第33話 車内の会話
真たちは車に乗り込み月影の門へと帰る。その道中の車内で月影異能部隊の面々が情報共有をしていた。
なおセイラといばらの話し合いの結果、車内は運転席に空、助手席を姉川、後部座席は右がセイラ、真ん中に真を挟んで左にいばら、ロウガはトランクから顔を覗かせている。
「あなたがトップ、忍田黒仁さんの娘さんよね?」
姉川は後ろを向き、いばらに話かける。
「はい、そうですが……あなたも父の仕事関係の人ですよね?」
「そうだよ。私は姉川支静加。真くんたちの先輩で、ここに来るまでは技術開発部っていうみんなが使ってるバックや武器なんかを作ってる部署に所属してたんだ。よろしくね」
「は、はい!……あ、私も自己紹介した方がいいですね。私は忍田いばらです。お父さんや月影のことは本当に最近知ったばかりでよく分からないんですけど、よろしくお願いします」
「いばらちゃん、よろしくね。それでこっちの運転してるのが、」
「空信夜だ。真の同期で前は実行部隊に所属していた。まぁ、よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
淡々とした自己紹介にいばらは少し戸惑う。
「空くんはいつもこうだから気にしないでね。ちなみに実行部隊は月影の中で一番人が多くて色んなことを請け負ってる部隊。映画にいるスパイとかが一番イメージに近いかな。あとはセイラちゃんとロウガくんだけど……」
「私はすでに済ませています」
「『我も軽くですが終えています』」
「そっか。じゃあ自己紹介はとりあえず終了だね。他に聞きたいこととかあるかな?」
姉川の質問にいばらは首を横に振る。それを見て、「なら俺が」と真が口を開く。
「姉川さんは技術開発部だから分るけど、どうして空がこっちに来たんだ?」
「何だ?俺じゃ不満か?」
「まさか。逆だよ、お前みたいな優秀な奴を寄こしたことに驚いてるんだ。前はどこの部隊に居たんだ?」
「……第三部隊の副隊長だ」
「お前、本当よくこっちに来たな」
「俺もいろいろあるからな。ほらこれ」
真は空から封筒を受け取る。
そして真が封筒を開ける横で、いばらが疑問をぶつける。
「さっき言ってた第三部隊って何?」
「第三部隊っていうのは複数ある実行部隊の一つだ。部隊は数字が小さくなるほど優秀な奴が集まる」
ちなみに真が異能調査部隊に入る前は第零部隊。一人で数部隊分の働きをする真の父、拳一のために作られた特殊部隊に所属していた。
「つまり第三部隊の副隊長ってことはかなりすごいの?」
「すごいぞ。それに空はまだまだ若いからな。このまま行けば出世コース間違いなしだったはずだが……」
「若いってお前が言うかよ……」
真は封筒に入っていた紙を取り出し目を通す。
_____
異動通知書
実行第三部隊副隊長 空信夜
貴殿を異能部隊への移動を命ずる
月影トップ 忍田黒仁
_____
「なるほど。お前完全に異動になったのか。もしかして姉川さんも?」
「うん。私も同じような異動命令を貰ったよ」
姉川はバックから空と同じような封筒を取り出て見せる。
「なるほど。でも異動命令なんて受けて良かったんですか?」
「私は全然良かったよ。直接真くんの力になれるし、近い位置から先生たちを助ける手伝いが出来るから」
笑顔で言う姉川を見て真は姉川に手を差し出す。
「……やっぱり母さんはいい後輩を持ちましたね。改めてこれからよろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
姉川は真のと握手を交わす。
「それで、空の方は?お前ならそう遠くない内に第一部隊にも行けただろ?トップからの命令だし断るのは難しかっただろうが、それでも他の奴を寄こすなり方法はあっただろ」
「……お前やっぱり俺のこと嫌いなのか?」
「何だその面倒な彼女みたいな言葉。ただの純粋な興味だよ」
空はため息をつき、口を開く。
「……お前の言った通りトップの命令だからな断るわけにもいかない。それに第一部隊に行くには一度海外に行かないといけないからな。だがお前の手伝いをすればそれをせずに第一部隊に行けるという条件も出された。そんな訳でこれからはお前の手伝いをすることになった」
「ほぉー、トップがそんな条件を出すとはな。……お前まだ何か隠してないか?」
「何が言いたい?」
「いや、何となくだがお前が何か隠してる気がしただけだ。言いたくないのならわざわざ聞かないが」
「……はぁ~。お前本当に鋭いよな。確かに今行ったのが全てじゃないが、別にお前が知らなくても問題は無い」
「そうか。まぁ空がそう言うなら深くは聞かないが……」
真は姉川に目を向ける。そんな真からの視線に気づき、姉川がバックから端末を取り出す。
「実は月影内で出回ってる面白い映像があるんだよね。繋ぐから少し待ってね」
姉川が端末とカーテレビを繋げようとする。
「ねぇ真。さっき空さんが言ってた第一部隊に行くのに海外に行かないといけないってどういうことなの?」
「あぁそれか。実行部隊で上の部隊に上がるには推薦を受けるかその部隊で実績を積むしかない。つまり第一部隊に上がるには第二部隊で実績を積まないといけない訳だが、その第二部隊が海外にあるんだよ」
「なるほどね。……どうして空さんは海外に行きたくないのかしら?」
「さぁな。どうしてなんだ空?」
空は今日何度目かのため息を付きながら答える。
「妹がいるんだよ。ちょうどお前らと同じくらいの年齢のな」
「あぁ、そういえば昔そんなこと言ってたな」
「つまり妹さんのために海外に行かないってことですか?」
「そういうことだ。数日程度ならいいが、さすがに何年もとなると不安なんだよ。たった一人の家族だからな」
「たった一人。それって……」
いばらは気まずそうな顔をする。
「まぁ月影ではよくある話だ。月影の構成員には月影が運営している孤児院出身の人が多くいるからな」
月影は裏組織。そんな組織が表立って人員を募集するわけにはいかない。ではどうやって人を集めているのかと言えば、一つは構成員の家族、主には子供が入る。これは真やいばらが当てはまる。
だがそれ以上に多くの人を集めているのが孤児院で才能のある子供を入れること。月影系列の孤児院では数いる子供の内才能のある子供を月影に入れている。もちろん強制ではなく任意に。
孤児院は十八歳を過ぎると居られなくなるので、危険があるが金が稼げてお世話になってきた月影に恩返しが出来るならと誘いに乗る子供はたくさんいる。
他にもスカウトによって月影に入る者もいるが、それはかなりのレアケースでセイラがこれに当たる。
「俺と妹は幼い頃に親を交通事故で亡くした。だが俺たちには親戚と言える人が一人もいなかったからな最終的に月影の孤児院に入った。妹が通ってる学校は孤児院からは遠いから俺が住んでる月影管理のマンションに一緒に住んでる訳だ。ちなみに妹は月影については知らない」
「知らないんですか?」
「月影は裏の組織だからな。知らない方が幸せなこともたくさんあるんだよ。叔父さんや叔母さんがお前に話さなかったみたいにな」
「そっか……」
いばらは自分のことを例に出されて納得したように頷く。
そうして空の話を聞いている内に姉川の方の準備が終わった。
「……よし準備完了。それじゃあそんな妹さん思いな空くんが頑張ってる姿を映そうか」
「え?姉川さんもしかしてその映像って!」
「ではスタート!」
空が止める前に姉川が再生をはじめ、映像が流れだした。
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