒事が多すぎる」
シオンは今後やらなければならないことを考える。
(まずはダンジョン。戦争を控えている今、特殊な武器、魔道具が手に入れば強力な力になる。それに勇者の訓練にも使えると思ったけれど、低層階にミノタウロス。それに突然現れて突然消える入り口。昔本で見たことがある、特殊なダンジョン、
それは古の時代から存在するダンジョン。意思を持ち、世界中の至るとこに出入口を作る。ラビリンス内の空間は歪んでおり、十分歩くだけで一時間歩かなければつかないような場所に出ることもあれば、逆に一時間歩いても出た先が入った場所のすぐ近くであることもある。
そして当然だが出口が見つからず、ラビリンスに住む強力な魔物に殺されてしまうこともある。
(ラビリンスを扱うことが出来れば私たちの目的に大きく近づける。けれどラビリンスを勘定に入れるのは危険すぎるし入り口は消えてしまった。今は考えから除外しよう)
シオンは再びため息を吐き、次の事を考える。
(次は行方不明になった勇者二人。名前は忍田いばらと開化真。忍田いばらは【治癒】の使い手でしたね。【治癒】……試しておくべきでしたかね。ですが異世界人に弱みを見せるわけにはいきません。それに彼女には薬も洗脳も効きませんでしたし)
「洗脳が効かないと言えば開化真もでしたね。彼は勇者の中でもひときわ異彩を放っていた。それに報告よると異世界の武器を使った。……彼からは私と似たものを感じた」
それは二人が初めて話した時のこと。シオンは真の眼を見た。
その眼の中には黒く暗い闇が宿っていた。
「彼の眼の闇は、私がこれまでに見てきた人とは比べ物にならないほどに深かった」
さらにはシオンが持つスキル、【
その能力は視力の上昇。裸眼のまま数百メートルを視認したり、近距離ならば相手の一挙手一投足の全てをその眼に捉えることが出来る。
さらにシオンは、幼い頃から王族として多くの人を見てきた。その経験から、感情の動き、それに合わせた瞳の動き、手の動き、わずかな体の傾きなどから相手の精神状態、感情、心を読むことが出来る。
そんな技術と【千里眼】。さらに意識を混濁させるような薬を使うことでシオンは人の行動を自身が思うように誘導することが出来る。それは一種の洗脳とも呼べる。
「まぁ二人ともラビリンスの中で行方不明ですし今更どうこう出来るわけでもない。勇者たちは、……死の恐怖でどうなってるか分からないから、とりあえず現状を確認してから。でも死の恐怖で心が弱っているなら、逆に洗脳をさらに強めるチャンスになるかもしれない」
シオンが思考を回していると、扉がノックされる。
「……入りなさい」
「失礼いたします」
玉座の間に赤髪の若いメイド、シオンの専属メイドであるアンが入ってくる。
「アン、どうしたの?」
「王がお呼びです」
「お父様が?……分かった、すぐに行くわ。あ、いくつか書庫から持ってきてほしい物があるんだけど」
シオンが持ってきてほしい本を伝え書庫の鍵を渡す。
「承知しました。ではお部屋にお持ちしますね」
「お願いね」
アンが玉座の間から出た瞬間、シオンは深いため息を吐く。
「お父様が私を呼ぶなんて……」
シオンは玉座から立ち上がり、王が居る王妃の寝室に向かった。
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玉座の間から歩き、シオンは国王の居る王妃の寝室の前に着く。
シオンは三回ほど扉を叩く。
「シオンです」
「……入れ」
生気のない男の人の声を聞き、シオンは扉を開ける。
「失礼します」
シオンは王妃の寝室に足を踏み入れる。
そして少し歩くと、巨大なベットの上で眠る長い青髪の女性。眠っている状態ではあるが、その女性が美人であることは分かる。その女性こそがシオンの母親。国王の妃である王妃。
そしてベットの横で椅子に座りながら眠っている女王を見つめる三十代後半ほどの年齢の金髪の男。彼こそがリフレイト王国の国王。シオンの父親。
だがその顔には生気がなく部屋に入ってきた娘を見ることなくただひたすらに王妃の顔を見て手を握っている。
「お父様。お母様の容態はどうですか?」
「変わっていない。あの日からずっと。良くも悪くもな」
国王は王妃の手を握る力を強める。
「勇者は、計画はどうだ?」
「……順調です。このまま勇者が力を付ければ計画の第二段階である帝国との戦争も問題なく勝つことが出来ます」
「そうか。……シオンよ」
国王は王妃から目を離し、シオンに目を向ける。
「必ず成功させよ。それが、」
「それが私たちの願い。分かっています。また家族で笑って過ごせるように、必ずやり遂げます」
国王は話は終わりだと言うように再び王妃に目を向ける。
シオンはそんな父と母を見た後、寝室から出た。
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