第22話 月影異能部隊の狼
セイラたちが地下に着いた次の日の昼。ようやく異世界に向かう準備が整った。
「
その瞬間、部屋の中心にある機会が作動し、異世界に繋がる門が開く。
「数値正常、門の安定を確認。あと数分で転移可能となります」
「ようやくですね。……これで助けに行ける」
門を見て喜ぶセイラ。そんなセイラの目の前に一台のロボットが移動してくる。
そんなロボットを見て三人は首をかしげていると、ロボットから半透明なディスプレイが現れ、そこには月影トップである忍田黒仁の姿が映る。
「やぁ、レーショウ、空、姉川」
「トップ?なぜ映像で?」
セイラは突然出現した映像に映る黒仁に困惑し質問をする。
「レーショウ、本当なら僕だってすぐにでも真といばらの安否を確認しに行きたい。けど僕には月影のトップとしてやらなくてはならないことが数多くある。だから僕はこうした形ではあるが君たちに異世界への道を示し手助けをする。それが親でありながら月影のトップとして出来る最大のことなんだ」
黒仁は表情には出さないが、言葉の節々から自らの手で助けに行けないという悔しさが伝わってくる。
「君たちにはこれから前人未到の異世界に向かってもらう。それにあたり、こちらから支給する物がある」
黒仁の言葉に合わせて、頭にトレイを乗せたロボットが近づいてくる。
トレイには端末が四つ乗せられている。
「それは異世界用に作られた端末だ。それがあれば異世界でも連絡を取ることが出来る。他にもレーショウや真の持つ指輪と同じように異世界に居ても位置情報の把握が可能になる」
各々が端末を手に取り、セイラが四つ目の端末を大切そうにしまう。
「そしてもう一人、いやもう一匹君たちに同行する者がいる」
「もう一匹?……それって!?」
驚くセイラを横に、空と姉川は一匹という言葉に首をかしげる。
そんな三人の後ろから、すごい速度迫ってくる足音がする。
それに気づいた三人が後ろを向くとともに、近づいてくる足音がダンッと大きな音を立てて三人を跳び越す。
そして目の前に現れたのは、一匹の狼だった。
「お、狼!?こいつも月影の?」
驚く空の疑問をセイラは頷いて返す。そして狼はセイラの顔を見て、
「『久しぶりだなセイラ殿』」
喋った、狼が。
さすがに人の言葉を話す狼は見たことがないのだろう、空や姉川だけでなくその場に居るセイラ以外の全員が声を失っている。
「久しぶりですねロウガ。まさかあなたが来るとは」
「『うむ。本来は別の任務中だったのだが、
そうして話しているセイラとロウガの様子を見て、ぽかんとしていた全員が正気を取り戻す。
「えぇっと、セイラちゃん。その子は何者なのかな?」
姉川の質問にセイラが答えようとするのを、ロウガが止める。
「『セイラ殿、自己紹介は我の口からさせてくれ。我は月影異能部隊所属のロウガ。三年ほど前に異世界転移に巻き込まれた狼だ』」
「異世界転移に巻き込まれたって、真くんやセイラちゃんと同じ!?」
「『その通り。我は幼き日に家族と共に異世界転移に巻き込まれ、
____________
(真、セイラ 当時13歳)
それはセイラが月影の訓練を終えて、任務に出始めて間もない日のことだった。
二人は真の異能とセイラの素性の関係から、常に同じ任務を受けることになっていた。
今回の任務はとある国の山林地帯で確認された異世界転移の調査。
二人は雪の積もった山奥で調査をしていた。
「セイラ、そっちはどうだ?」
「……異常なしです。マスター」
二人はわずかに距離を開けながら木の枝と枝を忍者のように跳び、無線で連絡を取り合う。そんな風に移動をしていると、突如二人が持つ装置が反応する。
「マスター!」
「あぁ、行くぞ!」
二人は人間離れした身体能力で木々を跳び移り、反応がする方に向かった。
________
山奥にて、数匹の狼が群れをなして雪道を駆け抜けていた。
「ワウッ、ワウッ(親父、弟たちが遅れています)」
「グルルッ(む、仕方ない。一度休憩にするか)」
先頭を走る一番体の大きい狼が止まり、それに合わせて他の狼たちも止まる。
そんな狼たちは各々休んだり水を飲んだりと休憩をとる。その中で二番目に大きい狼が、父と呼んだ狼に近づく。
「ワウ、ワウッ!(親父、最近森の中の動物が不自然に減っています。聞くところによると不自然な光を見たものがいるとか)」
「ガルッ……ガウッ(そうか。……少し辺りを見てくる)」
「ワウッ!(いえ、親父は弟たちを。我が確認してきます)」
二番目に大きい狼は群れから離れる。
そしてしばらく辺りを散策したがこれといったものは見つからず、群れに戻る。
だが戻った先では、
「ガルッ!?(なんだこの光は!?)」
「ワウーッ!(なんだこれ!?兄上!)」
狼の親父や弟たちの足元が光り、まるで透明な壁でもあるのかその場から逃げようとしても光の場所から逃げようとしても何かにぶつかり逃げられないでいる。
さらに、
「ワウ!?(なんだ!?我の足元にも光が!?)」
狼の足元も光だし、すぐに逃げようとするが謎の壁に阻まれて逃げることができない。
やがて親父と弟たちの方の光が強くなり、体が消えていく。
「ワウ!(親父!弟たち!)」
狼は叫ぶが、光が止まることは無い。
そのまま完全に体が消えようとした瞬間、二つの人影が近づいてくる。
「セイラ!」
「イエス。マスター!」
人影の正体は真とセイラ。
二人は木の上から狼たちに向かって飛び降り、セイラは数本金属の棒を親父たちと狼の二つの光に向かって投げつける。
が、親父と弟たちの方は一足遅く消えてしまう。だが狼の透明な壁には棒が突き刺さる。
「……申し訳ありませんマスター。破壊にはいたりませんでした。片方は
セイラは空中で辛そうな顔をする。
対して真は、
「了解だ」
表情を一切変えずに、狼を見据える。
「まだ間に合う。まだ救える!」
真は地面に着いた瞬間に全力で地面を蹴って狼に急速で近づく、そして拳を握りしめ透明な壁を殴りつける。
「壊れろ!」
真はセイラが突き刺した棒で出来たヒビを狙い、さらに力を込める。
「壊れろっっ!!」
その瞬間、真の拳は透明な壁を破壊した。
そのまま真は狼を横に抱えすぐに移動をしようとする。だがその瞬間、狼が居た光の中から光の手が飛び出し、真たちに襲い掛かる。
「マスター!」
セイラは光の手に向けて鉄の棒を投げ、光の手は消滅する。だがすぐに新しい手が光の中から出てくる。
「ナイスだセイラ。上に逃げるぞ!」
真は狼を抱えながら、セイラと共に木の枝に跳び乗る。
さすがに木の上までは届かないのか、光の手はしばらくその場でうろうろすると、透明な壁と共に消滅する。
「………」
「………光の消失を確認しました」
木の枝の上で、セイラが報告をする。
そんなセイラの言葉を聞き、目の前で起こったことにようやく頭が追いつい狼は空を見上げる。
「ワオーンッ!!!(みんなぁーっ!!!)」
泣く狼の叫びが森中に響いた。
しばらく狼が泣き吠えるのを聞き、ようやく落ち着いた狼を抱えて真とセイラは木の枝から降りる。
地面に着いた瞬間に狼は真の腕から離れる。そして光があった場所に駆けて行くがすでにそこには何もない。
「『う、うぅ。親父どの、弟たち……』」
泣く狼を見ながら真が近づいていく。
「……お前名前は?」
狼は声をかけられ、相手が自分を助けてくれた相手だと改めて認識すると、涙を振り落として真に向きあう。
「『……我に名はありません。それと、我を助けていただき感謝します』」
そうして頭を下げる狼を見て、真は「やっぱり」とつぶやく。
「マスター、周りに変化はありませんでした」
「そうか。ご苦労様。さて自己紹介をしようか。俺は開花真。月影異能部隊者の隊長だ。さっきお前が巻き込まれた現象の調査をしている。それでこっちが…」
「月影異能部隊所属、セイラ=レーショウです。私もマスターもあなたが先ほど巻き込まれた現象、異世界転移の被害者です」
「『異世界、転移……』」
真とセイラは狼に異世界転移についての説明をする。
「『なるほど。つまり親父と弟たちは別の世界に連れ去られたと』」
「そういうことだ。そして異世界転移に巻き込まれた俺たちは、特殊な能力が使用できる。お前の言葉が俺たちに通じてるのは、お前が得た異能の力だろうな」
狼は真たちとあまりに自然に話してたせいで気づいていなかった言葉通じていることに今さら気づき、自分が異能を持っているということを自覚する。
「さて、色々と話したところでお前に聞きたい。お前は家族を助けたいと思うか?」
真のその言葉。思いがこもった質問に狼は自分の強い思いを込めて答える。
「『我は、我の家族を助けたいです!』」
その答えに真は頷き、狼に向かって手を伸ばす。
「それなら俺たちについてこい。俺たちと共に家族を異世界から救い出そう」
狼は真の手に自分の手を重ねる。
「『よろしくお願いします。我が主』」
____________
「『こうして我はロウガという名を主にいただき、月影異能部隊に所属しているわけです』」
「なるほどね。前々から異能部隊が三人っていうのは聞いたことがあったけど、まさかそのうちの一人が狼とはね」
「真のやつ、しばらく会わない間にそんなことをしてたのか……」
ロウガの話を聞き、ちょうど時間もたったところで準備が整った。
「門の解放完了。上昇させます」
その言葉と共に、セイラたちと門の足場がエレベーターのように上昇し、これまで居た部屋の一つ上の階層に移動した。
「さて、最後に僕の方から君たちにお願いだ。真といばら、そして異世界転移に巻き込まれた人々を救ってきてくれ!」
「「「はい!」」」
セイラたちは黒仁の言葉に力強く頷く。
そしてセイラたちは設置されていた車に乗り込み門に入った。
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