第40話 忍田家の話し合い

 待機という命令が出たが、門のある場所に残ったのは空、姉川、ロウガ。空と姉川は設備の調整や設置の手助け、ロウガは異世界で技術部隊の護衛。

 そして真とセイラは荷物を纏めるために、いばらは月影のことについての話し合いのために黒仁と共に自宅に戻った。


「家まで送ってもらってありがとうございます」


 真とセイラは車に乗る黒仁に向かって頭を下げる。


「気にしないでくれ。君たちがしてくれたことに比べたら些細な事だよ。真、レーショウ、本当にありがとう。また明日連絡をするよ」


 真とセイラは黒仁といばらが乗る車を見送り、家の中に入った。




 _______


 真とセイラを送り、自宅に着いた黒仁は後部座席で眠るいばらに声をかける。


「いばら、いばら。家に着いたよ」


「ん、うぅん。家?」


 眼をこすりながら車を降りる。そして目を覚ますと黒仁と共に家の中に入る。


「ただいまー。この言葉言うのなんだか久しぶり」


「ただいまー。帰ってきたぞシャル」


 リビングの中に入ると、二人に向かって女性が駆け寄ってくる。


「二人ともおかえりぃぃ~」


「うわっ!お、お母さん、びっくりした」


「それは私のセリフよ!全くもう、本当に、良かったぁ~」


 いばらは抱き着いてきた母親を抱きしめ返す。

 いばらの母親はいばらと同じ綺麗な金色の長髪、整った顔立ち、まるでモデルのようなスタイル。彼女の名は忍田シャルロット。黒仁の嫁にしていばらの母。

 ちなみにシャルロットの旧姓はシャルロット=フルール。忍田を名乗っているのはシャルロットの祖父が日本人であり、日本に住むにあたり使いやすい祖父の名字を名乗っている。


「お腹空いているでしょ?ご飯用意してるから、早く食べましょ」


 三人はテーブルに着き、食事を取る。本日の忍田家の食事は一般的な日本食。白米、味噌汁、焼き魚、卵焼き、その他にもいくつかの料理が並んでいる。


「美味しい。お城の料理も美味しかったけどやっぱりお母さんの料理が一番」


「へぇー、いばらは異世界のお城で料理を食べたんだ」


「うん。でもなんか変な味がする料理もあったわ。世界が違うから味覚も違うのかしら?」


 いばらの言葉に、黒仁とシャルロットは顔を見合わせて苦笑いをする。


「やっぱりあなたの子ね。異世界の毒すら効かないなんて」


「僕だってここまで体質が娘に受け継がれてることに驚いてるよ。しかし、異世界の毒か。すぐに真の報告書を確認した方が良さそうだな」


 話をしながら食事を終え、三人は食後のお茶を飲む。そして落ち着いたころ、いばらが口を開く。


「……お父さん、そろそろ話して欲しいんだけど」


「そうだね。いつまでも長引かせるわけにはいかないし。いばらはどこまで知ってるのかな?」


「真から聞いたのは、お父さんが月影っていう裏組織のトップであること。叔父さんと叔母さんが月影に所属していて異世界転移に巻き込まれたこと……」


 黒仁とシャルロットは頷きながらいばらの話を聞く。


「こんな所だけど」


「ほとんど真から聞いているね。これは僕から話すことはあまりなさそうだ」


「なら私から一つ聞きたいことがあるの」


「何かな?」


「私の記憶を消した理由を教えて欲しい」


「……」


 黒仁は黙り込む。そんな黒仁の手をシャルロットは握る。


「娘のお願いよ、教えてあげたら?」


「そうだね」


 黒仁はゆっくりと話し始める。


「記憶を消した理由は裏世界から遠ざけるため。実を言うと月影のことは時期を見て話すつもりだったんだ。けどその前にいばらと真は裏世界の人間と接触してしまった。裏世界のことはさすがに七歳の子供には早すぎる。だから記憶を封じた。そして記憶を思い出さないように月影のことを話さないことにした」


 黒仁はため息を吐く。


「親としては知らないでいて欲しかった。真を見ていると特に、あの子は平気で無茶をするからね。これで納得してもらえたかい?」


「……うん」


「良かった。それじゃあここから本題だ、いばらはこれからどうしたい?」


「どうしたいって?」


「これからのことだよ。高校生活を送りたいなら転校の手続きを取ろう。月影のことを忘れたければまた記憶を消そう。それ以外でも、いばらがやりたいことがあるなら僕たちは全力で応援する」


「……」


 いばらは自分の手を見つめる。


(私がやりたいこと。私が、私は……)


「私は、真みたいに明確な目標があるわけじゃない。強くもない。それでも、私は少しでも力になりたいから。……私は月影に入りたい」

 

 いばらは決意の籠った目を向ける。


「……わかった。ただし月影うちは厳しいぞ?」


「うん。それでも助けになりたいから」


「そうか。……なんだか懐かしいな」


 黒仁は今のいばらをかつての真と重ねて笑みをこぼした。


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