第21話 異世界の門
「私の場合はこんな感じだったね」
姉川が話を終えた車内は、なんとも言えない雰囲気になる。
「姉川さんも真に助けられたんですね」
「そうなんだよね。先輩としては情けないけど」
姉川と空は共に真に助けられたことを思い出しため息をつく。
そんな二人の心情を気遣ってか、セイラは話題を変える。
「それで現在姉川さんは開発部に?」
「うん。もうしばらく前線には出てないよ。ただ今回は真くんのピンチって聞いてね、それと現地で解析が出来る人が欲しいって聞いて立候補したんだ。うちの部の部長は研究室から出てこないからね」
「開発部の部長ですか。そういえば私たちが持っているバックはその部長が作った物だと聞いたことがありますが……」
セイラの言うバックとは見た目以上の量の物が入る特殊なバックのことだ。
「うん、部長はあのバックの他にもいろんな物作ってるよ。ただ同じ開発部の私たちでもその理論とか内容とかは完全に理解できてないんだけどね」
そんな風に会話をしていると、ナビが目的地に着いたと伝える。
「目的地みたいですね。無駄に遠回りさせやがって」
空は悪態をつきながら車を止め、全員が車から降りる。降りた場所はどこまでも広がる草原だった。
「建物の一つもないね」
「そうですね。目的地ここで合ってるのか?」
空たちは辺りを見渡すが、目に映るのはどこまでも緑が広がる草原。建物どころか人っ子一人いない。
そうして三人が困っていると、全員が持っている端末に通知が届く。
端末には地図が送られてきていた。
「この地図に示されてるのは……地下か?」
空は近くの地面を見ると不自然に草が生えていない場所を見つける。
その地面の土を軽く払うと、小さな鉄の持ち手のようなものが現れる。その持ち手を開け、中にあるスイッチを押す。
すると地面が開き、車一台分ほどの大きさの鉄の地面が現れる。
空たちはそんな大掛かりな装置に多少あきれながら車に乗り込み鉄の地面まで移動すると、鉄の地面がエレベーターのように下がっていく。
「なんて面倒な仕掛けを……」
かなり地下深くまで下がり、ようやくエレベーターが止まり扉が開くと先には大量の車が止まっている駐車場が現れる。
空はぎっしりと並べられている中で開いているスペースを見つけ、車を止める。
そして三人は車から降りると、腰ほどまでの高さのロボットが近づいてくる。
「こいつは、月影の自立型ロボットか」
ロボットはまるでついてこいとでもいう風に先導し、空たちはロボットの後を歩く。
地下には多くの部屋があるが、これまで人には一人も合わず、すれ違うのは全てロボットだ。
しばらく歩いたところでロボットが止まり、目の前には巨大な扉がある。
「この先が目的地ってことか」
三人が扉のすぐ前まで近づくと扉が自動で開く。
扉の先では数人の白衣を着た人たちやロボットが忙しそうに駆け回り、その中心には巨大な機会が設置されている。
三人が部屋に入ると、一人の白衣を着た女性が近づいてくる。
「空さん、姉川さん、レーショウさんですね。トップからお話は聞いています。どうぞこちらに」
三人は女性に連れられ奥の部屋に案内される。
その部屋には大量のグラフやメーターが表示されており、正面にある巨大なスクリーンには広大な草原が映されている。他にも小さな画面にいくつも似たような風景が映し出される。
「この映像は?」
空が女性に聞く。
「これは異世界の映像です。以前門を繋いだ時に向こうに送り込んだロボットたちから映像を得ています」
女性が機械をいじり画面を切り替えると、巨大な木や、空飛ぶ竜のような影を映す。
「……それでその門はどこにあるんですか?」
これまで黙っていたセイラが冷たく重い声を発する。
「……申し訳ありません。まだ門の安定化は出来ておらず、人を門に通したことが無いんです。なので安全性を考慮しあと一日ほど、お時間をいただきます」
女性はセイラに頭を下げる。
セイラはそんな女性を見て少し落ち着いたのか、一度息を吐き女性に頭を下げる。
「すみません。すこし冷静さを欠いてました。あと一日、それで異世界にいけるんですね?」
「はい。あと一日いただければ、安全性にはまだ多少の不安が残りますが異世界に行くことは可能です」
セイラはその言葉に頷き、モニターに目を移す。
「……だとすると、今日はここに泊りってことか」
「はい。今からお部屋に案内しましょうか?」
女性が聞くと姉川と空は顔を見合わせ、姉川がセイラに声をかける。
「セイラちゃん、どうする?」
「……先に部屋に案内してもらいましょう。また後でここに来てもいいですよね?」
「はい。もちろんです。他にも様々な設備を備えておりますので後ほど端末に地図を送ります。もし迷うことがあれば、近くのロボットに端末をかざせば案内してくれますので」
そんな説明を聞きながら、セイラたちは部屋に向かった。
________
部屋はそれぞれ一人ずつに与えられ、姉川とセイラは隣の部屋、空は離れて男性の部屋が集まった場所の一室が与えられた。
三人はそれぞれ地下を見て回ったり、配られた携帯食料や缶詰などを食べたりし、今は各々の部屋で休んでいる。
そんな中、セイラは一人自室で指輪を眺めながら真のことを思う。
「マスターが異世界に転移させられて半日。……マスター、マスター。マスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスター」
セイラは虚ろな目をしながら呟いていると、扉がノックされる音がする。
「……はい」
セイラが扉を開けると扉の前には姉川が居た。
「姉川さんですか。どうしたんですか?」
姉川はセイラの顔を見て頭に?を浮かべる。
「えっと、隣の部屋からすごい声が聞こえてきたからどうしたのかなって思ったんだけど……」
「声、ですか?私は聞こえませんでしたけど?」
そのセイラの言葉を聞くと、姉川は驚きというよりも若干引いた感じの表情をする。
(まさか、無意識?確かセイラちゃんは真くんをマスターって呼んでるんだよね。つまりセイラちゃんは無意識的に真くんを呼んでたってことだよねっ!?)
姉川はひとまずそれは置いておいてと話を変える。
「セイラちゃんここに来てからずっと異世界の風景見てたから少し心配でね。あ、これさっき貰って来た飲み物」
姉川は袋からジュースを取り出す。
「ありがとうございます。立ち話もなんですし中にどうぞ」
「うん。おじゃましまーす」
セイラはベットに座り、姉川は椅子に座る。
二人は飲み物を飲みながら、会話をする。
「それでセイラちゃんは眠れない感じ?」
「そう、ですね。……私マスターと出会ってから、マスターのいない夜を過ごすのは初めてなんです」
「………」
姉川は静かにセイラの話を聞く。
「異世界転移に巻き込まれた日、私が初めてマスターと出会った日。私はその夜両親を異世界によって奪われた悲しみでずっと泣いて全然寝付けませんでした。そんな私を保護してくれたマスターがずっと手を握って抱きしめてくれて、「大丈夫。絶対に取り返す」って励ましてくれたんです。それから毎晩寝るときには付き添ってくれて、ようやく両親のことで泣かなくなっても、ずっと一緒で……」
セイラはこぶしを強く握りしめて前を向く、その目にはいつもの無表情と違い、強い信念と決意がこもった目をしている。
「私は絶対にマスターを取り戻す。そして、私から大切な人を二度も奪った異世界を絶対に許さないっ」
「セイラちゃん……」
姉川はセイラの手を握る。
「絶対に取り戻せるよ。ううん、絶対に取り戻そう!真くんもご両親も」
「姉川さん……。はい、絶対に」
その日、セイラと姉川は一晩中、ガールズトーク(主に真に関すること)をして朝を迎えたのだった。
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