第23話 異世界探索

「ここが異世界ですか」


 車に乗り門を抜けたセイラたちは、車の中から異世界の風景を眺める。


「『それで主はどちらに?』」


「少し待ってくれ。このナビによると、東のほうだな。ただ距離が分からない。近くにはいないようだがな」


 空はナビを見ながら車を走らせる。

 さすがは月影の社用車なだけあり整備されていない道も順調に進んで行くが、真の反応がある位置まではかなりの時間がかかりそうだ。

 そうして移動していると日が沈む。いくら月影の車と言っても、整備されておらず地図もない夜道を移動するのは危険なので、安全を取って野宿をすることにした。


「昼過ぎから移動したとはいえ、真の場所までは全然近づけてないな」


 空は端末を確認してため息をつく。


「これって反応を示すだけだから、明確にこれくらいの距離っていうのが分からないんだよね」


「はい。門の周辺はロボットが情報収集して地図を作ってましたけど、この辺りは地図なんて一切ないですから目印にできる物もありませんからね」


「だね。さすがに一カ月かかるとは思わないけど、具体的な日数が分からないと不安だね」


 空と姉川は二人して大きなため息をつく。

 一応車には半年ほどは持つ量の燃料や食料が積まれてはいるので物資の心配は無いが、


「セイラちゃんの心、持つかな?」


 現在セイラはコーヒーを飲みながらロウガと話している。

 そんなセイラが昨晩真の名前を呼び続けている事を知っている姉川は心配そうな目をセイラに向ける。


「姉川さんどうかしましたか?」


 そんな視線に気づいたセイラが姉川の方を向く。


「ううん。別に大したことじゃないんだけど……その、セイラちゃん大丈夫?」


 セイラはなんのことかと首をかしげたが、すぐに昨晩のことを思い出して心配をしてくれていると思い至る。


「大丈夫ですよ。この世界に来てから、マスターとの繋がりが感じ取れるようになったんです。そうですよねロウガ」


「『はい。主との繋がりは確認できます必ずこの世界で再会ますよ』」


 二人は真の異能【真価解放】により真との間に見えないパスが繋がっている。

 パスは真との絆が強いほど強固になり、パスが強固なほど真価解放による能力の強化が強くなる。

 そんな真価解放の能力の副産物であるパスは、繋がっている者と真の位置を感じることが可能となる。


「二人がそう言いうなら、真くんもちゃんと見つかるね。さて、明日に備えて寝よう!」


 そうして空は車内で、セイラと姉川は設置したテントで、そしてロウガは一晩見張りをすることになった。

 そんなセイラと姉川がテントで寝る準備をしていると、セイラが自分のバックから枕を取り出す。


「セイラちゃんそれって私物だよね?もしかして枕が変わると眠れないとか?」


 セイラ首を横に振り、枕を抱きしめながら答える。


「いえ、これはマスターの物です。先ほど荷物を整理していた時に気づいたのですが、マスターの物をバックに詰めていた時に一緒に入れていたみたいです」


「そ、そっか。まぁ突然のことだったしセイラちゃんも急いでたんだね。それで……その枕使うんだ?」


「はい。これがあれば、マスターが近くにいなくても眠れそうなので」


 そう言いながら枕を強く抱きしめるセイラを見て、姉川は「セイラちゃんが寝れるならそれでいいか」と少し現実逃避気味に目を閉じて眠りにつくのだった。




 __________


 車を走らせ日が落ちては野宿をして眠るのを繰り返し、セイラたちが異世界に来てから一週間、真が異世界に来てからは八日目となった。現在は広い高原を走っている。


「空くん。反応の方はどう?」


「確実に近づいてはいます。ただもう二、三日はかかりそうですね」


 空はハンドルを握りながらため息をつく。

 そして姉川は外を眺める。すでに日は高く上り時間はお昼。いったんお昼休憩をとる提案をしようと後部座席を見る。

 するとセイラとロウガが顔を見合わせている姿が見える。


「二人ともどうし……」


「「マスター(主)が、近くにいます!!!」」


 二人はそろって叫ぶ。


「うぉ!?びっくりした。いきなりなに言い出すんだ?」


 空は二人の大声に驚き車を急停車させる。

 そんな空の言葉が聞こえていないのか、二人は車から飛び降りると一目散に走り出す。


「ちょっ!二人ともー!あんまり離れないで!」


 姉川は急いで二人を追いかけようとする。

 だが二人は意外なことに車から少し離れたところで止まり、目をつむって集中する。


「「…………」」


「二人ともなにを?」


 姉川が二人に追いつき声をかけると、二人はしばらく黙ったまま、突然目を開く。


「あっちです。あっちにマスターを感じました」


 セイラが指をさすのは今まで向かっていた方向とは少しずれた方角。

 同じ方向をロウガも見つめているので、間違いはないのだろう。


「姉川さん……」


「分かってる。でも一度車に戻ろう。作戦会議しないと」


 すぐにでも真の元に行きたいというセイラの思いをくみ取りながらも、姉川は冷静に判断し二人を連れて空の元に戻る。


「空くん。行き先、変更だよ」


「姉川さん。いきなり走り出したり、行き先変更とか言い出したり何を……」


「空さん。マスターの反応はどれですか?」


「まてまてレーショウ。それじゃない、俺がやるから」


 勝手にナビを操作しようとするセイラを制止し、空は真の反応を調べ始める。


「ん?反応が移動してるな。それもすごい勢いで。……ちょっと時間をくれ。移動先を特定する。今のうちに昼食でも食べててくれ」


 姉川たちはナビを操作する空の言葉に従い、車から降りて昼食をとる。


「ようやく。もうすぐマスターと……」


「セイラちゃん。そんな急いで食べると詰まらせるよ。って言っても仕方ないか。ずっと会いたがってたもんね」


 姉川は毎晩枕に顔をうずめるセイラの横で、セイラが突然寝言で真のことを呼ぶ経験をし、その身と多少の寝不足により、セイラがいかに真に会いたいのかを知っている。


「『姉川殿』」


「ん?どうしたのロウガ」


 姉川は携帯食料を口にしながらロウガの方を向く。

 ロウガはすでに食料である肉を平らげた後で口周りに少量の血がついている。


「『姉川殿は主の母君と知り合いなのですよね?我は主がどのようなお方かは熟知していますが、ご両親が月影においてどのような人なのかと興味がありまして』」


 真の両親。父親は現在地月影トップ忍田黒仁の兄であり、母は技術開発部で研究をしていた。そして、二人とも真をかばう形で異世界へと転移させられた。


 ロウガとセイラ、真に強い恩義を感じ、真のことならなんでも知りたいと願っている二人でも、さすがに本人に親のことを聞くのはためらわれていたのだ。

 それでも真の両親は月影の中でも古参であり、かなりの実力者だ。月影に所属しているだけでかつての二人の逸話や伝説話は聞こえてくる。


「そうだね。まだもう少し時間がかかりそうだし話そうか。月影最強の二人、鬼神と狂科学者マッドサイエンティストの伝説を」




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