第32話 異能部隊の戦い
真が森の中に入った後、セイラたちは周りを囲んでいる猿たちを対処している。
「真価解放の強化ってあんなに速かったっけ?」
いばらは森の中に入った真の移動速度の速さを見て首を傾げる。
「『あれが我の真価武装、【超身体能力強化】の力です』」
「超身体能力強化、そんな力もあるのね。……今更だけど、あなた狼なのに喋れるんだ?えっと、名前は……」
「『我は狼のロウガと申します』」
「狼って結構丁寧な自己紹介するのね。私は忍田いばら。よろくね。改めだけど、ロウガはどうやって喋ってるの」
「『正確に言うと声は発していません。我の異能、【念話】により考えていることを直接伝えているんです。人間の言葉は【念話】と共に得た【言語理解】の異能で分かるので』」
「すごいわね。……異能を二つ持ってるの?」
「『そうですが、【言語理解】に関しては異世界転移に巻き込まれた全員が共通して持っている能力ですよ?』」
「そうなの?あ、でも確かに異世界なのに言葉通じてたわね。異能の力だったんだ、……っ!?」
いばらとロウガが話していると、いばらの顔の横を銃弾が通り過ぎる。
「いつまで話しているんですか?」
銃を降ろしながらセイラが二人に近づく。
「『申し訳ないセイラ殿。そろそろ動かねば空殿に負担が掛かってしまいますね。では我は奴らの相手をしてきます』」
ロウガは近づいてきていた猿たちに向かって走り、真価解放により強化された牙や爪を容赦なく振るう。
「あなたもせっかく銃を渡したんですから使ってくださいよ」
「え、ええ、ごめんなさい。けど、さっき銃弾が私の顔の横を通ったことは何も言わないの?」
「……当たっていなくて良かったですね」
「悪いとは思ってないのね?」
「かすりもすれば謝りましたが、わざとでは無いので謝るつもりはありません」
「開き直った!?……今更だけど銃ってどうすればいいの?」
「トップのご息女なのにそんなことも知らないんですか?」
セイラはバカにするような感じではなく純粋にどうして?という気持ちで首を傾げる。
「銃以前に月影とかお父さんの事とかも最近知ったばかりよ。……でも昔お父さんに遊びでエアガン?みたいなのを撃たせてもらったことはあったわね」
「なるほど。英才教育というやつですね。ならその時のことを思い出して、敵を狙って引き金を引いてください。当たらなくても牽制になればいいので」
セイラは手本を見せるように近づいてくる猿たちに向かって引き金を引く。すると銃弾は明後日の方向に飛んでいき、離れた場所に居た猿に直撃する。
「………」
「………あのように、敵が多ければ当たる可能性も高くなるので、気負わずに撃ってください」
セイラは先ほど狙った猿を再び狙い引き金を引く。放たれた銃弾は明後日の方向へ飛び、誰にも当たることなく森の中へ消えていく。
「……あなた、もしかして射撃苦手なの?」
「……確かに撃てば何故だか銃弾は明後日な方向へ飛んでいきますが、マスターからは「お前はナイフが使えればそれでいい」と言われるくらいには問題ありません」
「つまり苦手なのね」
「……」
セイラは気まずそうに眼をそらす。そんなセイラの様子を見て「やっぱり苦手なのね」といばらは納得する。
「今は私よりもあなたのことです。引き金を引けば弾が出るので、よく狙ってくださいね」
「簡単に言うわね。やってみるけど」
いばらはロウガが気を引いている猿の一匹を狙う。
「すぅ―、!」
いばらは吸う息を途中で止め、集中した状態で引き金を引く。
放たれた銃弾は真っすぐと猿に向かい、猿の胸を打ち抜いた。
「よし。……!」
いばらは再び集中し、次は二度連続で引き金を引く。
放たれた二発の銃弾はそれぞれが狙った対象を打ち抜く。
「ふぅ~。これ結構緊張するわね」
一瞬で三体の猿を倒したいばらは息を吐いて腕を下ろす。
「どうだった?」
「そうですね、初めてとは思えないほど正確な射撃でした」
セイラは冷静な分析の結果をいばらに伝える。いばらはセイラが正直に褒めてくれるとは思わなかったのか驚いた表情をしている。
「そ、そう?まぁこれなら何とか戦えそうだわ」
「そうですか。それなら私は私の戦い方をするので、援護をお願いしますね」
セイラは左手に銃を、右手にナイフを持ち猿たちに向かって走る。
「ちょっ、いきなり!?」
セイラはいばらの驚く声を聞き流して近くにいる猿をナイフで切りつける。
「まず一つ」
セイラは続いて左側から襲ってきた猿に向かって銃を突き出し、至近距離で発砲。さすがにかなりの至近距離なので外すことも無く銃弾は猿に命中する。
「二つ」
セイラは次の対象に目を向けると、森の中から増援の猿がセイラを襲う。
セイラは銃を向けて対処しようとするが、それより先に猿たちに向かって数発の銃弾が飛び、次々と倒していく。
そんな銃弾の飛んできた方向を見ると、銃を構え、どこか自慢げな顔をしているいばらの姿がある。
セイラはそんないばらの顔を見て銃を下ろすと共にいばらに向けてナイフを投げる。
「ひっ!?」
「キッ!?……」
投げられたナイフはいばらの顔すれすれの横を通っていばらを後ろから狙おうとしていた猿に直撃する。
いばらは後ろを向きナイフが刺さった猿を見てセイラが何をしたのか理解してほっとしたのか深く息を吐く。
セイラは特に表情を変えることなくいばらの方へ歩き、猿に刺さったナイフを回収する。
「素晴らしい射撃でしたよ」
「ありがとう。そう言うあなたは射撃よりも投擲の方が向いてるわね」
「自負してます」
二人が話をしていると、
「おーい、こっちに誰か手助けしに来てくれ!いきなり数が増えた!」
前方で姉川と共に戦っている空の声が聞こえてくる。
「……ロウガ」
「『分かりました。我が行きます』」
ロウガは一瞬で周りの猿たちを切り裂き空たちの元へ走る。
そしてロウガが居なくなると共に、二人を囲うように猿たちが森から出てくる。
「どうやらまだまだ敵がいるようですね」
「そうね。弾薬足りるかしら?」
「……銃を貸してださい」
いばらは自分の持っている銃を差し出し、逆にセイラの銃を受け取る。
そしてバックからマガジンを取り出すと、いばらに教えるようにリロードをする。
「どうぞ。このバックも渡しておくので次からは自分でやってください」
「ありがとう。あ、これ」
いばらはセイラから銃とバックを受け取るとセイラの銃を返そうとするが、セイラは受け取りを拒否して片手にナイフを、もう一方の手には【形状変換】により作った金属の棒を持つ。
「私はこれでいいので、それはあなたが使ってください」
「そう言うことなら使わせてもらうけど、……そういえば私たち自己紹介をしてなかったわよね?」
「そういえばそうでしたね」
「あなたは私のことを知ってるみたいだけど私はあなたこと全然知らないのよね。だから軽く自己紹介をしましょう。私は忍田いばら。あなたたちのトップの娘らしくて、真の幼馴染。いばらって呼んでくれていいわよ」
「私は月影異能部隊副隊長セイラ=レーショウ。
二人は背中を合わせ、近づいてくる猿たちに向けて銃を撃ち、金属の棒を投げて処理していく。
「メイド、メイドねぇ。その割には真にベタベタし過ぎじゃない?」
「いばらほどではないですが長い間一緒に居ましたから。それに、マスターは私に道を示してくれた人、私を救ってくれた人。だから常に隣にいるのは当然のことなんです」
「救われた。……そっか、あなたも私と同じなのね」
二人は互いに背中を合わせたまま、全ての猿を倒し終えた。
「これで、おしまい?」
「ですね。ロウガたちの様子を見に行きましょうか」
二人はバックやホルスターに武器をしまい、ロウガたちの方へ歩く。
「あ、二人ともお疲れさまー」
姉川が車に背中を預けながら二人に声をかける。
「お疲れ様です姉川さん。無事終わったようで何よりです」
「うん。なんとかね。いきなり森の中から増援が来たときは驚いたけどロウガくんが来てくれたから何とかなったよ。けど久々の戦闘はキツイね」
姉川とセイラが話していると、二人の近くの木々が揺れる。その瞬間姉川は銃を構えようとするが、セイラがすぐにそれを制止させてじっと森の中を見る。
「お疲れ。無事に終わったみたいだな」
「はい。マスターもお疲れさまでした」
木々を揺らしていたのは木の枝の上を跳んで移動していた真。
そして真がセイラたちの元に着くと同時にロウガと空が近づく。
「『主!お疲れ様です!』」
「お疲れロウガ。お前の真価解放、役に立ったよ。ありがとな」
真とロウガは纏っていた光を解く。
「『主のお役に立てて何よりです』」
真はロウガの頭を軽く撫でるとロウガは嬉しそうに尻尾を振る。そしてそんなロウガをセイラといばらは羨ましそうに見る。
「猿たちの死体は片付けたから、とりあえず車に戻るぞ」
空の言葉で、真たちは車に向かって歩き出した。
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